イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

REVENGER:第9話『Mutual Understanding』感想

 黒い膜の奥、たゆたう泥が暴かれる中で、悪党も義士もお互いを知っていく。
 政治と利権と欲望と、人間から絞り出せる最悪の三位一体が凝り固まり、思いを投げ捨て犬に落ちるか、貫いて死地に赴くか、土壇場の踏み絵が足元に転がる。
 どっから間違いだったと言われりゃ、人殺して銭稼ぐこと自体がそもそもの過ち。
 ここまで来ちまえば、後はどう間違えきるかだけの話。

 ドラッグ汚染に苦しむナガサキ・スプロールを舞台としたハードボイルド時代劇、最終決着に向けて状況が整っていく第9話である。
 悪い奴らが膝つき合わせて、クソみたいな状況を仲良く転がしている背景が暴かれる後ろで、板挟みの殺し屋共は未来を悩む。
 前回遍路の貞が受け取った、形だけの恨噛む小判をひっくり返すように、清国にいた己の影が魂を込めた一枚を主役は受け取り、決戦の幕は上がっていく。

 刀使い、お軽い投擲屋、狙撃手、子ども……と、貞一党も綺麗にリベンジャーとマッチアップできそうな顔ぶれが明かされ、いい塩梅に場が温まってきた。
 血と銭が溜まった裏通りに腰まで浸かっているのは同じだが、そこで最後の矜持を微かに残すか、外道に落ちきるか。
 ミラーリングがしっかりした相手が敵手に回ると、主役が何故主役なのか、このお話が何を描きたいかも鮮明になってきて、鏡合わせの自分を殺す宿命感も強まる。
 相容れぬ強敵に思えた劉こそが、義も愛も同じくするもう一人の雷蔵だったと解る今回、このお話が主役のシャドウをどう扱っているかが良く見えたと思う。
 ここが上手いお話は、やっぱ好きだな。

 

 

 

画像は”REVENGER”第9話から引用

 というわけで大江戸スナイパーライフルは致命の一打とはならず、敵同士が奇妙な縁、背負い担がれ手当を受けることになる。
 いちいち劉大人の赤い唇、その間近に頬寄せる雷蔵をど迫力で抜いてくるカメラが強くて、『ホント好きだね……』と感心しきりである。
 終盤戦に向けての状況整理回と言った趣で、謎めいたライバルの過去から複雑怪奇な政治情勢まで、いろんなことが語られていく。
 麻薬に汚れた金を弱者から絞り上げ、あるいは国一つ経済の肥やしに貶めて稼いだ末路は、これまで描かれた犠牲者よりもなお悲惨であり、それを何とかするべく男は起った。
 しかし道半ば、謀略とドインチキなオーバーテクノロジー兵器に撃ち抜かれて、生きるか死ぬかの土壇場である。
 薬湯を飲む赤い唇は、汚ぇ殺し屋と蔑んでいた連中が己と同じ志を持つと、受け入れた証なのだろう。

 山盛りの阿片は金を生む悪魔の装置であり、社会を壊し弱者を殺す兵器であり、外国の私欲を国に流し込む侵略の道具でもある。
 そして何より、自分の愛しい人を殺し人生めちゃくちゃにした、憎んでも憎みきれない仇敵である。
 ただのモノに色んな意味が張り付き、社会に流通する中で毒やら益やら生み出す様子は、欲望の媒介物である金が恨みを運ぶ、リベンジャーシステムにも響くところのある描写だ。
 モノに焼き付いた思いと、モノそれ自体が生み出す利益と、どちらを重んじるか。
 ここまでのリベンジは人情を投げ捨てた我利我利亡者を切って捨ててきたわけだが、最後に暴かれる会所の化け物を視るだに、最後は人の幸せを願って叶わなかった者たちと、不幸こそが生きる糧のド外道が、山盛りの阿片に思いを照らしあってぶつかることになりそうだ。
 ”思い>現実”というロマンティシズムで動いていた(からこそ、その悲愴な無力を際立たせるように劉は無様に死んでもいく)お話が、いいコトしたかったけど奈落に墜ちた主役たちの思いと、悪いコトに愉悦を感じる悪党の思い、地獄の情念バトルに足場を移して収まっていくのは、なかなかおもしろい話運びである。
 志半ばに無念を噛み、強者同志、義士同志だからこそ雷蔵と通じ合う劉がここで死ぬのも、最終決戦に向けて強めのニトロをぶち込む、良い手筋だと思う。

 

 

 

画像は”REVENGER”第9話から引用

 ”Mutual Understanding”……相互理解を意味するサブタイトル通り、大きくうねりだした状況を前に殺し屋達は自分たちの想いを、立場を再確認し、決着を前に悩みや疑問を吐き出していく。
 その日暮らしのツケを殺しで支払ってきた惣ニが、身を置いていたシンプルな殺人経済。
 それが実際シンプルでもなんでもなかった結果、大判もらえないだけでは済まないどん詰りに彼は追い込まれている。
 鳰が正しく理解していた『殺しは殺し』という事実は、ヒトが命を惜しめばこそ殺人には大きな社会的インパクトがあり、利便事屋のバリューはそこに担保されているという、価値の網の目を背景に持つ。
 そこには譲れぬ情念も、ドス黒い利益も、人を殺せば素直に流れる世の中の道理も、色んなものが絡み合っている。
 そういう事実を見て見ぬふりして、少しスカッと人殺し。
 そのツケを思えば一味で一番真っ当だった惣ニが、どう支払うのか。
 彼の決断はなかなか見ものである。

 即物的な惣ニに対し、信仰者としての証を正義の殺しにこそ求めていた幽烟は、礼拝場の真実を確かめるべく死地に進んでいく。
 言うがまま小判を受け取り、おまんま充分殺しているのに商売道具で息の根止める。
 背中のマリア観音が、泣いてせがむ因果の応報に、はたしてそれは相応しい手立てだったのか。
 幽烟もまた、己の生き方をこの土壇場に問わなければいけない。
 こういう粘ついた悩みから無縁に、軽やかに踊って落ちる存在だと第5話で示されてた鳰はさておき、徹破先生個別回ないので何を賭けて稼業やってるか、後ひと押し欲しいところなんだよな……。
 最終決戦の中で、血に飢えた自分を仁術に預けられなかった修羅の素顔が、彫り込まれていくと嬉しい。

 んでそういうしんみりした準備を横に投げて、なんだその大江戸ライフルグレネードは!
 色んなトンチキ未来グッズが飛び出してきたこのお話だが、ファイナルバトルを前にいよいよタガが外れてきた感じもある。(最高)
 超絶インチキアイテムと仕込み錫杖を操る腐れ剣豪でもって、なんもかんも奪われた劉大人が遂に流す一筋の涙。
 それを受け止められるのは、阿片にまつわる欲と業で一切合切を奪われた俺しかいないと、雷蔵が吠える。
 幽烟先生さー……ねっとり湿った感情を間接的にほのめかしてワンチャン待ってたら、大陸産の色白セクシーが分厚く鏡合わせの共鳴叩き込んできて、クライマックスへのモチベ全部前髪ぱっつんカンフーマシーンに持ってかれた気分はどうなの!?
 俺は綺麗に取り繕って傷つけないように、傷つけられないように安全距離保とうとした先生の臆病と、それに気づかない雷蔵の真っ直ぐ純情の残酷さと、死に際にこそお互い抱えたものが通じ合う血みどろのブロマンスが同時接種できて、脳髄ぶっ飛ぶほど気持ちが良いです。
 最終盤で、秘めに秘めた幽かな煙が雷の如き意志に火をつける/つけられる展開も待ってるだろうしね。
 阿片よりコレに狂って、ナガサキ・スプロールを平和に幸せにしようッ!

 寝言はさておき。
 所詮殺しは殺しと、自分が選んだ稼業に後ろめたさがあった雷蔵が、志半ばに倒れていく己の影に『噛め! 恨みを噛め!!』と前のめりに小判を差し出すのは、リベンジャーとしての自分を誠と受け取る仕草だろう。
 新たな名前と天職を手に、血に濡れた過去を捨て去って生きていく道も確かにあり得たけども、武と義と愛と……繰馬雷蔵を構成する全てが同じもので鍛え上げられた異国の義士を前に、晴らせぬ恨みを受け取り殺す活き方を、己と選ぶしかなかった。
 おまえの涙は俺の涙、俺の悲しみはお前の怒り。
 そう思い会える鏡合わせの共鳴が、絵筆ではなく剣でしか掴み取れない未来へと、雷蔵を押し出していく。
 そこにはこれまで描かれた彼の人間全部が焼き付いていて、破滅に続く道だとしてもつよい納得がある。
 雷蔵は自分たちをこんなところに追い込んだ世界全部に復讐したいから、自分の影に鏡を差し出し、末期の無念を引き受ける儀式を果たそうとするのだ。
 それはクソ外道共が前回踏みつけにした、形だけの儀式とは真逆である。

 

 

 

 

画像は”REVENGER”第9話から引用

 かくして捨て犬を踏みつけ、悪党どもは闇の只中で世界を嗤う。
 ずっと目を閉じていた礼拝堂のシスターが、軽々と獣の眼光を見せつける前段として、虎の屏風が野生的な雰囲気を静かに作っている所、良い演出だなぁと思う。
 超強そー……。
 全体的にゴミ外道共の場面はオレンジの怪しい光が支配してて、『このいけすかねぇ色合いを、真っ赤な地に染め上げてファイナルリベンジ完成だッ!』って期待感が、上手く高まってるわね。

 主役が大事にしてきた殺し屋最後の理念にはツバぶっかける、メシの食い方はきたねぇガキの頭は踏む。
 最終決戦の相手として、遍路の貞はたいへんいい感じに反感溜め込んでいて素晴らしい。
 その下卑た調子を呼び水に、長崎会所番頭のイカれた愉悦がこれまたイヤな感じでほくそ笑んで、こいつぁ血を見るしかねぇな……と震えた所で次回に続く。
 唐人街の裏道で義士達はお互いの魂を通じ合わせ、薄暗ぇ穴蔵で外道達はお互いの腹を知る……確かに、Mutual Understandingな回だ。
 さんざん銭ぐるいの浅ましさを描き、その総元締めがこの美丈夫かと思わせておいて、もっと抽象的で醜悪なもんを求めてる外道の中の外道が最後のターゲットなのは、非常にいい運びだと思う。
 頼む、岡本信彦の最高声帯を持ったゴミカス……死んでくれッ!!!

 阿片と汚れた金が長崎に流れ込むと、どんだけ悲惨なことになるかは過去のリベンジで山ほど描いてきたわけで、どうあがいても確かにこの山積みの悪魔の道具、燃やして終わらせるしかねぇ。
 そのための薪に男たちの命を預けなきゃ、どうにもならねぇ強敵がゴロゴロ、向こうに回っている状況もしっかり書かれた。
 銭をぶん回す表の権力も、闇で牙を研ぐ裏の実力者も、皆が敵に回る欲得の巷。
 それでもなお譲れぬものを小判に刻み、恨み受け取り殺し屋稼業。
 最後の花火がどう打ち上がるか、最終決戦大変楽しみです!