イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

戦争の経済学

ポール・ポースト、バジリコ。戦争をテーマに取った経済学の教科書。徹底的に経済の視座と教科書という形態に則ってかかれており、細かなミリタリー・トリビアールにそれることなく、基礎的かつ骨太な論議が続く。
この本はあくまで経済学の初等教科書であり、戦争はテーマにすぎない。ので、ミリタリー系の記述を期待すると大きな肩透かしを貰う。その上で、それを上回る満足を得ることができるだろう。ミクロ・マクロ経済学の基礎的な論理や図表を軸に据え、戦争が経済に及ぼす影響、経済としての戦争、戦争の変化と経済の変化などを分析している。
この分析が非常に簡潔でわかりやすく、かつ丁寧で実に満ちている。難しい数式や論理用語はほとんど使わず、使うとしても逐一解説を行ってくれる。経済学の門をたたく人用に書かれているということが、この本が扱う「経済」と「戦争」への理解を大きく助けているのである。その上で議論は丁寧かつ誠実で、文章としての粗、抜きがない。
その上で、戦争という政治的な事態を扱いながら、特定の立場に偏った記述が一切ないことは特筆に価する。ある意味ドライに、徹底的に経済事象として戦争を扱うこの本の視座は、何かと加熱しがちなこの国の戦争に関する記述の中では非常に貴重なものだし、同時に戦争というモノの知識を手に入れる過程で絶対に必要な視座でもあるだろう。
必要でありながら不足しがちな視点を丁寧に伝えてくれるこの本は、非常に貴重であろう。経済学という学問は徹底的に価値判断を排除するものであるが、戦争を扱うとそのドライさが薄れ、特定の政治主張を強調するプロパガンダになることが多々ある。そういう意味では、この本は経済学の基礎、経済活動を追いかけることを徹底しているだけなのだが、同時にそれは希少なことなのだ。
読みやすさ、内容の深さ共に素晴らしく、特筆に価する。名著。