イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

乙嫁語り 3

森薫エンターブレイン。久々に出たフェローズのビッグエース、三巻目。今回は丸々スミスさんの恋と失恋、と見せかけておいて、この作品なりのオリエンタリズムフェミニズムへの出題と途中回答なのではないか、と思う。途中って書いたのは無論、この漫画まだ終わって無いし、スミスの恋路も今後が読めないから。
今までのほほんとした牧歌的半遊牧民生活素敵ステキー、っていう部分重視で描かれていたカフカス前時代が、どろっと重たい閉鎖性と、理不尽な家父長制・女性財産制度を伴って前に出てきた、というのが今回のお話。ここら辺は生活習慣と違って人生にまつわる部分であり、唐突感すら感じるタラスの叔父の介入もあって、ずっしりと胃に痛い展開である。
そこより多分重要なのは、自分の重いとか願いとか全てを略奪されたスミスが、西洋の価値観を持ち出して暴れないことであり、その諦めに込められた理性的なキャラクターだと思う。オリエンタリズムに自覚的な、優秀な学者過ぎるのも考えもの、というのが途中の答えになるわけだ。こっからどう転ぶのは解らないけど、ほおり投げられると収まりの悪い部分ではある。
漫画表現としては、相変わらず頭髪の露出をコントロールすることで、女性性の公私を表現する手法が森薫は巧い。洋の東西古今、現実表現を問わず、髪の毛を見せるというのは女性の数少ないセクシャルな武器だったわけだけど、そこらへんの文脈を踏まえつつ漫画のコマとしてセクシーなものに仕上げるあたり、森薫はやっぱ抜けて巧い。独自だ。
前作であるエマでも、制度との戦いは主軸に据えられたテーマであり、長くかかった闘争でもある。ファーストコンタクトが負け戦に終わるのも、スミスの落ち度というよりは森薫のシリアスさの表れだと思う。でも可哀想だよね、スミスさん。せっかく綺麗なお嫁さんゲットするチャンスだったのに。今後の逆転劇に期待! という三巻目でした。