鎖を解かれた獣は、もはや止まらない！
恋心を自覚した三重さんがマジでグイグイ来る、青春の相転移を秋空に照らすすきめがアニメ第10話である。
前回課外授業を起爆剤として、三重さんが見つけてしまった思い。
これを背中に受け、持ち前のイノセンスを加速させて一気に小村くんの現在地を追い抜いていく様子が、大変小気味よかった。
これまでは小村くんが表に出ない異常興奮に身悶えし、無垢な三重さんを至近距離で堪能する作りだったわけだが、三重さんのスイッチが入ったことで気持ちを自覚して間合いを詰める側に切り替わった。
三重さんが恋を自覚したことを、自制心の強い変態である小村くんは気づかない（気づけない）まま、ずーっと二人きり側にいたい三重さんの無邪気な欲望に翻弄され、砂かぶりで浴びせかけられ、身を交わしては距離を詰められることになる。
変態紳士の密やかな欲望だったものが、無邪気少女の可愛い暴走へと形を変え、その変貌に周囲が感づいてちょっかいを出すことで、不変なはずの関係性がグツグツと煮込まれていく。
残り話数も後少し、いいタイミングで話の潮目が変わって、クライマックスに相応しい力学が駆動し始めた。
これがどこに行き着いてアニメが終わるか、とても楽しみになる手応えアリのエピソードでした。
とはいうものの、三重さんも小村くんもこれまでと変わらず無邪気でシャイで情熱的で、大変に可愛い。
自分の気持ちに気づくことで、ぼんやりぼやけていた世界は鮮明さを増して形を変え、その中での振る舞いも変わってくるけども、しかし人間の根っこ……誰かが誰かを好きになる根源が変質するわけではない。
意識してガンッガン、好きな子の近くを専有するになった三重さんはあいも変わらず独特のテンポで世界を泳ぎ、不思議な気合をみなぎらせて日常を過ごす。
それが、小村くんが好きになった三重さんだ。
むしろ恋を自覚し至近距離に長くいようと頑張るようになって、今まで以上に可愛く面白くもなっている。
思いを伝えるとこまで一気に走り抜けて、堂々イチャイチャもチューも出来る関係になるのではなく、今自分がしたいことを好き勝手に堪能し、小村くんLOVEを身勝手に略奪する姿には、三重さんらしい元気が溢れていた。
こうやって、恋を通じてより自分らしい自分に進み出せる姿を見ると、大変ホッコリする。
親しい距離に立つこと、触れ合うこと、触れることを許すこと。
これまで無自覚に、優しい父の面影を延長しながら小村くんと過ごしてきた時間は、家族には感じない感情が鮮明になったことで、その意味を少し変えている。
無自覚に優しくしてもらっていたことが、自分がしてあげたいことなのだと身をもって理解したことで、前回惨めさに泣きじゃくっていた三重さんの気持ちも、結構前に動いたのだろう。
好きだから、なにかしてあげたい。
側にいたいし、見つめたいし、二人でいたい。
小村くんがこれまで一方的に感受してきた特別な……特別だということを自覚しない／されないよう高まり緊張する距離感は、もはや双方向な共犯へと変わっている。
しかし『そんな事はありえない、あってはいけない』と己を抑え込むことで、三重さんの間近にいる自分をなんとか許してきた小村くんにとって、『三重さんが僕を好きかも』という夢は、現実になってはいけないものだ。
特別でなければ許されるはずもないのに、無邪気な無自覚が産んだ幸せな偶然なのだと言い聞かせることで、ぎりぎり保たれている恒星系。
三重さんという太陽が自分から動き出すことで、この均整が幸福に崩れてきている感じがある。
それは何かが終わる悲しさや怖さではなく、より幸せな方向へと転がっていく楽しい予感に満ちていて、微笑ましくも力強い。
言葉や行動や形にならない、不定形なのだが特別な思いに溢れた、瑞々しく無垢なすれ違い。
ラブコメディで一番美味しい所は、追う側と追われる側が立場を変えつつもまだ保たれていて、『学友の微笑ましい交流』というガワは、おませな同級生にヒューヒュー突っ込まれつつ、決定的な変質から距離を保てている。
この、何かが変わりつつ何かが保たれているダイナミズムがとても面白くて、自分はやっぱり物語が変貌していく瞬間が好きだな、と思った。
この変化を心地よく見れるのは、”見る”小村くんと”見られる”三重さんという固定した関係性のまま、お互いのらしさをたっぷり味わえる足踏みの時間を、長く取ってくれたおかげかなという感じもある。
ワンアイデア、ワンシチュエーションに燃え盛るトキメキを、灰になるまで使い倒した上で生まれる変化の真ん中には、恒星系が壊れても変わらない”らしさ”が確かに残っていて、それさえあれば何がどうなっても、二人は大丈夫。
そう思える信頼感がキャラとお話にあってくれてるのは、変わっていく二人に置いてけぼりにされるのではなく、まだまだ幼く不器用で真っ直ぐな彼らと一緒に、かけがえない変化へ進み出していける心持ちの足場だ。
今回描かれたちょっとした……そして決定的な変化が、二人の関係を大きく書き換える結果になるかもしれないし、少し座標が変わった日常が積み上がるかもしれない。
どっちでも、楽しく見届けられそうな予感が微笑ましいやり取りの中元気で、大変良かった。
これまでは小村くんが無防備で無自覚な幸せを甘受してきたわけだが、三重さんが幸せを与えること（それは奪うことでもある。幸福な相互共犯だ）に自覚的になったので、ふれあいにおいて一個ブレーキが壊れた感じがある。
その変貌を、積極的に髪を触ってもらいにいく三重さんと、そうして差し出されたものに触れるはさみと指先に震えを宿し、リビドーと自制心の狭間で悶える小村くんの姿で浮かび上がらせてたのは、大変良かった。
これが第二次性徴に適応した同士なら、もうちょいエロティックな誘惑がドンドコ飛び出すタイミングなんだろうけど、三重さんは無邪気ベイビーなので差し出せる最大限は『髪を切る、髪を結う』になる。
しかしふれあいを求めること、それを許し誘い込むことの本質は、幼い行いの奥に熾火のように燃えており、この前のめりに天使から漏れる熱が感じ取れ、大変良かった。
そこに恋だの性だの、分かりやすいラベルはつかないけども、つかないからこそ行き所のない強い感情を、グイグイと押し付け幸せになる。
燃え盛る恋心にピントが合ってしまった三重さんが、当惑を一足飛び追い越して野の獣のように、のびのび己のリビドーと向き合っている姿が良かった。
そして小村くんは、そんな接近に当惑を深める。
なまじっか恋心を自覚できていた分、偶然の至近距離は手を伸ばせば消えてしまう幻であり、思い上がって双方向なつながりを求めないよう己を抑えていた枷が、三重さんの真意を彼に届かせない。
恋など解らぬまま、男女の区別もないまま、心細さを埋め合わせるために選ばれたダンスパートナー。
そういう位置取りで自分を縛ることで、心臓バクバクのゼロ距離に耐えてきた少年にとって、一瞬で書き換わってしまった現在地を認めること、それに従って己と世界を変えていくことは、なかなか難しい。
無垢で変化しない物語的役割が、三重さんから小村くんに移った感じもあるなぁ……。
というわけで、何かが大きく変わり、しかし何も変わらない不可思議なダイナミズムをたっぷり浴びて、死ぬほどニヤニヤする回でした。
健全な自己充足に満たされつつ、気づいてしまった思いに嘘をつかず、めっちゃグイグイ行く三重さんの、鎖を解かれた獣っぷりが良い……元気にお過ごし……。
小村くんがある意味一方的に三重さんを略奪する距離感で進んできたお話が、三重さんが自分と小村くんの好意にピントがあったことで逆転して、三重さんだけがお互いの気持に感づいている状況になっているの、気持ちいい相転移だよなー。
こっから二人がさらに変わっていくのか、少し変わったこの空気で突き進むのか、残り話数の使い方も気になるところですが、まーどうなっても面白いだろう！
次回も大変楽しみです！
