イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第11話『【アイドル】』感想

 光と影、祈りと呪縛が交錯する芸能界転生復讐サスペンスも遂に千秋楽!
 新生B小町の初ステージと、まだまだ続いていく恋と青春を鮮烈に描きつつ、当然行くぞ夢の二期!!
 最後までエネルギー満点、必要な分だけクオリティと叙情性で殴り倒す作風で、たっぷりと楽しませてくれる、アニメ【推しの子】一期最終回である。
 最後までかなちゃんが湿り気たっぷりで、大変良かったです。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第11話から引用

 作品を象徴する水色と赤に塗り分けられた、あまりにも美しい夜。
 華やかな新生B小町のデビューは爆音の”STAR☆T☆RAIN ”に彩られつつ、有馬かなは奇妙に冷えた自意識を手放せない。
 惚れた男のお誘いで、成り行きに流され行き着いたセンター。
 可愛い後輩たちへの義務感は強いが、”アイドル”の魔法に脳が染まり切っていない彼女は、自分が立っているステージを自分のものだと思い込めない。
 作画クオリティが爆裂し、演出がスタイリッシュ&パワフルに冴えるほどに、過剰なモノローグで舞台と自分の遠さを語る有馬かなが際立っていく。
 この冷えた手応えを、最終回最大の見せ場に忘れず持ってくるところが、このアニメらしい陰湿さで好きだ。

 挫折した子役として人格バッキバキになってるかなちゃんと、負けず劣らず悲惨な過去を持ちつつなお、ステージ上の太陽として母譲りの……まるでアイの亡霊が乗り移ったかのような輝きを見せるルビー。
 熱狂の渦中にいながら、楽しめきれていないかなちゃんをしっかり横目で確認して、一番間近な観客として光を届けようとするところに、彼女の天性がある。
 難病によって病室に閉じ込められ、遠いステージを夢見ながら幼く斃れた天童寺さりなにとって、”新生B小町の星野ルビー”は夢の続きのように眩しく、幸福な光に満ちている。
 その精神性が赤い閃光となってステージから迸り、看板を借りただけじゃない伝説のアイドル再来を印象づける。
 かなちゃんが観客席を『白いペンライトがない場所』としてしか見れず、パフォーマンスに集中しきれていないのに対し、ルビィちゃんは心から楽しいからこそ周りを見る余裕があって、一番大事な仲間にむかって、眩い笑顔を届けようとする。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第11話から引用

 そして、届ききらない。
 先週あんだけエモい絵面で、アクアへの恋だけで心を専有している狭さから、過剰な義務感と疲弊しきった老兵の足取りから抜け出せたように見せて、有馬かなが囚われている檻は湿って強い。
 心の底から”今”に突き進めるルビーの若さに、”アイドル”を心底愛する熱量に焼かれながらも引っ張られることはなく、そうはなれない自我の引力に身を任せて、深く深く沈んでいく。
 その湿り気が、彼女が恋している転生者のそれと良く似ていて、水属性どうし相性最高(で最悪)だと思ったりもする。

 業界のルールを飲み込んで、今自分に出来ることを精一杯やり切って、捻くれながらも全力で、夢に向かってひた走る。
 それが唯一正しい道だと解りつつも、そういうアホな歩みに乗っかれない賢さが視界を塞ぎかけた所で、かなちゃんの瞳はたった一人”白”を握る青年を見つける。
 かつて推しであり母でもあった彼の愛に、一心不乱に捧げたのと同じヲタ芸をハートの中に掴まえて、かなちゃんはようやく”アイドル”に必要な輝きを眩しく放つ。
 一心不乱で、嘘と本当が愉しさの中で溶融して、灰色の世界を何もかも忘れてしまえるような、夢中の夢にたどり着く。

 

 その狂騒が見た目ほどには優しくも幸せでもなく、とても危ういモノだと静かに切り取ってきているのが、このアニメの好きなところだ。
 あかねに目を奪われた時もそうだが、アクアは現世で女の子を視界に入れる時、かならずアイを重ねて見つめる。
 推しであり母であり患者でもあった、極めて異常で特別な関係性と感情で繋がった、彼だけの星の幻。
 それを介することでしか、今のアクアは誰かを好きになることが出来ない/それを自分に許さない。
 アイ以外を視界に入れることで操を破り、全人生を復讐に捧げる誓いを凡人がやり遂げる無茶が、揺らぐのが怖いのかもしれない。
 捻れきって名前をつけにくい関係性の中で、名前なく湧き
 ともあれ、アクアは10代の自分が当たり前に出会う、彼のことを好きな女の子をそのまんま好きにならず、好きになりそうな自分を許しもしない。
 でも、本気で突っ走っている奴を応援しないことも、また出来ない。

 そして有馬かなはそんな内情はつゆ知らず、自分のために無様を晒してくれる青年だけを見つめて、”アイドル”に化けていく。
 有象無象の褒め言葉ではもう満たされず、多分世界がかな推しの白に染まったとしても乾きっぱなしの、自己肯定欲求。
 それが満たされるべき場所はアイドルのステージではなく、自分が誰かに成り代わることで他でもない自分を示せる劇場だけだ。
 星野アイが不定形で不鮮明な誰かへの/誰かからの愛を貪りながら、満たし返しながら”アイドル”になりきれたのに対し、有馬かなが求めているものはもっと狭くて特別で……アイが死に際ようやく、本当で嘘じゃないのだと確信できたような一撃を求めている。

 それは多分、彼女が自覚しているとおり”アイドル”じゃ満たされない。
 世の中の道理を賢く飲み込んでいるつもりで、それじゃまったく熱がない渇きに耐えかねて、情念が求める大間違いに頭から飛び込めてしまえる少女に、偶像稼業は務まらないのだ。 ここでアクアという、彼女だけの”アイドル”に爆レス貰っちゃったことで、かなちゃんは全く向いていないアイドル稼業に可能性と適性を見出し、必死に頑張っていくことになる。
 ファンが求める完璧な偶像にも、そうであることで埋まる乾きにも興味がないままに、特別なたった一人が自分を見続けてくれるから、『みんなの有馬かな』であり続けようとする。
 その鮮烈に惹かれつつ、ずっと遠い母の星を見続けている男の視線と、華やかなステージから見つめるかなちゃんの祈りは、否応なくすれ違っていく。
 かつて星野アイの物語を通じて示されたように、特別な光を見出しそれを追いかけることは、灰色の人生を色で満たす祝福であると同時に、順当な幸福から足を踏み外す呪いでもある。
 華やかで最高のデビューステージの奥で、チクタク時を刻む関係性の時限爆弾が炸裂するのは、しばらく先のことになるだろう。

 

 

 

画像は”【推しの子】”第11話から引用

 とはいえ迷いを振り切ったセンターの才気煥発、頼れる大人にも見守られて新生B小町のデビューは大成功! である。
 ここで対外的な成功よりも、狭い社内でたった一人自分を満たしてくれる少年に向かって、狭くて熱い感情を向けるのが、有馬かなという少女である。
 かなちゃんの大人びた外面と真逆の、くるくる渦を巻く純情を丁寧に描いてきたアニメは、最後までチョロくて可愛い少女の今を、活き活きと描いてくれる。
 そこに巻き込まれて時に対等に、肉体年齢相応にフザケたり怒ったり本気になったり出来る自分を、アクアはどう見つめているのか。
 彼が意識して肯定しないようにしているものを、愛する妹はやっぱり良く見ていて、捻じくれた二人が生み出す特別な素直さに、にっこり微笑んでもいる。

 そして家族目線も無邪気なルビーちゃんが、気づいていない地雷に賢い年長者は気づいてしまうのであった!
 MEMちょ……苦労人で常識人なばかりに、貧乏くじを引き続ける女展点。
 共に修羅場を乗り越えた仲間と、B小町という運命共同体の相棒が、同じ男を好きになってしまっている状況の激ヤバっぷりが解っているのは、酸いも甘いも良く知ってる25才だけーッ!!
 ……って言いたいところなんだけども、MEMちょにもアクアのどす黒い部分、転生者として背負った捻れは全く共有されていないので、この三角関係は見た目よりも更に極ヤバな地雷原なまま、このまま突っ走るぞッ!
 復讐者としての自己定義を伝えるためには、アイとの捻れた親子関係、転生者としての秘密を伝えなきゃいけなくて、これが明かせるなら物語は拗れていない。
 『二人の恋は一体どうなっちゃうの~~~』っていう、キャッチーなサスペンスの奥にもう一枚二枚、ネバつく因縁が絡み合っているのはこの話らしい。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第11話から引用

 そんなバチバチとネバネバを引きずりつつ、行くぞ2.5次元舞台編!
 悪い大人が色々裏取引をして、稼げる算段整えた上で動き出す夢舞台には、古い因縁と現在進行系の恋模様が、バチバチと燃えて既に温度が高い。
 アクアを間に挟んでのかなとあかねの距離感が、もう一つ”芝居”という頂点でも危うい均衡を保っていて、お互い本気だからこそ相手には負けたくない気持ちでピリピリ張り詰めているのが、傍目から見届けるには面白い。
 当人にとっては憧れと負けん気に色恋が混ざった、爆発寸前の混合気に身を浸しているのは楽じゃないんだろうけど、その分厚い感情が本気で嘘をつく職業を選んだモノに、特別な何かを生み出しもするだろう。

 あかねとの2ショットはあくまでファンに向けたアリバイでしかなく、かなちゃんが当てこするほどにあかねとアクアの間合いは近くないわけだが、”芝居”に関しても多分同じことが言える。
 あくまで復讐のための足がかり、アイの真実にたどり着くまでの迂回路として、アクアは芸能界を見ている/見るようにしている。
 そこで(彼のことが大好きな二人の少女のように)演じることの魔力に取り憑かれてしまったのなら、復讐以外に生き生き楽しめるものを見つけてしまったら、あの時奪われた愛に報いることなんて出来ない。
 そう考える彼に、数多の才能が集う”東京ブレイド”は何を教えるのか。
 全霊を込めて丁寧に向き合うというには、ちと乱雑な起き方をされた台本がブラインド越しの明暗に照らされる姿には、なかなかオモシロそうな予感が満ちている。

 『俺は復讐以外よそ事だし……凡人だから一個のことしか出来ないし……』とうそぶきつつ、生来体温高くて本気の輩を見逃せないアクアが、思わずマジになってしまう様子は面白い。
 クール気取りがホットに変わる、感情の相転移がカロリー高い……ってのもあるけど、そうさせる芸能の魔力を、復讐鬼の寄り道を通じて感じ取れるのが良いんだと思う。
 天性の才能と冷淡でそういう都合を丸呑みにして、誰のものでもないまま特別な星になった”アイドル”は、舞台裏の影に潜んでいた怪物に貫かれて死んだ。
 アイですら乗りこなせなかった大きなうねりに、アクアも他のキャラクターも飲み込まれ翻弄され、あるいは時に狡賢く利用して自分の願いを引き寄せながら、運命が転がっていく。
 その境界線を明瞭にしにくいないまぜは、例えばアクアにとっての星野アイがどんなそんざいであるかとか、それを失った星野アクアがどういう存在であるべきかとか、新生B小町が”アイドル”を見据える視線のズレだとか、甘酸っぱく危うい恋模様が見た目よりシンプルではないこととか、作品の様々な要素に反射している。

 勢いと話題性に任せた粗雑な力強さと、共通し相反する各要素が呼応して生まれる響き両方が、原作の魅力を120%Animateしきる才能との出会いによって、綺羅星のように輝くアニメ化だったと思う。
 一期ラストを飾るアクアの瞳のように、眩い混沌を全部飲み込んで世界は、吐き気がするほどに魅力的だ。
 かくして、ショウは続く。
 二期がとても楽しみだ。

 

 

 というわけで、【推しの子】ファーストシーズン無事クランクアップ……である。
 まさかまさかの初回一時間半スペシャル、バッキバキに力んでぶん回された一撃はOP二億回再生の場外ホームランを呼び込み、作品が置かれたメタな状況それ自体が、バズだの映えだのをミーハーに取り扱うテーマ性と、面白い共鳴を生み出しもした。
 ショッキングで生臭いネタをビシバシ扱い、スレた現実路線と青臭い理想主義を混ぜ合わせて、恋にサスペンスに芸能界お仕事物語にと、様々なジャンルを力強く横断していく。
 そういう勢い任せなパワーを、叙情性豊かな演出力、象徴性を巧みに生かした画作りでしっかり落ち着かせて、色々捻れつつも青春真っ只中にいるキャラクターたちの微細な心境を、しっかり視聴者に教えてもくれた。
 ナイーブな表現力が全局面において元気で、とても詩的なアニメでもあったコトがこのアニメの強さだってのは、何回言っても足らないね。

 バチバチ火花を散らす恋模様にしても、人間の明暗を行き来する復讐劇にしても、華やかさと醜さを併せ持った芸能界にしても、見ている側を引き付けるハラハラとワクワクは、一旦の終りを迎えて全く緩む気配がない。
 むしろ加速に加速を重ねて、グチャグチャに乱れた因縁と感情の先に突っ走っていくスピード感が、どこまで突き抜けてくれるのか。
 期待を高め、望みに応える最高の”アイドル”としての資質を、作品自体がモニタの向こう側にビシバシ届けてくれる、素晴らしいアニメでした。
 このスキャンダラスで危険な……だからこそ目が話せない歩みが、何処にぶっ飛んでいくのか。
 二期が大変楽しみですが、今はひとまずの御疲れ様を。
 楽しかったです、続きを心待ちにしています!!