イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第4話『【役者】』感想

 虚実明暗交錯する芸能界青春サスペンス、初仕事を終えひとまずの日常……という第4話。
 自称・才能のない役者の地道な仕事はクソみてーな現場に確かに命を宿し、大人の事情に押し流されていく純情を画面に焼き付ける。
 それで救われる者たちの涙は玉の如く小さく、だからこそ眩く輝く。
 一方夢の階段に半歩足かけてるだけ、何者でもないルビーちゃんは一体どこへ行くのやら。
 ヤレヤレ系復讐鬼の次の仕事は恋愛リアリティショーに定まり、色んなコトが絡み合いながら物語は続く……という回である。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第4話から引用

 このお話には、様々な虚実と明暗が織り込まれている。
 芸能界での仕事を仇の情報を探すための手段とうそぶく割に、かなちゃんやスタッフの熱意にほだされてプロの芝居をやり遂げ、自分が出演する最終話だけ神回にしてしまうアクアの在り方。
 人生二週目のスレきった態度と、二度目の生眼の前に立ち上がるものに本気で向き合える姿勢のどちらが、彼の本質なのか。
 復讐鬼か、役者か。
 『何もかも俯瞰で捉えてますよ、冷静で落ち着いてますよ』みたいな、1スカした態度を維持しつつも、彼のアイデンティティはフラフラと揺れている。

 Aパートでは強いライティングがアクアが演じるストーカーの闇を強調し、それがかなちゃん渾身のヒロイン演技を強く照らしもする。
 その暗さは表面的な激情とは裏腹に、才能がないからこそ努力で磨いた誠実な計算に基づいていて、同時に誰にも開かせない個人的な秘密……同じストーカーに殺された母であり推しでもあるアイへの愛から、じわりと滲む黒に支えられてもいる。
 作り上げた嘘でしかないものが真に迫った芝居を生み、それは関わる人達がときに真摯に、あるいはひどく雑多に作り上げる、商品としてのフィクションの便利な一部……であり、魂込めた全部でもある。
 裏腹な色々が絡み合いながら、やっつけ仕事のクソドラマ最終回が削り出されていく。

 

 アクアが仕掛けた横紙破りを、前線指揮官である監督は面白がって活かす。
 カメラが捉える主役たちから少し遠く、ドラマ制作者全員が切り取れるところに視点を定めて、イケメンモデルを売るために乱雑に消費されていく芝居にどれだけ本気な人たちがいるかを、現場の生っぽさを大事にした描線で積み上げていく。
 復讐者として暗く冷たくいなければならないはずのアクアは、魂が真実燃える嘘のない瞬間を引き寄せるために、必要な嘘を的確に差し出していく。
 母から天才を引き継がなかったと自虐する男が、それでも復讐の現場にしがみつくために磨き上げた、計算と努力で出来る範囲の仕上がった芝居。
 それは自分が主役であるためでなく、影に潜んだまま誰かを主役にするための演技だ。
 打算の産物であり、誠実の賜であり、嘘と本当の入り混じったアマルガムだ。

 アクアがかなちゃんの誠実さに心打たれてそう動いたように、アクアが差し出してくれたトスはかなちゃんの幼心を激しく揺らし、湧き上がる本当の思いがカメラの中の嘘に、確かな熱を宿す。
 一回こっきりの青春の中で、それだけは嘘ではないと信じられる温度で、少女を狙い撃った魔法こそが、届く人には届く鋭さで確かに、カメラに焼き付けられていく。
 嘘っぱちのドラマの中でそれを向けられるイケメンモデルは、どこに出しても恥ずかしい大根役者だが、マイクに拾われない痛罵に感情を乗せられ、一瞬だけ本物の役者に化ける。

 何もかもが嘘っぱちでしかないはずのものに、確かに本当を生み出せる、誠実で特別な嘘。
 それを生み出した特異点は、今生の血縁も生きる目的も、何もかもを隠した大嘘つきだ。
 それを知らぬまま、15歳の女の子は15歳の男の子に恋をする。
 彼が人生二回目の、精神年齢かなりオッサンのヤバ人間であるとは勿論知らぬまま。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第4話から引用

 かなちゃんとアクアが生み出した魔法は、狭い範囲で熱烈な支持を集め、確かにどこかにつながっていく。
 『メディア化なんてこんなモン』と諦めていた原作者の心を揺らし、オワコン元子役久々の主役はなんもかんも大外れとはならず、クズを寄せ集めたやっつけ仕事になるはずのものは、関わった人の輪と込められた熱意を裏切らない、誠実な仕事に……すくなくとも一部はなる。
 どんだけ状況がクソでも、誠実に向き合い生み出された魔法は次に繋がる。
 シビアに思える現実認識の中に、こういうロマンスを常時携えて転がっていく物語、最初の仕事を打ち上げパーティーは上手く切り取っていく。
 それは勿論、容疑者を一人潰して次なる調査へと、暗い目をした復讐差を運ぶ算段でもある。

 チート転生者のくせに才に欠けるアクアは、妹やかなちゃんといった星の継承者を後ろから支える、サポート系主人公だ。
 ……少なくとも、華やかな表舞台においては。
 眩いサクセスストーリーが破綻しないように、世知辛い世の中を泳ぎ切る手助けを計算と誠実のあわせ技で絞り出して、アイ殺害の真実を追い続けられる立場を確保し続ける。
 それはアイの遺言に呪われて役者を夢に定めてしまって、本気で嘘をつく商売に魂が震えるから、頑張れるお仕事だ。
 同時に死人の墓を暴いてゴシップを舐める、最低のクズを演じてでも復讐にしがみつく、冷たい鬼の生き方でもある。

 

 俯瞰で悟ってるみてーな、態度も他人を道具化する姿勢も、自分の情熱見て見ぬふりの欺瞞も、何もかんもアクアはキモいわけだが(そしてそここそが僕は好きなわけだが)、復讐も出生も転生も全部秘密なので、基本ツッコミ不在のまま物語は展開していく。
 かなちゃんがアクアが自分に、自分たちの仕事にしてくれたことの意味をしっかり解って、彼を好きになっちゃてる事実に人間として向き合わなきゃいけないはずなのに、嘘まみれの転生復讐鬼には関係ないことでござんすとばかり、二度目の生が生み出すものをおざなりにする。
 このやけっぱちな態度は、アイの呪いを受け取ってしまった唯一の存在として、ドス黒い殺意を妹(であり元患者でもあるとは、気づいていない同志)には背負わせないための、体を張った防波堤でもある。
 色んな人が大事なのに、大事だからこそ自分を道具化して、その捨て鉢な態度が他人の人格やら世間やらをナメた振る舞いを、主役に背負わせる。
 とにかく歪で無理があるので、誰かが横っ面はたいて姿勢を正してやんなきゃいけないのだが、抱えた秘密が多すぎ分厚すぎ、真実のアクアに迫るタイミングがなかなかない。

 芸能界の光と影、そこに渦巻くタテマエとホンネの交雑は結構頻度多く、熱量高く描かれるのに、主役が抱えた明暗虚実に関しては一方に傾き固定されたまま、あまり動きがない……というのは、このお話の結構な急所だとも感じる。
 ここがアニメ化の範囲で揺るがされる(揺るがされているると、見ているものが感じられるくらいに状況が動く)描写が入るか、付け足されるかは解らんけども、芸能界の荒波にフラフラ揺らされる激しさ。
 そことは真逆には、誠実な演劇人と乾いた復讐者の間で揺れる、キッモいキモいアホ主役個人の問題には、特にツッコミ入らず復讐サスペンスはある意味順当に段階を進めていく感じだ。
 『アクア……テメーはキモいッ! 自分のアツさと優しさを置き去りに、クールな水属性だと思い込んでる所が特にキモいッ!!』と、真実知った誰かが言っちゃうと話が終わる構造かなとも思うが、ここら辺作中放置で進んでいくのは結構ムズムズすんだよな……。

 

 

 

画像は”【推しの子】”第4話から引用

 それはまぁ先の話として、Bパートはかわいいかわいいルビーちゃんの転校初日。
 腕組みカッコいい有馬パイセンに導かれつつ、ピカピカいっぱいの同級生に気圧されつつ、夢の舞台へ進んでいくために七転八倒、大変チャーミングな暴れ倒しである。
 ルビーちゃんが天真爛漫に、かつて死病に摘み取られた青春を堪能するほどに、そのピカピカから遠ざかって復讐に沈んでいるアクアの影も濃くなる。
 アクア演じるストーカーとかなちゃん演じるヒロインが、”今日甘”の現場で演出していた明暗の対比を、星野兄妹がリアルで炸裂させているのは、なかなか意地の悪い構図だと思う。
 『アイ……一生激推……』と、ひっそり呟くキモ蔵のキモキモっぷり、やっぱ最高だなぁ……。

 今のルビーちゃんはただの可愛いワナビなので、とっとと仲間を見つけてアイドル活動に勤しむ必要がある。
 ドラマ編でガッツンガッツンヒロイン力を稼いだかなちゃんが、そこにスルッと滑り込むのは青い復讐鬼の話であり、赤い綺羅星の物語でもあるこのお話の、必然的帰結というやつだ。
 こんだけキャラ立てて、もうひとりの主役とも絡ませないのは”嘘”でしょーよ! というね。
 ツンデレ生真面目ちびっ子先輩を篭絡し、かわいいかわいい妹の夢が羽ばたく滑走路を、ちゃんと整備してあげられるのか。
 極めて奇妙で歪な家族愛で、確かに繋がった家族の物語でもあるこのお話、直近の獲物は有馬かなに定まった。
 ……既にチョロいとバレているので、あんまミッション感がないな。
 そこがかなちゃんの、たいへん可愛い所なわけね。

 

 という感じの【推しの子】最初のお仕事フィナーレと、新たな舞台の開幕でした。
 アニメになってみると、芝居への情熱、他人の本気に本気で報いる誠実さと、復讐に呪われて自分も他人も道具に貶めるアクアのアンバランスが、より見えやすいかなー、と思います。
 ルビーちゃんが担当している光の物語もググっと力強く動き出し、明暗交錯しながら進む芸能回青春サスペンス。
 次回も大変楽しみです。