イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

検証 戦略爆撃機B29

村上八郎、早稲田出版。主に日本海軍(ならびにその空軍兵力)の技術面から、太平洋戦争を分析した本。タイトルにはB29の名前があるが、それだけではなく、レーダーや航空機全般の技術、各種技術を生み出す文化、それを運用する軍部の思想などに踏み込んだ、幅広い太平洋戦争技術論になっている。
筆者は文筆業というわけではなく、一般メーカーの技術者として定年まで勤め上げ、退職した後この本を書いたようである。そういう本はどうしても荒が目に付くものだが、この本は丁寧に資料を調べ、技術を主軸に日本敗戦の経緯を紐解く、独特の視座も有している。もちろん特定技術の発見が即戦争における勝利に結びつくわけではなく、むしろそれが発見され、研究発展され、運用されるさまざまな文脈こそが太平洋戦争の勝敗を分けた、と筆者は論じる。
その論を裏付けるべく、筆者はさまざまな側面から切り込んでいく。タイトルにもなっている、B29による本土爆撃の被害、爆撃に着手するまでの統合的な戦闘戦略、当時の日本の迎撃技術の分析。人類史上初の渡航本土爆撃を可能にしたアメリカの軍事技術力(とそれを活用する政治、産業、文化背景)、ならびに、それを迎撃できない日本の軍事技術力(とそれを活用できない政治、産業、文化背景)。
幅広く統合的なな題材を扱いつつも、筆者の論は細やかな資料発掘とぶれない視座に裏打ちされ、説得力を最後まで維持している。特に、統計資料を丁寧に駆使し、本土爆撃の被害がいかに甚大であり、それに対する日本の対処がいかに壊滅的だったか、を丁寧に解説している部分は、色眼鏡や政治的意図で歪みがちな太平洋戦争分析には、なかなかない論説である。
検証、の二文字に恥じない、丁寧な本である。最後までプロパガンダの匂いがしないのも、好印象であった。良著。