イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第7話『僕らは入れ替わってる』感想

 触れ合う膚の感触が、青春の獣達の鎖を解く。
 爽やかなのに眩しく、甘やかなのに熱いド性欲モリモリ系青春ラブコメ、なかよし満載第7話である。
 作品の一人称視点を担当する京ちゃんだけでなく、山田もまたメラメラ青い炎を燃やしていることがバレバレになってきたお話だが、万事控えめで臆病な主人公はその思いになかなか気づかず、青春ポイントだけがうず高く溜まっていく。
 ストレスフルになりそうなすれ違いを下世話な笑いととびきりの爽やかさでまとめて、気持ちよく食わせていく感じのエピソードである。
 山田がめっちゃ京ちゃん見てるの、アニメになるとなお分かりやすいな……めっちゃ見てる、狙っているッ!!

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第7話から引用

 野獣の眼光はお互い様、視線釘付けのAパートであるけども。
 山田の豊かな乳房が強調されるエピソードだったが、まぁ作品の”眼”を担当してる京ちゃんの視線がそこに集まっちゃうんだから、ドキュメンタリーとしてはしょうがねぇだろッ!
 実際の話、このお話序盤のギトギト性欲ギャグがだんだんHoneyworks似合う味わいにアブラ抜けてった経緯があり、アニメはそうして”至った”後の空気感でまとめられている感じがあるので、基本路線は爽やか系なんだけども。
 時折埋めたはずのモンスターが元気に蘇って、バコバコ暴れまわるのが特色であり、痛快でもある。
 己の内から湧き上がる性欲は、相手を鑑みない身勝手な暴走で主を困らせつつ、好きだからこそ燃え上がる愛の証明という側面もあり、そういうモノとの付き合いが長くない思春期においては特に、抱えて困る荷物でもある。
 欲望に流されつつ、その暴力性に結構深刻に思い悩み、しかし押し流されて激シコモンスターになりもする京ちゃんのチャーミングな生っぽさは、やっぱり好きなのだ。

 ここら辺の押し合いへし合いはお互い様で、山田はめっちゃ京ちゃんを見つめ発情する。
 匂いも嗅ぐ。
 他でもない”あなた”がそこにいる事実を目で感じ鼻で味わい、しかし形のあるメッセージとして思いは伝えられない、カーテン越しの至近距離。
 それは男の子だけの独占物ではなく、すれ違いながらも共鳴して、不思議な面白さで転がっていく。
 ここの危険な熱量がボーイにもガールにも平等なのも、やっぱり好きだ。
 京ちゃんが奇矯な行動に出て、クラスメイトに『ヤバいやつ』認定されるのは毎回、山田を守る盾になるためだし。
 お菓子を堂々もしゃらもしゃらするだけに留まらず、情緒不安定で嫉妬深く独占欲が強い山田のヤバさと、繊細すぎるがゆえにヤバくなる京ちゃんはお似合いである。

 ごくごくスタンダードな中学ニ年生男子やってる足立くんとの友情が深まってきて、彼のあたりまえな無神経さが切り取られるに従って、この運命的な噛み合いも際立ってくる。
 京ちゃんの考え過ぎな繊細さが山田にはちょうどよく、それが暴走して真心とぶつかる時の衝撃もいい塩梅で、二人は強く惹かれ合っていく。
 でもそれは思春期男子のスタンダードというわけではなく、女子という異物が何を考え何に悩んでいるのか、考えすぎな先回りで無自覚にエスコートできるのは特殊な資質だ。
 それがあるから京ちゃんは選ばれ、足立くんは選ばれない。
 ここら辺の理由と説明は、結構シビアで残酷だと思う。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第6話から引用

 青春のレフ板としての足立くんを間に挟み、二人にとってお互いが眩い光であることが、Agraph謹製のいい感じな音楽とともに席替え騒動に示されていく。
 このお話は京ちゃんの一人称で進むので、山田の内心がどんなものであるかは一つのミステリとして伏せられたままだが、それを慮るヒントはかなり強めに出されている。
 語らずとも解る、語らないからこそ伝わる思いは時にメラついた嫉妬となったり、時にときめきの弾丸となって胸を撃ち抜いたり、かなりバレバレな強さで視聴者に開示される。
 かなりガンッガンに押し込んでくるよなー、この頃の山田……。

 しかし京ちゃんは俺らみたいに外野席で青春喜劇を鑑賞しているわけではなく、当事者として目の前湧き上がる衝動と感情にもみくちゃにされているので、見えるべきものが見えない。
 自分の行いが山田にクリティカルに刺さって、自分を影から出してくれたのと同じ光を山田に向かって発している事実に、なかなか気づけない。
 これは京ちゃんの自己評価が極端に低くて、だからこそ””大人っぽい”山田杏奈に惹かれたのも大きかろう。
 自分は所詮影の中、這いつくばっているのがお似合いのゴミムシ……と、何かを諦めることで何かを守ろうとしている姿勢は、しかし山田杏奈と触れ合う中でだんだん崩れても来ている。
 つーか狭い場所でギチギチ二人きり、イチャイチャ秘事許してる時点でもう”特別”なことに気づきなさいよッ!
 『気づかないから可愛い二人』ってのも、また事実なのがね……純情の描き方は、いつでも難しい。

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第7話から引用

 ここら辺のもどかしい足踏みが、どこから出ているのか。
 カットされまくりな山田の仕事を見つめ胎児の姿勢を取る京ちゃんは、『結構目立った!』と前向きな当人よりも傷ついている。
 周囲を取り巻く人達の感情にアンテナが高く、時に余計な信号を受信して考え過ぎ足が止まってしまう繊細さは、気づかれにくい優しさという長所でもある。
 それを『考えすぎ』と適度に切り捨てて、いいバランスで生きていく器用さがない時代……痛みも込めて学んでいく思春期に、京ちゃんは裸足で立っている。
 そしてその不器用な先回りは、確かに山田杏奈によく効くのだ。

 本来なら山田が感じるはずの痛みと、どっか他人な当人の態度が『入れ替わってる』描写だけども、こういう結果に編集されてしまう自分に山田もどこか引っかかりがあって、なお気にしない明るい自分を作って、張り付けて笑ってもいる。
 京ちゃんが勝手に他人の気持ちに先回りして、重い荷物を抱え込むのは、そういう仮面の奥の気持ちが分かってしまう人だからかもしれない。
 ここら辺の繊細さが中学受験の挫折と正面衝突して、世を恨み他人を傷つけて気にしない『ヤバい僕』で武装しようともしているのだが……まー京ちゃんには無理だよ、そういうの……。
 勝手なおせっかいと当人が感じているものが、本当の思いをわかってくれる特別として、誰かに深くぶっ刺さることもあんだからさ……。

 

 つーわけで、もはやお互い様な強度と深度で、毎日量産されるときめきが眩しく少年少女を貫いている現状を描く回でした。
 こうしてアニメで見ると……この段階でズッパまりだな二人共!
 興味本位でも冷淡でもなく、学外で仕事をしている山田の悩みや苦労に丁寧に近づいていって、相談に乗り実験台になる京ちゃんの足取りも、笑いを交えてしっかり書かれていた。
 誰も背負ってくれない荷物に手を貸してくれる特別感が、山田が京ちゃんにヤバくなる、結構大きな理由なんだろうな。
 そこで手を貸している自覚は京ちゃんに全く無く、むしろ『本来探られたくない、踏み込むべきじゃない領域にツッコんでいる!』と、自分を過剰に責める少年なのは、皆さん見ての通り。
 そういうかわいい子たちが、仲良く微笑ましく時に獣のごとく激しく駆け抜けていく、青い季節の記録はまだまだ続く。
 次回もお楽しみです。