イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

REVENGER:第2話『Gold Opens Any Door』感想

 異国情緒溢れる長崎に、染みる黄金と血の赤と。
 末世迫る徳川の治世が掬いきれぬ恨み、晴らして日々のたつきを得る因業稼業のお話、第2話である。
 義父を切り許嫁を失い、もはや冥府以外に帰る場所なし……な雷蔵を、復讐代行業に引きずり込む理と利を描くエピソードとなった。
 幽烟の長広舌は行き場を喪った刃の使い方を雷蔵にささやくが、それが銭金と因業にまみれた薄汚い稼業であることは、当人が一番良く知っている。
 聖堂で行われる狐と狸の化かし合い、恨みの刻まれた金貨に滲む人生のどん詰まり。
 『はらせぬ恨み、はらします』と墨書した所で、利便事屋がどんな仕事なのかはしっかり切り取られ……全てを失い導きを求めている雷蔵には、その生臭い暗さが見えないようになっている。
 この世の果てのなめくじ寝床と、べんがらで飾られた華やかな檻。
 郭を舞台とすることで、色も欲も大して救いにはならない夜の濃さが、よく滲む第2話となった。
 なんもかんもクソまみれだが、それはさておき人は生きている。
 そういう場所のお話なのだと、この話数で理解らせてくれるのはありがたい。

 

 

 

画像は”REVENGER”第2話から引用

 というわけでお話は、雷蔵の悪夢から始まる。
 ひげは伸び放題、命を繋ぐ飯には構いもせず蝿のたかるまま……と、暗い闇の中で絶望に食われている優男の横顔……それが見たかったッ!
 第1話にして全てを失い、復讐を果たしてなお満たされていない主役の姿は、このお話が稼業としていくものがどんだけロクでもないかを、良く語っている。
 悪党ぶっ殺した所で死人は蘇らず、重ねた罪が血で贖われるわけでもない。
 そういう人殺しのハラワタを、死人同然の……しかし死ねずに生きてしまっている雷蔵の有様は良く語っている。

 幽烟と元締めが聖堂で交わす言葉は、欺瞞と異端の匂いがプンプンと薫り、神の代行者として正義の復讐を成し遂げる建前が、生臭い経済として機能している様子も良く教える。
 鎖国禁教に蓋をされて、山中の礼拝堂で発酵……あるいは腐敗したアンゲリア信仰は、『汝の隣人を愛せ』という本文を綺麗に置き去りにして、神の領分を都合よく侵す”死の便利屋”に成り下がっている。
 聖書を的確に引用し偽預言者への不信を表す幽烟だが、彼もまたまっとうな信仰者として立つわけにも行かず、いい塩梅の弁舌で暗殺本部からのツッツキをごまかし、銭をもらって表面を取り繕う。
 殺してくれとしがみつく側も、それを背負ってぶっ殺す側も、媒になるのは兎にも角にも金であり、後に雷蔵におっ被さる理念の煙が屁にもならない事実を、幽烟は既に知っている。
 知った上で殺しを続け、その泥沼に堕ちた侍を引きずり込んでいく。

 善の仮面と悪の素顔の両立は、前回あまり出番がなかった徹破先生にも香る。
 胡蝶の内掛で華やかに飾っても湿った陰気が重たく香る、死病病みの寝床。
 そこで突きつけられる烈火の恨み言を引き受け、金を貰って殺すのが彼の仕事だ。
 医者として、やせ衰えた遊女を癒やすことは叶わず、色と呪いと業が絡み合った場所でただ、即物的で刹那的な終わりをくれてやることしか出来ない。
 衣紋かけの柱が境界線となり、お医者様と患者、復讐代行業者と依頼人、生者と死者、男と女……を隔てているのは、このお話が結構シビアな現実感覚で、殺し仕事を捕らえている現れだと思う。
 リベンジを成し遂げても何かが解決するわけではないし、分厚い境目を越えて何かを手渡し、あるいは受け取る自由は、血に手を汚しちまった悪党には許されていないのだ。

 死後の安寧を約束するはずの葬式代を、抱えて死んでも迷いにしかならない恨みのために使う女の顔は、一足先に餓鬼亡者……つまりはあまりに人間的な形相を浮かべている。
 それと同じ場所に、仁術を生業とするはずの鬼も立っている。
 医者でありながら命を助けることが出来ない徹破は、侍でありながら道を違えきった雷蔵、信仰者のはずなのに現世の柵に囚われきった幽烟と、似た色合いをしている。
 殺しが正しいはずもなく、しかしそれにしがみつくことでしか現世の足場を掴めない、煉獄の住人。
 行く先は天国か地獄か……どこまでも出口のない、現世という檻か。

 

 

 

画像は”REVENGER”第2話から引用

 クソ神父から釘を差されたように、雷蔵をリベンジ稼業に取り込まなければ色々危うい幽烟は、名前の通り理屈と事実でお侍様を煙に巻いて、もう生きる意味がない世界でそれでも生きていく柱として、”正義の復讐”を差し出す。
 事前に礼拝堂の生ぐせぇやり取り、徹破が恨噛み小判を受け取る時のやるせなさを書いておいたおかげで、幽烟が語る理念が……嘘ではないが真実の全てではありえない現実を、視聴者が理解できる作りなのはありがたい。
 死んだほうがマシな地獄に追い込まれて、なお雷蔵の命は繋がってしまっている。
 その終わりない獄から抜け出す導きを、雷蔵はドス黒い闇の中でずっと待っていたわけで、惨め極まる葬列のありさま、そこにせめて血と金の装飾を施すろくでなし稼業の意味は、彼を後悔の冥府から生の岸へと押し出していく。
 たどり着いた場所が、別に天国なんかじゃないのは既に描かれたとおりだ。

 死んだ許嫁との対話を促す幽烟が、どんな腹で……あるいはマリア像を刻んだ背中で雷蔵を取り込んでいるのか、なかなか奥は見えない。
 裏の絡繰りを知っていればそれが救いなんかではなく、都合と我欲にまみれた空言であることは解るが、では全部が嘘っぱちなのか。
 そこら辺は、諸肌脱いて禊を済まし、腹かっさばいて一切合切決着させる侍らしい道ではなく、脇差しでひげを当たった雷蔵迷い道のは手にこそ、多分見えてくるのだろう。
 身だしなみを整え、新たな装束をまとう雷蔵は死んでしまった侍ではなく、生きた復讐代行業者として前に進むことを選ぶ。
 夢に見た幸せな時代に戻ることは出来ないし、いくら水を浴びた所で血と業は拭えない。
 それでも差し出された救いと正しさを身に帯びて、雷蔵は新たな生き方へと進んでいく。
 一見主人公再起の手応えある場面だが、じわじわ滲むろくでもなさを思うと、新たな地獄への洗礼か。

 

 

画像は”REVENGER”第2話から引用

 かくして中天に満月、殺しの頃合いや良し……長崎名物トンチキ絡繰りフル動員、オモシロ必殺タイムだッ!
 徹破が操るプーリー付きのコンポジットボウとか、示現流で鍛え上げた身体能力を最大化する大江戸スパイクとか、オモシロギミック満載で展開される殺しの場面は、陰鬱で出口のないタメを気持ちよくすっ飛ばし、殺戮エンタメとしての完成度が高い。
 しかしまー殺しは殺しで超ろくでもないので、一瞬スッとした後『あー……ダメだなこりゃ……』と思わされる後ろめたさもちゃんとあって、なかなか良いバランスだと思う。
 雷蔵の水垢離といい、オジサンたちのマッスル&セクシーを惜しげもなく暴れさせるサービス精神では、拭いきれないロクでもなさ。
 赤鬼のごとくパンプアップする肉体から放たれた、対戦車ミサイルめいた剛弓には確実に、己の実力を発揮し悪党を殺す快楽が満ちている。
 遊女に落とされた依頼人との、捻くれた関係の行き着く先が、この異形の射精なのはなかなかに面白い。
 ロクでもないなー……最高。

 一足に間合いを飛び越え、人体を両断する剣豪の境地が、蘭学サイバーウェアで更に強化されちゃって、雷蔵くんどんどん手がつけられなくなっているが。
 絢爛な遊郭もまた欲の牢獄として描かれ、鳰くんの前髪がぴらぴらと誘う奥では、必殺の金箔殺が唸る。
 幽烟が必殺キメる度、『人殺しがどのツラで信仰者気取ってんだカスッ!』って気持ちが心の奥でうねるけど、これは今後の展開を見越して、意図して湧き上がらされている反感なんだろうなー。
 『この人も哀しい事情があって人殺しなんですッ!』って、甘えたしがみつきを跳ね除けるように画面も話も作られているし、その湿り気と乾いた感覚の共存も、この作品が持つ強みかなと思う。
 あとまー背中のマリアが哭いている金箔殺は、ロクでもないからこそマジでカッコいい。
 ケレンとトンチキを程よく混ぜて、アクションシーンが重たい作風の出口として機能してるのは、やっぱいい感じだと思う。

 

 

画像は”REVENGER”第2話から引用

 修羅の回向が女郎の慰み……墓石代も恨噛み小判に注いじまった末路に咲く花は、あんまりにも儚く寂しい。
 殺しとセックス、金と虚言。
 人間の生臭い部分を全面に押し出しつつ、医者と葬式を話しの真ん中に組み込んだことで、長崎のリベンジャー達が抱え込むどうにもやるせない人生の渦巻きが、より強く伝わる第2話だったと思います。

 雷蔵は無明にたれた蜘蛛の糸と、幽烟がくゆらす理念にしがみついて生きる道を選んでしまったわけだが、さて血みどろのカンダタが行き着く先は。
 背中にマリア観音背負った色男が、このどん詰りから抜け出す道を知ってるわけでもないことは、既に示されている。
 どっちに行っても迷い道、長崎坂道出口なし。
 来週も、とても楽しみですね。