イマワノキワ

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後宮の烏:第7話『玻璃に祈る』感想

 陰陽相交じる宿命の旅路、決断の先に続く道とは。
 後宮の烏、第7話である。

 前王朝の無念は晴らされ、皇太后の呪詛を払って幽鬼は常世へ……そして現世の律令が改まり、寿雪は追われる立場ではなくなった。
 露骨にタメだった前回の遺産を、一気に使い切るように状況が好転していく様子は、黒く暗い冬が芽吹きの春へと移り変わるかのようだった。
 寿雪にしか解決できない幽界の難問と、高峻にしか変えられない現世の過ち。
 現世の権限を司る夏の王=男の王が、古く孤独に封じられてきた冬の王=女の王へと頭を垂れ、お互いの功績に敬意を払い友として触れ合う、望ましき関係が爽やかに芽吹いた。

 その先には清くも微笑ましく恋心があり……寿雪を運命の檻に閉じ込めている、烏漣娘娘という超常存在をどう御すかという問題は、未だ大きく横たわっている。
 新たな信仰の形を築き上げ、巫女を自由にするか。
 はたまた人界の英雄として神殺しの偉業を成し遂げるか……寿雪と高峻のロマンスにはまだまだ、険しい課題が残っている。
 しかし今は、孤独の定めから解き放たれ、地の繋がらぬ姉、己を敬してくれる友を新たに得た少女を春風に寿ぎたい。
 柳緑にして花は紅……皇帝の責務、烏妃の宿命に縛られず、人としてあるがままお互いを認め合い、進む先にあるのがより善き人生、より良き治世であることを祈ろう。

 

 

 

画像は”後宮の烏”第7話から引用

 さて愛しき側仕えを人質に取られた烏妃は怒りを爆発させ、邪悪な幽鬼を暴力的に祓おうとして、皇帝の手に止められる。
 その優しさは正しく英断であり、事情を聞いてみれば切なくも儚い恋模様、精算されぬ悲劇の残り香が恋人たちを大地に縛り付け、迷わせていたと判る。
 夏の王の正しき諌めがなければ、冰月が倒すべき敵ではなく救うべき依頼人だと解らぬまま、何もかもを燃やしてしまっていただろう。
 後に寿雪の言う通り、素直に事情を話していればするりと片付いた問題であったのに、相手を利用し裏をかく宮廷式のやり口を選んでしまったのは、己と恋人を引き裂いた過酷な運命の記憶故か。

 後宮唯一の霊能探偵である寿雪は、失せ物を見つけ因縁を解きほぐすことで、難題を解決していく。
 冰月と明珠公主の問題でいえば、心残りたる玻璃の櫛のありかを見定め、恋人たちを再び包容させることで、前王朝の霊的残党でもあった冰月を残念なく成仏させていく。
 自身樂王朝の末裔である寿雪にとって、血みどろの因縁を乗り越えて新たな時代を作っていくことは自分自身を守ることであり、しかしそういう卑近な視線よりもうちょい広い視野で、烏妃は事件を見据えている。

 声も出せず探しものも見えず、ただただ妄念に囚われ現世をさまよう哀れな幽鬼達の代理として、現世の問題を解決してやれるのは、この世ならざる世界を見て異能の力を振るう寿雪だけの使命であり、特権でもある。
 冬宮に閉じ込められ他の生き方を選べない苦悩は続くが、しかし持って生まれた霊能……烏漣娘娘寵愛の証を呪うことはせず、むしろ人としてより良い方向に使い、世を正していく助けとして活用している。
 それは国土の長たる皇帝にも出来ない仕事で、現世政治の中心に座る男たちが見落とすモノ……過去、霊界、感情のもつれを見据えて解決することで、寿雪は未解決の無念を晴らし、世界をより良くしていく。
 謎を片付けてハイおしまい、ではなく、謎を生み出す血みどろの過去、精算されていない無念を表に出して、亡者たちの報われぬ思いを良き方向に導くことで、社会全体を良くしていくとこまで、霊界探偵はやってのける。
 ……物言わぬ依頼人の思いを背負って現世を正す、”霊的代理人(アストラル・エージェント)”的な貫禄も出てきたな、寿雪ちゃん。

 

 

画像は”後宮の烏”第7話から引用

 かくして玻璃の櫛を巡る悲恋を決着させた烏姫は、返す刀で皇帝を悩ます亡霊の正体を見定め、力強く一矢を撃ち放つ。
 自身を運命の囚人の選んだ金色の矢に抗するように、皇太后の亡霊を打ち払い、亡霊たちを守護の勤めから解き放つのが”矢”なのが、なかなか面白い。
 地上権力の頂点である皇帝は、母と朋友が己を恨んで迷いでたと思いこんでいたが、真実は愛ゆえの守護者として扉の前に立っていた。
 幽鬼はその思いを直接生者に告げることは出来ないし、生者は死者がどんな思いを抱いて死んでいったのか、知ることは出来ない。
 この断絶を智慧と霊能で埋め、より良き相互理解を果たして残念を払っていくのが、霊能探偵……あるいは現世の裏側を統治する冬の王の勤めである。
 それは皇帝に愛の真実を教え、過去の因縁の重さを考えさせ、より良き治世者としての道を開いていく。
 チャーミングな冬の王が隣りにいてくれてこそ、高峻は歴史の荒波の舳先に立つ現皇帝として、多大な責務を背負うひとりの人間として、より良き判断ができるのだ。
 皇帝の心残りが晴れたのも良かったが、物言わぬ亡霊の愛が正しく果たされ、義人が現世から解き放たれて浄土に旅立てたのが、大変に素晴らしい。 

 

 

 

画像は”後宮の烏”第7話から引用

 この補い合う関係性は寿雪から高峰への一方的なものではなく、夏の王が体現する現世に手を伸ばすことで、寿雪という少女は沢山の幸せを得ていく。
 二つの難題を見事解決し、花娘のしつこい誘いに乗ってみれば珍品嘉肴がてんこ盛り。
 もぐもぐお菓子たくさん食べる寿雪ちゃんを、そらーお姉ちゃん達もニッコニコで可愛がるわな。
 血の繋がりを越えた縁が少女たちに結ばれ、ツンツン振る舞う純情少女が人間としてどう生きればいいか、優しくアドバイスしてくれる”姉”がたくさん出来るの、ホンット安心できる。
 今後もこの、亡霊の無念を放っておけないで走り回る気の良い女の子を、姐さん達が導き見守ってやってください……。

 前王朝の血塗られた悲哀、現王朝を呪う謀略の果て。
 2つの事件を通じ玉座の真実を知った皇帝は、律令を正し烏妃を追う法の呪いを解く。
 そういう大きなシステムの改変で終わらず、一人間として寿雪を前に膝を正し、歴史の影に孤独を強いられた歴代の烏妃を尊ぶ姿勢を見せる。
 そのセに国土全体の権威を背負う立場として、皇帝は無謬にして絶対でなければならないが、しかし高峻は己を改めることをためらわない。
 この率直さは付け入る隙を生む弱腰ではなく、傲慢の高御座にふんぞり返って周囲を顧みない愚かさから、賢帝を遠ざける美質であろう。

 孤高に生き抜いた先代の御霊もこれで報われると、思わず涙を流す寿雪。
 ここで不当に扱われた地位が回復されたことではなく、己の憧れであり第二の母でもあった人の菩提を思って泣くのが、寿雪という少女であろう。
 情がとにかく深いので亡霊の声も聞くし、自分の辛さより他人の思いを優先してしまうという……烏妃向いてねーなホントッ!

 

 不殺、不逆、友好。
 三つの誓いは皇帝の龍衣ではなく、あくまで私人としてかわされ……だからこそ確かな強さを宿している。
 同時に令を発して法を正せるのは高峻が皇帝であるからこそで、公私のバランスを的確にとって、正すべきを正し、為すべきを為す善き人だと思う。
 人としての感情、皇帝としての為政は共にあるべき場所を見つけ、樂王朝末裔を地の果てまで追いかけ殺す時代は、公式に終わりを告げた。
 その決断の裏には、玻璃の櫛に宿った悲恋を霊能探偵の導きにより見届け、自分が立つ玉座がどれだけの血を吸っているのか……だからこそ悲劇を改め繰り返さない思いが、確かに宿る。
 冰月の悲劇を生んだ簒奪者の末裔が、思い出の品に触れて言い訳がないと、寿雪に弔いを預ける配慮……現皇帝はまこと、人品が良い。

 しかしそれで正せるのはあくまで人の領域、現世の大地だけである。
 烏漣娘娘の加護の下、人の思惑を超えた大きなルールで動いている天の采配を、新たに正すにはどうしたら良いのか。
 この難問を解かなければ、可愛いかわいい寿雪ちゃんは運命に囚われたまま、恋も出来ない旅も出来ないで、なんとも無念である。
 真実寿雪に人としての幸せを与え、優しき少女の本分に立ち返らせるためには、神妙なる世界の理を知り、人間代表として新たな誓約を神と結んで、世を改める必要がある。
 それは律令を改めても届かない、神代の英雄の偉業になるだろう。

 

 物語を真実ハッピーエンドに導くためには、高峻は良き皇帝で終わらず、世を大胆に正す稀代の英雄にならなければいけない構図が見えた所で、お話は一旦の幕である。
 面白かった。
 夏の王・冬の王の大きな構図が見えたことで、私人としての寿雪と高峻の高潔な好ましさ、暖かな情が逆に際立ち、主役カップルが是非幸せになってほしいという思いを新たにした。
 人が見落とす亡霊たちの無念を拾い集めることで、現状が善くなっていく描写も多く、霊能探偵の功徳も良く分かった。
 おすまし顔でツンツンしているわりに、感情豊かな食いしん坊が真実幸せにを掴むには、皇帝もまた世界を見渡す智慧を手に入れ、”皇帝探偵”として大いなる謎に挑まなければいけない。
 その道行は、春風のごとく暖かく清らかだ。
 ……好ましき若人二人の青春物語としても、相当完成度高いんだなこの話。
 次回も楽しみです。

 

追記 冬来たりなば春遠からじ。しかし超常の存在は、花開かぬ永遠の冬に少女を閉じ込める。さて、当代皇帝如何に世を変えるか……という所。