イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン:第29話『アンダー・ワールド』感想

 奇想飛び交う極限バトル、さらなる混乱へ飛び込むストーンオーシャン第29話である。
 ヴェルサスに引きずり込まれた”アンダー・ワールド”の悪夢を、賢いエンポリオくんのサポート受けつつ真正面から踏み破り、さて”詰み(チェック・メイト)”……と思ってたらヤバいDISCがIN!! して悪魔の虹降臨!! という所まで。
 徐倫サイドがヤバ状況を気迫と正義と友情で乗り越えていく中、スンゴイ勢いで空気悪くなってく神父とヴェルサスの人間関係、どんどんワケ分かんなくなってく”アンダー・ワールド”の異常な状況に反して無茶苦茶生っぽくて、久々に見ると独特の”味”があった。
 アニメで見返してみると、神父はとにかく他人を尊重できない男で、そんな孤独な世界を唯一変えてくれたDIOへの狂信をニトロにして、天国まで一人でブッ飛ぶ奴なんだなと理解した。
 その勢いはDIOの息子たちの精神を月面までブチ上げてもおかしくなかったのに、他人のピンチ見てるだけでマジなんもしねーふんぞり返りで造反を招いて、状況が異様にこんがらがっていく……んだけども、運命に愛されているからかその混乱は神父に有利に働いて、天国はどんどん近づいてくる。
 そんな否定し難い運命を向こうに回して、正義を信じる徐倫達に出来ることとは何なのか、こっから物語は更に掘り下げていくことになる。

 

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第29話から引用

 判事がいきなりキレたりして、ずっと世間の表通りを真っすぐ歩けなかったヴェルサス。
 DIOの血が呼び覚ましたスタンド能力は、他の息子たちと同じく不幸を運ぶことしかせず根性はネジ曲がり、神父と出会って力の制御法を学んでからも、別に精神が真っ直ぐになったりはしない。
 むしろ隣りにいても気に食わねぇ態度に反感が貯まるばかりで、何故自分が”天国”にたどり着いていけないのか、疑念と憎悪が膨らみ続ける。
 謎めいた”天国”を目指す超越的な悪役のはずなのに、ヴェルサスの隣りにいる神父の感じ悪さは異様に生々しく、『そらー裏切られもするわなぁ……』という納得は分厚い共感に満ちている。
 こういう小市民的なクズっぽさが、壮大な野心とか絶大な異能と同居しとるのが、JOJOのラスボスだよなぁ……などと思う。
 荒木先生にとって邪悪とは、常にみみっちく生々しい部分を残すモノなんだと思う。

 他方徐倫は糸の能力を外部への連絡に使い、危険から遠ざけるべく病院の外に保護しておいたエンポリオくんが、獅子奮迅の大活躍。
 ありのままを述べてるだけなのに『はぁ?』としか返せない異常状況をスルッと理解し、確定した事実を勝利の運命に近づけるヒントを的確に出してくれるエンポリオくんは、やっぱり頼れる仲間である。
 徐倫エンポリオくんが大事だから遠くに離したのに、”アンダー・ワールド”に飲み込まれず突破口を開く手助けをしてくれる。
 これまでも”ストーン・フリー”は柔軟で多彩な力を発揮してきたけども、縁を繋いで危機を超えていく”糸”として活用することで、徐倫はヴェルサスの想定を超えていく。

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第29話から引用

 ヴェルサスは自分が乗り越えられなかった後ろめたさや弱さが、徐倫を捉えて壊すだろうと勝手に思い込む。
 刑務所に入れられ真っ直ぐに歩けなくなった自分のように、かわいそうな子どもを犠牲にして生き残り心をすり減らすか、お人好しな正義を貫けず爆死するかしかないと、思考を狭めている。
 しかし徐倫は冤罪でブチ込まれた刑務所の中でこそ、自分がどんな存在で何を成し遂げうるのか、どれだけ強い戦士の心と激しい優しさを持っているかを学び取った。
 そう出来たのは共に闘ってくれる仲間との出会いや、命を賭して愛を証明してくれた父との絆や、そんな中で確かめられた自分の魂の強さあってのことだ。
 ヴェルサスにはそのどれもがなかったし、力を目覚めさせ”天国”へ導いてくれるはずの神父も、隣でふんぞり返って嫌味言うだけだった。
 そんな状況では、人間の気高い魂が一体何を成しうるのか、強い絆で繋がった戦士たちがどんな風に限界を超えていくか、自分の想像力の幅を広げることは出来ない。

 徐倫はか弱い子どもたちを守りきり、確定した事実を逆手に取って全員で生き残る。
 心を砕くはずの犠牲は生まれず、障害者をダシに使うゴミカスへの義憤でむしろ強くなっている。
 ヴェルサスが仕組んだ必殺の罠には、障害者に寄付されたスパイクから運命が狂った彼が人間や世界を見る限界と歪みが、どこか透けているように思う。
 俺はああいう人間に関わって真っ直ぐ進めなくなったんだから、お前もそうなるはずだし、そうなるべきだ。
 そういうドス黒い引力を振りちぎるように、徐倫エンポリオくんの奇想天外な発想に助けられ、”ストーン・フリー”と”キッス”の合わせ技で全員が生き残れるシェルターを作って、確定した事実を乗り越えていく。

 事実は事実でしかなく、それは想像力と絆で新しい未来へと突破可能なものだ。
 この決着は後に、この物語を終わらせる激闘の最後もう一度演じられる、一つの答えのようにも感じる。
 『世の中こんなもんだ』『人間そんなもんだ』と勝手に決めつける思考の狭さを、横合いから殴りつけて突破していく奇跡は、一人では生み出せない。
 ヴェルサスが用意した致命の檻は徐倫達を閉じ込めえず、むしろ自分を捻じ曲げた過去にどれだけ自身の想像力が囚われていたかを教えていく。

 ”アンダー・ワールド”の外にいたから(徐倫が口づけとともにそこに保護した)エンポリオくんは情報を集め、『それが事実の再演でしかないなら、運命の瞬間までは何をしても死には至らない』という解決法を提示できた。
 ”キッス”で生存者を複製し、自分自身を糸にしてその内側に隠す”ストーン・フリー”の柔軟性を活かすことで、徐倫は弱きものを守り自分も生き残るという、困難な道を堂々と駆け抜けていった。
 そういう背筋の伸びた颯爽は、血が生んだ異能に人生歪まされ、それを正してくれる誰かと出逢うことも出来ず、クソ神父にいいように使われてきたDIOの息子たちには、歩むことが出来ない道だ。
 そういう陽のあたる道を自分も歩みたいと、心の何処かで願いながら果たせなかったからこそ、ヴェルサスは精神の地下世界(アンダーワールド)に徐倫を引き込もうと企てたのかもしれない。
 (ここら辺、憧れのギャングスタから始まり得難い出会いを幾度も繰り返して、ギャング業界の闇に真っ直ぐな光を生み出したジョルノと、面白い対比かなと思う。力と血に呪われず堂々と運命を進んでいくためには、真っ直ぐな魂と得難い出会い、両方が大事なのだろう)

 

 かくして卑劣な悪漢の企みは跳ね除けられたわけだが、最後のあがきが悪魔の虹を呼び覚ます。
 ウェザーに投げ込まれた記憶のDISCは、彼を障害を背負った弱者を押しのけるような、ヴェルサスと同質の悪へと変えていく。
 あるいは戻していく。
 その記憶が白紙だったからこそ善良だった男に、ドス黒い過去を戻した時、起こるべきではない悲劇が野放図に、世界に解き放たれる。
 ヴェルサスの狭く暗い想像力を刑務所の中成長を果たした徐倫は跳ね除けたが、ウェザーは囚われてしまった……と言えるかもしれない。

 そんな風に面白くもない悪意が思わぬ炸裂を見せて、極めて危険な運命を覚醒させてしまうことも、またある。
 俺は白紙の記憶の中、高潔で優しかったウェザーがとても好きだから、こっから先の展開は見てて辛い。
 その上でこの暴虐も悲惨も、ウェザーリポートを構成する大事な一部なので、アニメでどう描かれるのかを見届け、噛み締めていきたいと思う。
 次回も楽しみだ。

 ……『天国に行って幸せになる』という、ありきたりで祝福されるべき祈りを抱えておきながら、やることは『悪魔の虹を降らせて他人を巻き込む』なんだから、人生の大通りを真っ直ぐ歩けなくなるということがどれだけ人間を捻じ曲げるか、ヴェルサスはよく教えてくれるなぁ……。