イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

REVENGER:第6話『Adversary Advent』感想

 終わったはずの因縁が、鴉片に絡んで煙とくすぶる。
 唐人街と長崎会所を巻き込んでうねる大量の麻薬と銭の気配は、雷蔵を捕らえて離しはしない。
 絡まってしまった奇縁の鎖に引きずられて、人殺しの人でなしがどんより重たい陰謀の渦、引き込まれるのか引きずりあげるか……命を針につけた大仕掛けが動き出す、REVENGER第6話である。

 第1話で何もかもを切り捨て、死に場所を喪った死人になったはずの雷蔵であるが、思わぬ画才を見出され、あるいは血みどろ稼業に微かな情の灯火も見つけ、”人間らしい”手応えを新たな生に見つけつつある。
 しかし終わったはずの復讐は大量の麻薬と金銭に繋がっていて、そっちの始末が付いていない以上、長崎中の悪党を巻き込んでお話は続いていく。
 奉行所と会所の奇妙なバランス、唐人街にアンゲリア……様々な勢力が火花散らす切っ先に否応なく、利便事屋の命運がぶら下げられていく。
 悪党殺して痛快世直し……なんてことは考えていないけど、ちったぁ世のため人のためになる仕事を求めている”マトモな殺人者”がここから動き出す嵐の中、どう生きてどう死ぬかが楽しみになる、中盤戦の折り返しでした。

 

 

画像は”REVENGER”第6話から引用

 その手は、仏の手
 異形の写実主義に惚れ込んだ画商が、雷蔵の血みどろを包み込む。
 その隣でわざわざ見守る惣ニの面倒見は、いくら大江戸ツンデレが取り繕ったところで情が深く、殺しに勤しみつつ人間の柔らかいところを殺しきれない彼のキャラクターを良く語っている。
 思えば雷蔵の新たな才覚も惣ニが取り次いでくれればこそ見つかったものであり、大江戸ルームメイトの二人はこのお話の中でも珍しい、真っ直ぐな思いで繋がった間柄と言える。

 『言えるから、だからなんだ』という話でもあるんだけど。
 結局彼らは複雑な力学に取り込まれたリベンジャー・システムの末端であり、ろくな死に方しちゃいけない道を歩く罪人でもある。
 そういう連中でもそれぞれの事情と心があり、そんなもんを踏みつけにして社会だの都市だの運命だの、大きなモノはゴロゴロ転がって色々踏み潰す物語でもあろう。
 裏稼業も過去の事情も知らず雷蔵の筆に魅入られた画商の、心意気に照らされて蜃気楼のように眩しい、まっとうな未来。
 そんなモノ望んじゃいけないことは、雷蔵当人が一番良く知っている。
 それでも何故か、重ねられた掌は温かい。

 雷蔵と惣ニがそういう人情の灯火を担当する中、未だ腹の中を見せきらない幽烟は人間の冷たい部分、暗い部分に踏み込んでいく。
 意味深に握り込んだ恨噛小判、一体どんな仕事に繋がっていたのか……解るのは次回以降だろうけど、中間管理職である幽烟がその気になれば、利便事稼業の背景はいいように書き換えられてしまう。
 ここら辺、前回鳰が内側からシステムをクラックして堂庵おじさんぶっ殺したのと、同種の脆さが垣間見える。

 いけしゃぁしゃあと同僚への弔慰を口にするかいまき与力に、言質を取らせぬ脅迫で背中を押され、雷蔵にまつわる厄介を始末しろとせっつかれるのも、また幽烟の仕事である。
 酒気がキツい薄桃色の空間に、確かに漂う私欲と怜悧。
 裏稼業の仕事人も、長崎に渦を巻く複雑怪奇な政治力学とは無縁ではなく、むしろ扱う商品のヤバさから積極的に、権力(の一部)と親しい距離を保っている。
 持ちつ持たれつ……というには、あまりに一方的に生殺与奪の権利があちら側にある場所で、幽烟は必死にとぼけ、タヌキとキツネの化かし合いに興じる。
 お互い腹の中も利害も分かりつつ、勝手に気を利かせて獲ったり獲られたりしたと後から筋がつく、極めて日本的な気配りに満ちたアンダーワーク。
 その真ん中に立つ幽烟は後背を背負った菩薩のようにも見え、場の生臭さが際立ちなかなか皮肉である。
 金箔殺しの色男が、よりにもよって菩薩ねぇ……。

 

 

画像は”REVENGER”第6話から引用

 修めた示現流の剣筋と同じく、結局真っ直ぐにしか進めない雷蔵は断ち切りきれていなかった因縁に導かれ、唐人街の大通りへ踏み込んでいく。
 鳰の指摘する怜悧なリアリズムは殺し屋には余計な荷物のはずで、しかしそれを振りちぎれないからこそ殺し屋なんぞやっている連中にとって、馬鹿正直が馬鹿やって死にかけている現場を、見捨てることも出来ない。
 第1話で武士としての雷蔵を終わらせた事件が、いろんな勢力の欲を巻き込んでまだまだ続行中であるように、それを原点に出会ってしまった利便事屋の縁と思いもまた、複雑に絡んで次々もつれていく。
 色々言い訳重ねつつ、結局賢さの敷居を越えて身を乗り出し、親身に世話焼いてくれる惣ニのこと、雷蔵はもうちょい大事にしたほうがいいよ……。
 いや大事にしてるし、感謝も素直に言葉にしてんだけどさ。

 ここら辺の因縁に更に厄介を足しそうな、チャイニーズマフィアの頭領と会所の生肉野郎。
 大江戸ピラニアプールたぁ驚いたね……久々に直球トンチキ配給で、なんともありがたい限りだ。
 劉大人は組織と同胞を背負って冷酷であるけども、まっすぐに雷蔵の瞳を見つめて心を探る。
 『虎でも豚でもない』と正しく見抜く眼力は優れていて、真っすぐでもある。
 ここまで大江戸サイボーグとして向かうところ敵なしだった雷蔵の懐に、スルッと絶招で潜り込んで土をつける実力といい、今後大きな仕事をしそうなキャラである。
 あと『色男が苛まれる様を書きてぇ……』という作り手の欲望を、忠実に画面に乗っけるべくゴリゴリ拷問に勤しんでて偉かった。
 なんなんだ、あの大江戸ボンデージ……。

 かいまき与力と角突き合わせてる会所のボンボンは、異様さが際立ち腹の底が見えない感じだ。
 しっかしロクでもねぇ存在だろうってのは、趣味の悪い服からも劉大人との応対からも透けている。
 商業都市である長崎を裏から表から握り込み、庶民の生き血を気にかけることなく私腹を肥やす富裕層。
 いかにも仕事人の刃が的にかけそうな相手であるが、所詮末端でしかない利便事屋には奴らの顔が見えていない。
 そして平戸は、裏稼業の存在をしっかり見据えている。
 この情報格差、権力勾配が後々どういう地獄につながっていくか、楽しみなキャラでもある。

 

 

画像は”REVENGER”第6話から引用

 マフィアからの奪還任務をずぶ濡れで終えて、水も滴るいい男たち。
 『今回露骨なサービスカット多くないッ!?』って感じであるが、難しいお話と新キャラ新勢力沢山ぶっこまれるからな……人参ぶら下げないと視聴やめちゃうからも知れないし……。
 拷問された甲斐もあって、唐人街マフィアとその裏にいる会所が、ただでさえ暗いナガサキ・スプロールを震撼させるほどの鴉片を追いかけている裏を取れた。
 クソみたいな街を動かしてる金の流れに、私情が引っかかって人生ごとぶった切った雷蔵の物語は、まだまだ終わってくれそうもない。
 正直『主役のお話、第1話で終わってない?』とは思っていたので、ここで世界観を横に広げつつ、断ち切れない因縁がゴロリゴロリと転がる様子、その途中で引っかかった新たな仲間との奇天烈な絆を書いてくれたのは、なかなかに良かった。

 恨噛小判を受け取ればド外道でなくても殺すし、受け取らなければ殺しは出来ない。
 リベンジャーシステムの脆弱性が既に描かれていて、別に強靭でも完璧でもない危うい立場で、ひょろひょろ街の端っこにぶら下がっている人非人なのだと、主役は描かれ続けている。
 正しくも強くもなく、運命に流される小石のような存在にも、しかし確かに人が生きてるからこその豊かさと美しさが、宿る瞬間はある。
 そういう生き生きと爽やかな瞬間が魅力の作品が、同時に殺しのロクでもなさ、抜け出せない閉塞感を大事に温めているのが、僕は結構好きである。

 思わず顔を出した大きな因縁と欲の塊を前に、一人なら死んでいただろう雷蔵は仲間に助けられて生き延びた。
 どんだけ寄る辺なくとも、頼りなくとも、成り行きと偶然で繋がってしまった連中との縁は、確かにそこにある。
 それが暗さを増す長崎で道を探す助けになるのか、更に迷う幻と燃え盛るのか。
 REVENGER後半戦、どう画いていくか大変楽しみです。