イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

神と仏の間

和歌森太郎講談社学術文庫。1975年に発行された、史学民俗学の混交した視点から神道・仏教メインの宗教論集。2007年に文庫化。
全体的に論の運び方が丁寧で、史学の資料分析と民俗学の実地調査、両方の利点を活かした論集だといえる。全体のテーマは「日本風土における神・仏の受容」となるのだろうか。個別論を丁寧に追いかけた、短めの各論の間には強い相関関係はないが、筆者の明晰な分析と理解で緩やかに、しかし堅牢にまとまっていると感じた。
大陸での仏教受容や、室町後期の宣教などと対比しつつ日本独特の宗教文化を語るところでは専門外ゆえのフットワークの悪さが散見するが、修験者や地蔵信仰の徹底した分析は、さすが専門家というべき鋭さと細やかさを持っている。ゼロから論をくみ上げる冒険というよりも、史学が積み上げてきた実績を最大限生かし、丁寧な資料分析で随時修正し取りまとめていく方向性である。それを支える分厚い見識が見え隠れする。
かなり地道な資料研究・実地調査が背景にあるが、全体として読みやすい。基本的に事象の調査よりもその背景の分析に力をおいているため、読み物としての結論が付いて可読性が高くなっているのである。かといって資料をおろそかにもしていないし、このバランス感覚はなかなかに見事だと感じた。基本的に各論なので、章ごとに独立して読めるのもよい。
専門性と可読性のバランス、資料と分析のバランス、ともに非常にレベルが高く、論も丁寧で面白い。良著。