イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダム 水星の魔女:第22話『紡がれる道』感想

 過ちを掌に握りしめて、なおあなたと明日に進み出していくために、今必要な剣を胸に携えて。
 宇宙暗黒大要塞・クワイエットゼロでの最終決戦に向けて、白無垢の戦備えを魔女の娘が整えていく、水星の魔女第22話である。
 まずはなにより、ミオリネさんが後悔と絶望から這い出してくれたこと、そこにスレッタが手を添えられたことが、ありがたくも嬉しい。
 俺はあの子達が、とても好きなので……。
 強化人士最後の生き残りとか、生身で行われる最後の決闘とか、受け継がれる命の糧とか、ガンダム化された魔女の箒とか、描くべきものをみっしり詰め込んで、幕引きへの滑走路を整えていく回でした。
 何を描ききれるのか、描いてほしいものは沢山あるけども、それは期待と喜びがここまでの物語にたくさん詰まっていた裏返しだと思います。
 どのような場所にたどり着くにしても、作り上げた舞台とそこで活きるキャラクターに嘘のない物語が、最後まで走り抜けてくれそうな手応えを感じられて、決着を楽しみに待てる回となりました。

 

 

 

画像は”機動戦士ガンダム 水星の魔女”第22話より引用

 地球県全域を揺るがす魔女の大釜に皆で乗り込む前に、始末すべき因縁がある……ってんで、グエルはミオリネのクローゼットを開けられない自分を確認し、最後の決闘を通じて花婿の白服を譲りなおす。
 強化人士最後の生き残りが、あの時別の自分がたどり着けなかった約束のベンチでスレッタと話すのと同じく、破壊された学園で確かに育まれていた思い出を拾い集めるように、子ども達は青春に決着を付けていく。
 シャディクもひっくるめ、アスティカシア総力戦の様相を呈してきたが、地球の現実を踏みつけにふんぞり返り、矛盾の上にあぐらをかいて成り立っていたとしても、あそこは確かに青春のアジールだった。
 そこで出会い、否応なく自分を返らえて運命に身を任せた結果立っている今を、かけがえない唯一として肯定するのであれば、それぞれの決意と絆を込めて最後の戦いに進み出していくのは、必然の流れだと思う。
 ……五号が数多の無念を背負ってなお進む男に育ったのも驚きだけど、セセリアが話をいいところに引っ張りつつまったくわざとらしさのない、怪物的修正力と牽引力を持った自在な存在に成り上がったの、愉快な化学反応よね。
 あとフェルシーが萌えキャラ過ぎ。
 危険だから法で取り締まっておけ。

 さておき、それが恋なのか確かめる間もなく絶たれた思いを、長い回り道の果てにスレッタは五号から受け取っていく。
 それをしておかないと、自分の青春に決着がつかず前に進み出せないから、もう一度やりなおす。
 この心境はもはや軍事産業のショーケースとして機能しない”決闘”を、あえて生身で果たすバカも同じなのだろう。
 クワイエット・ゼロ阻止は人類のあり方を強制的に書き換えてしまう、プロスペラの大呪術をせき止める大きな戦いであると同時に、矛盾した世界でそれでも学園を舞台に出会えた子どもたちが、自分たちの譲れぬ思いをぶつける小さな……そして決定的な挑戦でもある。
 親と殺し合ったり、世界の矛盾をその両肩に背負ったり、重すぎ大きすぎる宿命を前に自分のちっぽけさを思い知らされてきた子どもたちが、それでも一人の人間として湧き上がる思いを諦めないために、死地に踏み込む。
 その一歩を踏み出すための決意と晴れがましさは、彼らがもはや子どもではない証明にもなっていて、爽やかに心地よく、少し寂しい。
 ”水星の魔女”が終わるのだ、という感じがする。

 スレッタとグエルの生身決闘は、シャアとアムロの最終決戦であるとか、あるいはウテナ文脈の再登場とか色々読み方があるだろうけども、自分的には22話分積み上げてきた”水星”らしさが、良く滲んだ表現だと思った。
 二人が握る剣先は潰されていて、決闘は命を奪わずその志を試すための、闘争のミメーシスでしかない。
 でも学園用にリミッターをかけられ、殺し合うしか道がない地上のどん詰まりから遠ざけられていた日々は、何もかも嘘ではなかった。
 戦いを演じることが戦争の道具を売ることに直結している、暴力闘争とはまた違った生臭さに繋がりつつも、お姫様をかけて鋼鉄の巨人で戦うおままごとには、自分たちなり真剣だった。
 意味も、意義もちゃんとあった。
 それを二人共信じていたから、命を奪わない刃に己の未来を、意思を託す決断を、学園から離れたこの場所で選んだんだと思う。

 グエルは勝ちを譲ったわけではなく、口上で述べている通り技量と思いが真実にたどり着くための神明裁判として、決闘儀礼を選んだんだと思う。
 勝つにしろ負けるにしろ、そこで照らされる決断と自分に嘘はなく、企業宮廷の高御座から地上の地獄まで、色んな場所を駆け抜けてきた旅路全部が、今の自分を作っている。
 それは目の前の、自分が開けらられなかった扉を開けるだろう、自分が好きになった女の子も同じことで、なら俺達なりのやり方で、剣に託そう。
 そうして出た答えなら、後悔なく魂を預けれるから。
 まぁそういう、バカなセンチメンタリズムを証立てれるほどには、学園と作品の中で行われてきた”決闘”には意味があったのだ。

 

 

 

画像は”機動戦士ガンダム 水星の魔女”第22話より引用

 打ちひしがれたミオリネをスレッタが訪ね、閉ざされた扉の前に座り、立ち上がる力を言葉で伝える場面は、このお話が培ってきた隠微なフェティシズムの真骨頂といえ、大変良かった。
 誰かの手を引く手、己の力で進んでいく足。
 身体が持っている実在性と記号性を甘やかに混ぜ合わせ、過ちに満ちた道を時に反発しながらも共に進んできた少女たちが、決定的に魂を交流させる瞬間を、繊細に力強く描いてきた。
 閉ざされた場所へ向かい入れる許容の現場として、あるいは邪悪なる眩さに手を引かれていく誘惑の舞台として、明暗半ばするコックピットや温室、あるいはテロルの現場はこれまでも、とても印象的に描かれてきた。
 どん底まで落ち果てたミオリネがスレッタとの対話を通じ、弱く傷ついた自分の足でそれでも立ち、ボサボサにやつれた姿(かわいい)を見せ、外へ進み出すためにその手を預ける様子には、これまでとはまた違った決意と関係性が、色濃く滲んでいたように思う。

 呪われたへその緒を通じ、母から輸血された願いをそのまんま自分のものだと思いこんできたスレッタは、人間をトマトのように叩き潰したり、地球の魔女が目の前でその生命を終えたり、愛する人達に残酷に拒絶されたり、それでもなお生身で生きてる自分を実感したりした末に、自分だけの夢を見つけた。
 進んでも逃げても、何かを得れても得れなくても、どうなっても掴みたいと望む未来。
 それは誰かからの借り物ではないからこそ、熱い熱と爽やかな風を宿して例えば、強化人士五号の心を揺らし彼自身のたどり着きたい場所を、もう一度確認させたりもする。
 過ちも願いも自分で引き受けるしかなく、でもたった一人で進んでいけるほど強くない私たちに残された、微かで小さな希望。
 スレッタは自分が誰かのそばにいることと、誰かが自分の側にいてくれることを彼女だけの魔法として選び、それを母と姉にもう一度届けるために、クワイエット・ゼロへ乗り込もうとしている。
 その時必ず隣りにいて欲しい、二人で最高のドレスを着たい女の子に、魔法を届けたいとも。

 世界の過ちすべてが自分のせいだと、強く自分を責めるミオリネの他罰主義を握りこぶしではなく足先で表現するところに、先鋭的なフェティシズムが滲んで大変良いけども。
 部屋を覆っているのは何の出口もない壁ではなく、幾つかスリットの入ったブラインドであって、施されるのでも与えられるのでもなく分け与えられるスレッタの言葉に導かれて、そこから光が入ってくる。
 自分一人の思い込みが、心地よいサディズムでもって幻想を撫でる、閉鎖された自我子宮に閉じこもっているよりも、そこから滑り出して遠い何処かへ進みだしたこと。
 物語の始まり、二人が出会った時を再演しつつも、物語の中で変化し背負ったものを反射させながら、宙をさまよっていたミオリネの足は重力を捕まえる。

 二人で、地球に行く。
 一番最初の約束に二人が戻ってきて、清廉でありながらエロティックでもある……生きた二人だからこそ演じられる抱擁をその掌が描くのは、とても良かった。
 元々感情の勝負どころではフィジカルな表現力を極限まで尖らせて、そこに宿る説得力で解らせてくる作風であるけども、長い回り道を経て一番大事なものをお互いに掴んだ二人を描く時、一番その筆が冴えるのは素晴らしい。
 体と体の触れ合いには心が伴い、愛しさは温もりを求めて柔らかくも鋭く、身体的空間を先駆けていく。
 何も言わないからこそ多弁に、傷つき後悔しながらなお顔を上げ進み出す少女たちの誇りと優しさが、強さと気高さが全部籠もった、とても良い演出だった。
 温室やコックピットに”入る”こと、過酷極まる現実に立ち向かう強さを育む場所を共有する特別さを、絆と描かれてきた二人。
 彼女たちが最後の戦いに進み出す時、”出る”瞬間が分厚く描かれるのは必然的な変化であるし、運命を突破するために殺戮を選び、自分ではない誰かに”出された”一期最終話との呼応を考えると、より奥行きのある表現だと感じた。

lastbreath.hatenablog.com

 

 

 

 

 

画像は”機動戦士ガンダム 水星の魔女”第22話より引用

 スレッタの手を借り、㈱ガンダムの同志であり部下でもある仲間と再開して、ミオリネは彼女らしい負けん気と牽引力を取り戻していく。
 『総裁就任、ご愁傷さま』と投げつけられた皮肉に、胸を張って言葉を返す力もなかったかつての再開から、大きく様変わりしたミオリネに、シャディクは満足げだ。(ホンマキモいな君は……)
 企業宮廷の囚われ子として、確かに通じ合うものがあり、しかしお互いの過ちを止められなかった幼馴染は、何かを決定的に終わらせる戦いを前にしてようやく、信頼と期待を手渡しすることが出来る。
 数多の犠牲を出したテロルが、この爽やかな笑顔と同盟で帳消しになるわけでは当然ないけども、主役たちが過ちを間違いにしないために前に進むことを選ぶのなら、その道は捻じくれた王子様にも拓けていないといけないだろう。
 ……世界全てを呪う魔女にも、この再出発が用意されているかが、このお話最後の眼目って感じはするな、個人的には。

 遂に目覚めたクソ親父の視線も堂々受け止め、トマト齧って力を蓄え、進むべき道を真っ直ぐ、震えながら進む。
 僕らの好きなミオリネさんがようやく戻ってきてくれた手応えが、小気味役転がっていて大変気持がいい。
 遺伝子コードに愛のメッセージ仕込んでるママンは……正直ちょっと怖さもあるけども、そうして託されたものを噛み締め飲み込んで、前に進む活力に変えていくってのは、過ちを認めて無にしない今の決意と、良く噛み合っていると思う。
 五号やグエル、シャディクなんかの描写もそうなんだけども、状況や感情を動かすのに必要な骨格を豊かな情感で肉付けしつつ、不要な尺を使わぬよう小気味よく演出式って、パッパパッパと場面代えて劇作ノルマこなしていく手腕は、最後まで強い。
 ここでオヤジが喋れると、喋るべきことが山ほどあるので時間使っちゃうけども、喋れないんだから必要なだけコミュニケーションして終わり! ってのは、納得力が高いわな。

 そしてミオリネさんは誰より優しい人なので、スレッタが苦しみながらレベル5突破を達成した瞬間に祈りながら泣いちゃうのだ。
 ベルメリアさんが後悔に仕切りつけれないままベチョベチョズルズル生きている分、魔女の加護抜きでもアタシのダチはやれると信じ、クールな表情でどんどん前に進む颯爽が際立つけども。
 内心めっちゃハラハラで、命がけの試練が無事に終わることを心の底から願っていたのが溢れちゃうのが、チャーミングで大変良かった。
 オヤジはこういう愛と可愛げを鉄面皮に押し込めた結果、娘との関係がこじれた部分もあるので、ミオリネさんはクールにお仕事こなしつつ、止めようがないLOVEを素直に叩きつけて、それを受け止めてくれる人と手を繋いで未来に進んでくれると良いなと、心の底から思います。
 イヤもー実際、二人が最終決戦から無事帰ってきて、幸せに未来に進み出す姿見届けんとなんもかんも納得できんよ本当。
 そうしてくれる期待感は、しっかり積み上げてくれてんだけどさ。

 

 

 

 

画像は”機動戦士ガンダム 水星の魔女”第22話より引用

 というわけで最新技術を否定し逆用する嵐を超えて、最後の戦いが始まる。
 怪物と呼ばれたガンダムは大きな箒を携えた白い魔女にも見えるし、邪気を払う白無垢に身を包んだ花嫁にも見える。
 この”白”の象徴性を際立たせるためにも、ホルダーの白服が必要だったんだなぁ……という感じがするね。
 誰かが用意してくれた安全圏に閉じこもるのではなく、真実届けたい思いを手渡す資格を示すべく、自分の意志と誰かの手助けでここまでたどり着いたスレッタ。
 僕は話の本道から降りても良いのだと、あえて示して物語にそのキャラがいる意味を問い直す展開が凄く好きなんだ。
 スレッタがガンドの呪いに苦しみつつも、実力でこじ開けた道の先でエリーはその決意を問うけど、そこに入れば安全無敵な中央管制装置からわざわざ這い出して、大事な妹の顔見に来たお姉ちゃんもまた、『わざわざ、なんで』をしっかり問いただされているんだな、って感じがする。
 錯綜する感情はもはや、血で濡れなければ決着を見ないのか。
 そうだ、となにかを諦めることでしか前に進めなかった母に、そうではない、と見つけた自分だけの魔法を届ける夢を、スレッタは叶えられるのか。
 正念場である。

 第1クールではあんまりにも無敵の自動戦闘装置過ぎて”主人公機”っぽくなかったエアリアルが、世界に呪いを振りまく最強の使い魔としてここで存在感を増してくるのも、かつて自分が決闘相手を惨殺処刑してきた戦い方が敵に回り、ソフィと対峙した時は共有できなかった痛みをその身で引き受けながら乗り越えていく姿には、積み上げた描写だけが生み出す変化が、しっかりと刻まれていた。
 五号とノレア、あるいはミカが三馬鹿部屋で間近に接しつつも、心を通じ合わせきれなくてあの結末を迎えたように、お互いの立場が違いすぎて断絶を共感が乗り越えることが難しい瞬間は、人の定めとして確かにある。
 しかしそれが死に終わったとしても、過ちだったとしても、それを無にしないために五号はスケッチブックをずっと持ち続けて逃げるのを止め、ミカは決着を付けて裁きを受けて、もう一度進み出すことを心に決めてもいる。
 母の愛に縛られていたスレッタは、ガンドの呪いをエリーに引き受けてもらい、借り物の特別さで地球の魔女たちの痛みを遠ざけ、通じ合えなかった。
 その結末を見据えた上で、特別でなくなってしまった生身を赤く焼きながら、スレッタは自分だけの箒で、戦場を駆けていく。
 その痛みはソフィやノレアとはやっぱり違うもので、でもどこかで同じで、見当違いで的はずれな共感がちょっと遅れ気味にたどり着くことで、魔女たちは今いる場所より少し眩い未来に、進み出せる……のか?
 正念場である。

 正念場なんだよ,わかってるのラウダくん!?
 と突っ込みたくもなるが(尺もねぇしな!!)、んなこといったってギリギリ人生激ヤバポイントなのは彼もおんなじで、誰にも重荷を預けれないまま感情をグツグツ言わせた結果、行くしかない場所にたどり着いてしまった。
 オヤジ相手には対話成立させられないまま、ぶっ殺し合いの地獄絵図に陥ってしまったわけだが、リベンジマッチとなるこの身内戦グエルは勝利で飾れるのか。
 狭い思い込みの奥、孤独なまま引っ込んでるとマージでろくでもないことになると実を持って知った兄ちゃんの、情念バトルも同時開幕だなッ!
 唯一相談できるペトラは生き死にの境で、孤独になるしかなかったラウダがここに追い詰められているので、あの暗い場所からミオリネが出てこれたのは何故か描いた、その裏打ちなんだなぁ……って感じね。

 

 という感じの、最終決戦前夜……であり、真白の黎明でした。
 戦うべき理由も資格も、戦場の外側でしっかり示してクライマックスに入ってくれるのは、見てる側の気持ちをどこに持っていけば良いのか、迷いがなくなってありがたい限りです。
 ここでママンの呪いを解こうが、暗黒大要塞を撃墜しようが、旧さと新しさの狭間で軋む中世的サイバーパンク世界の問題が、消えてなくなるわけではない。
 それでも、だからこそ生身の自分が大事に思えるものを、選び間違えたその意味をしっかり背負って、誰かの手を掴んで進んでいく。
 そういう手応えのある決意が、決着を前に強く叫ばれたのは、とても良かったです。
 残り話数も多くはないが、このお話なら何もかもを語り尽くしてくれるという、期待と信頼。
 それを握りしめながら、楽しみに次回を待ちます。