年の瀬を迎え、埋まる外堀近づく距離。
LINE交換以来グイグイキまくってる主役二人を中心に、姉だの友だちだの恋敵だの、周囲の人達を巻き込んで青春銀河が渦を巻く。
僕ヤバアニメ第11話である。
前々回での衝突がむしろ起爆剤となり、メイン二人にとどまらず変化していく人間関係、あるいは青春模様を描く回となった。
遠く離れても繋がれるコミュニケーションツール、ただモノを交換するだけでは終わらない真心のプレゼントと、順調に手順を踏んで親しくなって行ってる京ちゃんと山田。
そんな風に二人の間が縮まると、彼らを大事に思う人も今まで通りの立ち位置ではいられないわけで、お姉とか萌ぴとかナンパイとか、色んな人が連動して動き出す。
そこで変化した自分を見せることで、人間関係の複雑な網目が絡み合いながら動いて、二人の接近を後押しする下地を作っていく。
一期最終回を前に、一旦フォーカスを広げて横幅広い描き方をするのは、若い二人が生成してる甘酸っぱいトキメキが、実は二人きりに閉じてない風通しを感じれて良い。
まーあくまで中心は今日ちゃんと山田にあり、LINEという電脳接触手段を手に入れた二人は秋田と東京に離れてもイチャコラ、思いを鏡に相照らすように連絡を取り合う。
声を聞き同じ月を見上げて不思議なおまじないをすれば、思いは深まりもっと声が聞きたくなる。 初な京ちゃんがそれと気づかぬまま、山田杏奈が仕掛けた恋の儀式がズブズブ効いてきて、世のカップル(未満)がする胸キュン行為を軒並み平らげていく様子が、自称・ヤバい陰キャから京ちゃんの自意識が這い上がってくる様子と重なってきて、なかなか面白い。
市川兄弟は欲しい物こそ諦める、天性の酸っぱい葡萄気質なわけだが、『関係ないし好きでもない!』と予防線を張って遠ざけていたものが、山田に手を引かれて実体験してみれば思いの外面白いと、いらない壁を取っ払って自分を変えていく契機にもなる。
ここら辺は教室の隅っこでクダ巻いていた陰性の生物と、バリバリモデル仕事ブッ込む学園エリートが出会ってしまった結果、生まれる面白さでもあろう。
陽から陰への一方通行の影響と思いきや、山田も思いの外クラくてめんどいジメジメ感を共有していることもだんだん見えてきて、好き同志がお互い良い刺激を受けて自分と世界を変えていく様子も、また面白い。
というわけで原作からやや構成を変えまして、アバンのヒキにファミレス地獄絵図を用意しての、市川京太郎年末模様。
弾む体温に導かれ、自分が見ている景色を山田と共有するべく崖から落ちて手を折り、それでもなおスマホを手放さない情報時代の申し子に、月光が冴える。
二人きり特別な時間を共有すると、眩しい光が世界を満たすのはアニメ版で一貫した演出であり、秋田の夜は青く冴えて現実より遥かに美しい。
加速した関係性は外堀をゴロリと踏み潰す頃合いでもあり、まずはお姉が弟の携帯を覗き込んで、知らぬところで形成されていた異性の友達に気圧され、おどけた態度を引っ込めて寝床で煩悶することになる。
市川香菜が田村ゆかりの声帯を有した無敵のブラコン生命体であるのは皆さんご承知だが、人生の一大事においては結構静かな対応で向き合い方を考える気質を備え、そこらへんの生真面目も姉弟良く似ていると理解る、京ちゃん想定外のリアクションである。
京ちゃんが人生に躓きかけた時、お姉はマージで心配していたわけで、そんな愛弟が超絶美少女と縁を繋ぎ家族以外と付き合い出す成長を見せると、嬉しいやら寂しいやら、おどけている余裕はないのだろう。
そういう人間がおとぼけお調子乗りお姉ちゃんを、頑張って演じて弟の日々を少しでも明るくしようとしてたのは、偉いことだなぁとつくづく思う。
京ちゃんも年相応に姉を拒絶する……ふりをして、そこらへんのありがたみを心の芯ではちゃんと感じ取っている所が、可愛い少年である。
そんな姉の寝姿をフレーム外に追い出して、衝突ゆえに急接近した二人は深夜の儀式を続ける。
親しい人の仕草を無意識に(あるいは意識的に)真似するミラーリング行動を、愛しさ暴走させた山田杏奈が京ちゃんリモコンして力づくでブッ込んでくるの、京ちゃんが気づいてないだけで相当なヤバ行動だと思う。
好きな人のこともっと知りたいし、今何しているか解りたいし、自分と重なっていて欲しい。
京ちゃんがブレーキ踏むポイントで山田はとにかくアクセル全開にして、ゴリッゴリに状況を推し進めて間合いを近くしていく、この対称もまた面白い。
自分と真逆だから不快……ってわけでもなく、山田が仕掛けてくる謎の儀式(その実、恋の呪い)に意味も分からぬまま振り回されつつ、悪くないものを感じて自分もミラーリングしていくのが、なかなか面白い。
思春期の揺れる心身を確かめる道具として、このアニメには鏡が結構な数出てくるのだが、秋田と東京に分かれて繋がる二人もまた、窓ガラスを鏡にして反射しあっているのは、興味深い演出だ。
そして公園でのダイレクト・コンタクト……師走の寒空にしては山田肌出し過ぎで、今日ちゃんと私服で向き合う全局面”勝負”と心得ているのがよく分かる。
不意打ち渋谷デートにおいては、繋ぐの繋がないのであんなに煩悶していた掌が、今やするりと結びあう。
一期終盤戦はもどかしい距離感がLINEやら手繋ぎやら、一気に近づいていくダイナミズムが元気で、決戦の機運が高まっている感じを強く受ける。
『キモいかも……』という内省を乗り越えて、オソロなわんわんストラップを贈りもして、赤いマフラーを改めて受け取り、少し遅刻なプレゼント交換も無事達成である。
京ちゃんは非常に繊細な子なので、一回失敗した痛みを繰り返さないよう色んなワクチンを、自分に接種する。
山田と触れ合う時に必死に、『勘違いするな思い込むな調子に乗るな』と自分に語りかけるのは、姉譲りの酸っぱい葡萄気質と、身勝手に自分を押し付けたくない臆病な誠実さの合わせ技だ。
しかしそういう怯えを乗り越えてでも、触れ合って伝えたいと思える相手と出会ってしまった以上、相手が許容できる身勝手さがどのくらいか図りながら、おずおずと手を伸ばすのは止められない。
LINEで通話するのは大丈夫か。
手をつなぐのは問題ないのか。
好きって言ってもいいのか。
今までしてこなかった領域に震えながら踏み込み、一個一個答えを探りながら、京ちゃんは山田と親しく触れ合える距離を手探りし、その反射で自分の形も捕まえていく。
それは多分山田にも同じで、ダイレクトには見えない想いを互いに反射し合い、好きだからこそ許せる距離感にお互いを置き引き寄せながら、二人は青春を進んでいく。
このトンチキながら釣り合いを取って探り探り、お互いを大事にしながら進んでいくお互い様な感じが、初々しくも眩しくて良い。
他の人なら許せない距離も、特別なあなたなら大丈夫という理不尽が人間の為すことには存外多くて、賢く理想主義な京ちゃんはなかなか、そういうイレギュラーと向き合えない。
山田との間合いを探り探り、手を握ったりプレゼントし合ったりする中で、そんな人生の取扱説明書を読み解く歩みも、二人の恋には付き従っている。
そして誰かに特別に選ばれるものがいれば、選ばれないものも、選ばないことを選ぶものもいる。
ナンパイはシャイで誠実な京ちゃんと正反対……と見せかけて、思いの外幼く純粋なところもある鏡合わせの『少し似ている僕ら』であったりもするのだが、しかし脂っこいアプローチをガツガツ仕掛けてくるウッゼマンなのも事実だ。
肩が組める距離感でニヤケ笑い混じりに圧力かけて、LINEのアドレス聞き出そうとする間合いから、ちょっとガチった対面距離に構えられて、投げられた取引を京ちゃんは理屈抜きで真っ直ぐ弾き返す。
彼とファーストコンタクトである自転車ブッコミ事件の頃の、尊大な卑屈さと臆病な自尊で自分を鎧っていた京ちゃんなら、この対応は多分出来なかった。
山田のことが好きになり、時に嫌いだと思い込もうとし、しかしやっぱり好きだと抱きしめ直し、戸惑いながらも憧れへと手を伸ばしていく歩みを、一個一個積み重ねたからこそ、ここで退くべきじゃないと思えるようになったのだ。
そういう少年の伸びた背筋に、ナンパイなり真っ直ぐ向き合おうとしている一瞬が切り取られているのは、かなり好きな描き方だった。
萌子にとって京ちゃんは『友達の友達……?』みたいな微妙な関係であり、ヤバさの鎧に当然ドン引きして間合いを外してテキトーに付き合う相手だった。
しかし山田杏奈当人から少し離れたところで、男たちの情念が渦巻く瞬間に行き合うことで、ちょっと憧れた先輩とヤバいクラスメイトの素顔を、柱の陰からそっと見つめる。
小林さんほど密着していないが、萌子にとっても山田は大事な友だちであり、軽率に傷つけたり不誠実に振り回したりは、けしてしてほしくない相手。
そんな気持ちが京ちゃんと同じだと、『少し似ている僕ら』としての共感を目の当たりにして、ググッと距離が近づいていく。
ここでおどけ混じりに伸びてくる萌子の手を、尋常じゃないスピードで打ち払う選択を半ば無自覚に果たすことで、京ちゃんは山田一筋の一本気を不器用に、真っ直ぐに証明もする。
それは去り際、萌子に声をかけたナンパイとは真逆のスタンスで、ここら辺が山田の特別としてハートにぶっ刺さるか否か、一つの分かれ目だったのだと思う。
京ちゃんはチョロいので、好きな人の友だちにだって優しくされれば好きになりかけるけど、そこで鼻の下を伸ばせば何かが壊れることを、そっから自分の大事なものが漏れていくことを、もう知っている。
だから萌子に『山田が好きだ』と言葉にして伝えることで、心の穴を塞いで思いを確かに、望ましい未来へと進んでいく。
誰かを好きになる自分を、胸の中に閉じ込めるだけで終わらせず、震えながら勇気を持って、態度と言葉に示していくことにする。
傍から見ればちっぽけな少年の一歩が、年越しの月夜に照らされて大きく見える夜だ。
山田を好きでいることで、京ちゃんはなりたくて諦めていた、強く正しく優しい自分へと確かに近づいている。
そんな恋が生み出す変化が、”ヤバいやつ”としてしか京ちゃんを見ていなかった萌子に届いて、思いの外似ている部分があると、色眼鏡を外させる。
そんな風に、特別な二人を甘く繋ぐモノが色んな人を巻き込む様子を、どっしり手際よく描く回だった。
次回一期最終回、年越しにどんな景色が見れるのか。
とても楽しみだ。