イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第10話『僕らはゆっくり歩いた』感想

 喧嘩の後の渋谷クリスマスデートは、ベリーたっぷりパンケーキよりも遥かに甘いッ!
 すれ違いと衝突とか見せてスマンかった! とスタッフから叩きつけられたときめきの詫び状、僕ヤバアニメ第10話である。
 つーわけで一本丸々渋谷デート、『お前は柔術黒帯か』とツッコミたくなるほどにグイグイ引き込んでくる山田杏奈を相手に、激ヤバ私服と天然彼ピっぷりで武装したきょうちゃんが、縁遠かったはずの胸キュンクリスマスを過ごす回である。

 恋の不意打ち騙し討ち、『マンガ返すだけだから』と油断させてのど本命……いつもより五センチ高いヒールで勝負だ市川京太郎ッ!と、気合い入りまくりの山田も可愛らしいが、どう考えてもハメられてるのに怒ることもせず、なし崩しに初デートに振り回されつつ自分のこと、山田のこと真剣に考え続ける京ちゃんも可愛い。
 京ちゃんのパンパンな自意識は青春の傷つきやすい患部であり、前回のように擦れあって傷ついたり、今回のように天然ながら敏感に、山田が本当はして欲しい事を手渡すセンサーになったりする。
 感受性があまりに豊かすぎて、余計な荷物を背負いすぎる京ちゃんの気質が、気恥ずかしさと喜びにプルプル震えつつ、山田杏奈と共鳴して一体どういう光が生まれるのか。
  それは未だ恋の形にはならないが、強がりと気恥ずかしさの殻の中柔らかく震えているものは間違いなく……。
 ときめきに溢れた渋谷デートの中で、二人が今どういう場所に立っているのか、見事に捉えられれていた。

 

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第10話より引用

 というわけでどう考えても好きピとの初デートの気組みで渋谷決戦に挑む山田杏奈と、『山田はそういうんじゃない!』と枷をかけることでキモくて身勝手な自分を、どうにか押さえてる京ちゃんとの真剣勝負開始である。
 傍から見てりゃぁ『どう考えてもイケるよ! 山田選手フィジカルコンタクト激しすぎッ!! 審判当たってんだろ笛吹けッ!』と野次りたくもなるが、過去の挫折で自身がない上に、露悪ぶってる癖に他人に優しく誠実でありたい京ちゃんは、目の前の現実を飲み込むのに時間がかかる。
 気合い入りすぎて集合時間三十分前、ソワソワ相手を待つ状況が『デート』ではないのだと、適正距離を慎重に測って手提げ袋を介した繋がり方で触れ合うのが良いんだと、自分に言い聞かせる。
 このもどかしくも健気な足踏みが、市川京太郎という少年の現在地であり、しかしその後ろ側にはクリスマスに浮かれるカッポーが堂々手を繋いで、二人の未来(あるいは現在)を暗示している。
 いやまぁ、実質どころかガチンコでデートなのだが……。

 物質的、身体的に相手に触れる行為は思春期のエロ猿に桃色の焔を灯すが、渋谷の喧騒にもみくちゃにされながら、心の距離も縮めていく。
 現役JCモデルとパンケーキ食ってショッピングしてイルミ見て……箇条書きに並べると『京ちゃん、今のアンタ呪ってたリア充そのものだよッ!』としか言いようがない触れ合いの中、心底世界がピカピカに思える素敵な時間が訪れる。
 最初は『あるべきデート』に呪われて減点法でショボクレていた京ちゃんであるが、好きな人と一緒にいる特別な時間を楽しもうとする山田に感化されるように、そういうどーでもいいことを横において、今自分がどんな気持ちでいるのか、それを生み出してくれるのが誰かに、素直になっていく。
 恋を知り大人になっていく物語が、失われたはずの幼い純粋さに素直に立ち返る強さを取り戻す旅にもなっているのは、やっぱり好きな味付けだ。

 『デートかく在るべし』に呪われているのは多分山田も同じで、バキバキに気合入った恋愛武装で総身を固め、愛するシャイボーイからは絶対切り出してくれない渋谷デートに引きずり込んだ時、彼女の心身は硬く力んでいる。
 しかし待ち望んでいた二人きりの時間を胸から吸い込み、モガモガ美味しいパンケーキをたっぷり食べて、持ち前の頑是ない前向きさが『べき』を乗り越えて自然体を引っ張り出す様子が、なんとも眩しかった。
 お仕事してて体も大きく、京ちゃんが憧れる大人っぽさがありつつも、やはり山田杏奈には自分を制御しきれない幼さが強く残っていて、京ちゃんはそこにも惹かれている。
 大人と子どもの中間地点で、複雑な色合いを見せる思春期の実相がどんなモノなのか。
 ハプニングと決意で、段々と距離を近づいていく二人はお互いの顔を、どこが好きなのかを、特別な日に掌で感じていく。

 

 この距離感の変化を、前回の衝突の決着点として描かれたLINEのやりとりを中間点に置く形で、更にその先に進んでいくように描くのが、なかなか面白い。
 『友達じゃなくても交換するだろ~~』と張っていた予防線をヒョイと乗り越え、他の誰のためでもなく、京ちゃんのためだけに届く山田杏奈のモガモガ動画は、好きになったり嫌いになったり、触れ合ったりすれ違ったりを繰り返す彼らの現在地を、的確に記録している。
 しかしグイッとそこから身を乗り出した山田の積極性は、何かと下を向きがちな京ちゃんの顎を捉えて上に向かせて、眩いイルミネーションへと視線をあげさせる。
 マンガ返却をダシに生まれたこの特別な時間を、今年の締めくくりにしないために紅い恋心を首に結び、新たな一歩への導きと差し込む山田杏奈の抜け目なさに、京ちゃんは気づかぬままだ。
 存外山田がズルくて生臭い所、俺はやっぱ好きだなぁ……。

 好きになった子が手を伸ばし触れてくれる特別は、青春コメディを胸キュン色に染め上げ、特別な光で満たす。
 少女漫画的な色合いは現実を切り取るリアリズムではなく、二人の胸に溢れたロマンティシズムによって描かれていて、触れ合っては離れ、勝手な思い込みが共通の想いかもしれないと踏み出す決意によって、より強い光を放つ。
 それは”クリスマスの渋谷”という特別なロケーションが生み出した、のぼせた感覚……だと思わせておいて、わが町に帰ってきても掌が繋がっている間は世界は美しすぎる光に包まれ、お別れに手を離して一瞬陰り、しかし山田がおどけた『またね』を差し出してくれた時、もう一度輝く。

 ウィンドーにストーカーまがいの自己像を反射され、京ちゃんはフードとマスクを外して素顔を晒す。
 そうしなきゃパンケーキは一緒に食べれないし、そうさせるだけの関係性が既に山田杏奈との間には在るのだ。
 それでも下を向きがちな顔を、エッチだったり胸キュンだったりするハプニングに助けられながら上げ、下げようとしたら赤いマフラーに遮られて、自分を満たす光がどこから発しているかを、京ちゃんは否応なく見る。
 山田が好きな自分は、もっと好きになれる自分だと認めていく。

 

 京ちゃんのナイーブな傷つきやすさ、感受性の強さは否応なく、ヤバくて強い、傷つかない自分を捏造して、世界と……あるいは自分自身と距離を取ることで自己防衛に閉じこもらせる。
 『俺はヤバいんだ、一人でいるのもしょうがないんだ』と己を鎧わなければ生きていけないところに追い込まれていた少年は、鼻血ボタボタ流して泣きじゃくるスクールカースト上位の女の子に出会うことで、人生を捻じ曲げられる。
 それが行き着いた先にこの渋谷での出会いがあり、もう一人の自分との煩悶は続き、しかし見ないふりを続けてな溢れる眩しい光に照らされて、自分と世界と彼女のあるがままの形が、ちょっとずつ見えてくる。

 その途中経過であり到達点として、とてもチャーミングなクリスマスでした。
 次回も楽しみ。
 やっぱあれだなぁ……二人共可愛いなぁ(このお話で、いちばん大事な所。)