イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

BanG Dream! It's MyGO!!!!!:第1話『羽丘の不思議ちゃん』感想

 今、新たなガールズバンド神話が湿度高めに幕を上げる!
 去年夏の”Morfonication”に続いてのバンドリ新アニメは、掟破りの三話一挙放送でのスタートとなった。

 取り敢えず一個ずつ噛み締めながら感想をかいていくことにするが、第一話は新バンド”MyGO!!!!!”メンバーの内、燈と愛音をクローズアップしてじっくり追いかける感じ。
 開幕の勢いに任せて、一気に新バンド結成! ……どころか、かなり凸凹の多い人格を落ち着いて視聴者に見せるスローテンポに、逆に気合を感じることが出来た。
 ストレスフルな展開やバロックな画作りも多く、見ている側を素直に気持ちよくさせてくれる気配はないのだけども、同時に周囲の風向きばっか気にしている軽薄人間の潜熱だったり、スイッチのオンオフが激しい赤ちゃん人間の生真面目だったり、ただダメなだけで終わらない二面性を、じわりと感じることが出来た。
 迷子とMy Goalが重ね合わされているバンド名、画面全体に漂う湿り気ときな臭さ、EDのド直球アコースティック・フォークっぷりと、生きることに色んな難しさがある連中がそれでも自分たちなりの出口を探して、難問かき分け進んでいくその始まりを、豊かな味わいで楽しめた。
 僕はクラくてナイーブな話の方が飲み込みやすい傾向にあるので、それぞれの研ぎ方でエッジを立てた青春ナイフ人間達が、不器用に触れ合ってはその温度に慄く及び腰な展開は、むしろどんとこいである。
 今後もズケズケと他人の心に踏み込み、反発に振るわれた刃に傷つけられて、それでも近づきたい願いを歌に込めて、物語を進めて行って欲しい。
 一言でいうと……俺、結構好きだわこのアニメ。

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第1話より引用

 というわけで大型コンテンツの新たな船出を祝う、新アニメ初手一発目。
 『パステルカラーの百合色キャッキャウフフは品切れだよッ! 湿度高いギスギスが欲しいバカだけついて来な!』とばかりに、暗いザンザン振りの中でバンドの空気が最悪になる。
 せ、攻めたねェ~~~。
 俺は好きだけども、結構な人が初手バイバイになりかねない一発目で、大変良かったです。
 このモノトーンをスタート地点として”My Go”が始まり、”CRYCHIC”が終わったわけだ。

 そんなプロローグは水滴だらけの窓ガラスに、虚ろに揺れる少女の残影から始まって、黒と白に塗り分けられた涙雨のアップで終わる。
 心も体もずぶ濡れなツンツンお嬢様に、依存しすぎた不思議ちゃんとその過保護な荒くれ少女と、砂糖菓子みてぇな甘さと無意味さで場をつくろう偽装善人と、口からナイフしか出さない全身抜き身人間。
 『そらーぶっ壊れるわ……』という危ういアンバランスを短い描写で解らせる、象徴性の強い画作りが良く生きている場面だ。
 崩壊のサワリだけを見せられた形だけども、なんとなく”CRYCHIC”がどういう人間集団で、どんな引力でなんとかまとまってきて、この雨の日に崩壊したかは、この不協和音だらけのシーンで感じ取ることが出来る。
 この崩壊から燈が新たなバンドを作り、自分なりの歌を見つけていく物語がどういう密度と温度と湿度で展開していくのかを教える場面でもあるので、バッキバキに空気最悪だったのは非常に良かった。

 上手く人間出来ない燈にとって、祥子と彼女が作ってくれたバンドは大事な心の支えで、でもその歪な依存は持続可能な人間関係を育むには危うすぎて、感情の静脈瘤が破裂した結果この末路……って感じかなぁ。
 燈がどんだけ人間未満の人生バブちゃんなのかは、序章が終わって愛音の物語が動き出した後に良く見えてくるので、それに裏打ちされる形でこの衝撃のオープニングに、見ている側が中見を足していく感じだ。
 ショッキングな出来事をいきなり突きつけられると、人間はそこに意味や物語を見つけたくなるもので、”CRYCHIC”の終わりだけを凄い湿度で叩きつけるこのスタート、愛音が燈を追いかけ知っていく足取り(つまりは、彼女を窓にして視聴者がこのアニメとその主役を解っていく足取り)を、強引に引っ張る強さがある。
 なぜ彼女たちは、こんなに暗くて寒々しい雨の中引き裂かれていくのか。
 そこら辺を空中に投げ渡すでもなく、急ぎ足で語りきるでもなく、十分な分厚さと湿り気を残して描き切る為に、一挙三話放送という奇手に出た……のかなぁ?
 ここら辺は今後、話数に追いついていく中で狙いが見えるところかもしれない。

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第1話より引用

 というわけで序章が終わり、話の中心は千早愛音へと移る。
 『いきなりジメジメギスギスで殴っちゃってごめんね! 本編は明るいピンク髪の陽キャ女がグイグイ行く話だからさ!!』と、そんなわかりやすいコントラストで話が転がるはずもなく、転校初日の少女を包囲する世界は奇妙に白けた、外面だけを整えて学校内立ち回りに怯える、なんとも不自由な色彩だ。
 名前に”匿名(Anonymous)”の省略形を孕む愛音は、過剰なモノローグの中で周囲と自分を常に値踏みし、形だけの充実と人間関係を追いかけて学校の中、彷徨い続けている。
 羽丘のモブたちは非常に親切で善良で熱心で、ツルンと滑らかな人間の形を保っているわけだが、モノローグとカメラワークが切開する愛音の内面はそんな”普通”に全く追いついておらず、そんな自分の歪さや欠落をどうにか”普通”に追いつこう、当たり前の幸福を嘘っぱちの仮面で窃盗しようとする、さもしい根性が見え隠れする。
 それが彼女の本当ではないのだと、自室に据え付けられて動かないカメラが良く語ってくるわけだが、では彼女の本当はどこにあるのか。
 一瞬差し込まれる、メガネの灰色Anonymousが愛音の欲しいものではないことは、動き出した物語を当惑しながら見ている立場としても理解る。
 それは、もうひとりの少女と彼女の音楽に出会うことで、動き出す物語だ。

 この世の楽園(エデン)が舞台でなければ、確実に異物として排除されていただろう、羽丘の不思議ちゃん。
 奇人変人集う天文室をシェルターに、石や草だけを共に生きてきた彼女は一人が平気というわけでもなく、ペンギントークが一緒にできる相手をずっと求めている。
 ここで執着を示すのが『飛べない鳥』というところに、彼女の歪さがまた一つ垣間見える感じだけども、バンドで死ぬほど傷ついた結果燈は、愛音が『みんなやってるし』で気楽に差し出した誘いを、強く握った拳で断る。
 愛音がなんとなく適当に普通に……おそらく中学時代そう出来なかったからこそ今、かなりの力みで乗りこなしている人生の波と、燈は上手く踊れない。
 自分の中で過剰に膨らむ何かを、誰かに受け止めてもらいたくて失敗して、それでも溢れて止まらないから触れ合った掌に重たすぎる荷物を乗せる。
 感情のボリュームバランスが完全にぶっ壊れちまってる少女と、かつて触れ合って壊された少女がガラス越し、交わらない視線を投げあっている。
 祥子→燈の感情、間違いなく現在進行系で導火線に火がついてるな……。

 

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第1話より引用

 カラオケには入っていない、もう失われてしまった私たちだけの歌。
 その残骸を捨てられない燈の心も知らず、愛音は気楽に軽やかに受付をすまし、顔を上げないまま選曲をすませていく。
 ”CRYCHIC”ではボーカルやってたのにカラオケに来たことすらない燈も、クラスメイトの親切を『そこまで本気でやりたいわけじゃない』と跳ね除ける愛音も、音楽それ自体に惹かれているというよりは、そこに付随する(していた)なにかを求めているのが現状なのだろう。
 人間を上手くやれない少女と形だけ人間になろうとする少女の在り方は真逆で、愛音が表層だけなぞっている(というのが、羽丘モブが演じた”正解”を見ていることで良くわかる)『良い人の人の良さ』にギリギリ受け止められる形で、二人のファーストコンタクトは駆動している。
 そこには愛音のバンドメンバーが燈でなければいけない理由も、傷を乗り越えて愛音を選ばなければいけない理由も、未だ芽生えてはいない。

 人間の表層と深層、求める願いが決定的にすれ違っていながら、出会ってしまった運命は確かに何かを動かし、新しい歌を奏で始める。
 一度壊れてしまったものを、奇跡のようにもう一度作り直せる未来に話が及んだ時、愛音は端末からようやく目を上げて、真逆の二人が唯一交錯する一点を無自覚に見つめる。
 その瞬間、世界に音が溢れ、光が満ち始める。
 未だバンドではない彼女たちの運命が、決定的に動き出してしまうその瞬間、借り物で作り物のカラオケがそのスタートを告げるのが、僕はとても良いなと思った。

 それは皮相で不器用なすれ違い、じくじくと痛ましい小さな擦過傷に満ちているけども、確かにこのあと1クールの物語を駆動させるに足りる、特別な出来事なのだ。
 同時に天が全てを祝福してくれるようなドラマティックから遠く、他人の真心や熱意を適当に消費しながら生きてしまう危うさとか、湧き上がる過剰さを抑え込んだ結果の寡黙さとか、非常に生っぽい手応えを確かに宿している。
 萌えキャラ記号から半歩はみ出した、『あー……こういう人おるわ。困っちゃうね』と妙に身につまされる、キャラクターと世界観の造形だけが生み出しうる、等身大の熱量と湿度がどんなものか、第1話でしっかり届ける描写だと思った。
 このお話はバンドの物語なので、何かが動き出すときには歌がいる。
 だがそれは、まだ”My GO!!!!!”のLiveではないのだ。

 

 

 

画像は”BanG Dream! It's MyGO!!!!!”第1話より引用

 過去の傷に押し流されるように、新しく鳴り出した音楽に背中を向ける燈と、追いかける愛音。
 微笑ましくはない追いかけっこを描く強い歪みも、狂犬にして番犬である立希の凶暴な視線も、良い火力持ってて最高。
 じっとり湿って、あるいはどっしり落ち着いて展開しつつも、所々異形のセンスが生み出す鮮烈な”絵”が己を主張してきて、『どうにも普通の話ではないぞ……』と思わされるのが、第1話として大変いい感じ。
 ここら辺は柿本監督のセンスだと思うので、今後も要所要所で暴れてほしい感じである。

 普通であろうとする愛音の振る舞いは、当たり前に無遠慮に燈の過去を踏みつけにして、彼女を痛みから逃走させる。
 しかし下を向いて口ごもり、かと思えば過剰な勢いでワケの分からない何かを訴えてくる燈の抱えたものを、全部先回りして奥を読み切るのも、当たり前に不可能だ。
 青春という楽譜に何が描かれているのか、慎重に覗き見る優しさと賢さが今の愛音には足りないし、それを適切に差し出せるスキルと心が今の燈には無い。
 そういう危うさが、立希ちゃんを凶暴な騎士様にさせてんだろうなぁ……この王子様気取りが、燈が背筋を伸ばして目の前の景色、そこに立ってる誰かと自分をちゃんと見るのを遮る壁にも、なっちゃってる形か。
 出会う連中軒並み問題アリアリで、でも間違いきってもいない不思議な足取りは、一体どこに続くのか。
 青春迷子たちの物語は、迷ったまま幕を開けていく。

 

 という感じの、ナイーブで穏やかな第1話でした。
 メイン二人の出会いと衝突で終わって、関係性構築まで終わりきらないスピード感は今どき遅すぎるのかも知んないけど、それはどっしりと個人を描く覚悟の表れとも感じた。
 ゆっくりと二人の接触を書いてくれたおかげで、形だけ優しさを整えてる愛音のズルさが問題山積な出会いをなんとか受け止めてくれてる様子とか、そういうツッコミ方をしなければ生きていけない燈の真っ直ぐさとか、ヤバさだけで終わらない各キャラの善さが、じんわりと届いた。
 キャラが持ってるイラガっぽい棘を隠さず描きつつ、その隣に確かにある『あ、この子好きになれるかも……』って要素もちゃんと描いてくるの、やっぱ良いわな。
 こうやって描写の一つ一つから、虚構の中生きてる人間を自分なり解っていけるお話はとても好きなので、今後もこの繊細な筆致が積み上がってくれると、僕としては嬉しい。

 すれ違いつつも確かに何かが繋がっていて、しかし致命的にズレてもいる。
 そういう人間の当たり前を、偽装系リア充女子と激ヤバ小動物の出会いのなかで強く発火させてのスタートが、どうやってバンド結成までたどり着くのか。
 燈に強火の感情燃やしている元メンが既に二人もいて、ここら辺の発火加減も今後の楽しみですが、何もかも仮初でしか繋がれない愛音が今回であった燈(と彼女の音楽)を、特別だと認めていく過程に強く興味があります。
 『世の中こんなモンで、だから私はこうじゃなきゃいけないんだ……』と、明るい仮面ハッつけて自分も他人もナメてるピンク髪が、感情がブラックホールになるくらい質量デカいヤバ人間に出会ってしまったことで、剥き出しにされていく物語ほど好きなもんねぇからな……。
 次回も大変楽しみです。さー追いつくぞ!!