イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第17話『僕は知りたい』感想

 瞳に飛び込む残影が、君と僕のことをもっと教えてくれる。 
 引き寄せ踏み込み近づく距離、寒い季節の熱い触れ合い、僕ヤバアニメ第17話である。

 二期になってからすーっかりイチャコラぶっこいとるお話だが、遂に中学生制服放課後映画デートという禁止札を叩きつけて、京ちゃんと山田の距離は更に近づいていく。
 リア充カップルがするような……ていうかもうリア充カップルだろコレどっから見ても! な青春イベントをこなしつつ、京ちゃんの視線はあくまで熱に浮かされることなくどっか冷静で、自分と他人と、自分から見た他人と他人が見ている自分について考え続けている。
 というか山田杏奈という鏡に照らされることで、自分が何をしたいのか、何に苦しんでいるのかを確かめれるから、京ちゃんは山田が好きだ……という話でもある。
 山田と出会って物語が動き出す前、他人が死んだり傷ついたりすることが好きなやばいやつだと、自分を思い込みたがっていた京ちゃんは、尊敬できる誰かに出会ったことで顔を上げて、真実自分が何を望むのか、向き合いだす。
 都合の悪い事実から逃げ出そうとしたり、自分に便利な結論を引き寄せたくなったりする気持ちは確かにあるが、山田と釣り合う自分でいたいという願いとプライドが、そういう弱さから京ちゃんを遠ざけていく。
 それは見栄であり暴走であり、本当はそうなりたかったかっこいい自分へ、近づいていく歩みでもある。
 それが山田との個人的な繋がりだけでなく、好きだからこそその人の別の顔とか、一緒に過ごす誰かとか、より開けた場所にも結びついていると、今回のエピソードは描く。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第17話より引用

 というわけで、毎度おなじみ山田杏奈の熱烈アプローチを受けて、京ちゃんは青春イベントのど真ん中へと引っ張り出され、似合わぬ恋愛映画など見ることになる。
 今回は彼が何を見ているか、瞳に何かが入るカットのアップを多用しながら示されていくわけだが、そこには思春期らしい『山田が好きな僕』『僕が好きな山田』だけで収まらない、思いの外広い世界が反射されている。
 二人乗りを怖がるのは、誰かの目に映る後部座席の山田杏奈が傷つかないためだし、車窓を鏡に自分を見ていても、よく分かんねースカシたペルソナが顔を出してくる。
 女優としてモデルとして、学校という場所を飛び出して様々な目の人に触れる、僕の知らない山田杏奈。
 それを独占したい狭さに足踏みするのではなく、知らないからこそもっと知りたいと思う、知るために踏み込んでいく道を、今の京ちゃんは選ぶ。
 そんな市川京太郎になりたいと思い、そうなるように勇気を振り絞って行動もしてきたのは、やっぱ山田が好きだからだ。
 ヤバい奴らの青い恋は、お互いを照らしながらお互いを望ましい場所へと進めていく。
 そういう、相互作用が僕は好きだ。

 誰かの目を借り口を借り、『制服デートじゃん』『恋人同士じゃん』と言ってもらうことで、客観的な視線で自分たちを観察する描写も、今回多い。
 娘がおそらく初バイトに奮戦して生み出された山盛りのたこ焼きを、家族で食べるあったか市川家でも、いっとう京ちゃんが大好きなお姉の目から見て、二人は今メチャクチャ眩しくキレイな時間を過ごしている。
 しかし只中にいる当人はなかなかその輝きが見えなくて、誰かに言ってもらうことで、反射してもらうことでようやく分かるものがある。
 山田と自分の関係を思いながら、きょうちゃんはそういう存在のありがたみを素直な姿勢で受け止めつつあって、ヒネた思考に逃げない純朴な強さは、一度失いかけたからこそ彼にとって大事だ。

 

 教えられるだけでは終わらず、自分で気づくのも京ちゃんの良いところで、自分が気恥ずかしさに顔を赤らめてしまうキスシーンで、山田杏奈が何を見ているのか、衝撃と憧れが混ざりあった視線で、ちゃんと見ていたりする。
 自分と山田杏奈が違う存在で、その差異に戸惑い驚きつつも、それこそが彼女に惹かれる理由であると、かなり冷静に見つめている。
 年頃の気恥ずかしさに当然揺さぶられつつも、こういうところでどっしり真面目に向き合う気質が、山田が欲しい言葉や行動をベストタイミングで差し出すことにも繋がっていて、二人の絆はどんどん深まっていく。

 違うと思っていたけど、似ている部分が沢山あって、でもやっぱり違っている部分が多くて、だからこそ好きだ。
 差異と類似を巡る乱反射の中で、京ちゃんは自分がどうしたいのか、山田にどうなって欲しいのかを真摯に考え、悔やまない道を必死に探して進もうとしている。
 ここに客観と主観の入り混じった、自分とは違う自分がコミカルに混ざるのも、なかなかに面白い。
 市川京太郎と似ていて違う”誰か”に言わせる/言ってもらうことで、青臭くて怖い本当の願いを反芻して、そこにたどり着くために必要な勇気を貰う。
 瞳の外側にだけでなく、自分の中にも鏡を用意して色んなモノを確認するのが、今の京ちゃんのやり方だと言える。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第17話より引用

 好きな人からの誘いに胸踊らせ、可愛いコンビニスイーツなんぞ差し入れに買ってウキウキだった京ちゃんは、秋野杏奈が仕事に勤しむ場所をその目で見て、惨めさに打ちのめされる。
 大人がいっぱいいて、みんなが真剣で、自分が入り込むにはあまりに場違いな、秋野杏奈の領域。
 そこから一旦逃げ出した後、山田杏奈が彼に追いつくまでの時間を稼ぐのが、イマジナリー京太郎との会話なのが好きだ。
 京ちゃんが山田への恋に本腰で向き合うにつれ、段々とその本質が分かりつつもあるのだが、イケてる幻影との対話は心霊現象のたぐいではなく、考えたくないけど考えざるを得ない本音とか真実に、向き合う内省だ。
 内側に向かう視線を、コミカルでわかりやすい物語装置によって外形化している……とも言える。

 もう一人の自分と向き合っている時間があったおかげで、山田は京ちゃんが自分が見たいと望んで来た場所に、背中を向けるより早く彼に追いつくことになる。
 隣に立って、とつとつと本音を語って、このまま惨めさを突きつけられない平凡に沈んでいきたいのかと、京ちゃんが自分に問う契機を手渡すことになる。
 ここで一回京ちゃんがブルって、輝きから遠い場所に逃げて、しかしすぐさま去ってはしまわないことと、ジタバタ足踏みしてたから山田に捕まっちゃうのが好きだ。
 それこそヤバい自分を演じてたときのように、傷つかないことだけを求めて他人と自分から距離を取るのであれば、自問自答なんぞせずとっとと帰れば良いのだ。
 しかし京ちゃんはそうしないし、山田はそうさせない。
 自分が山田杏奈の何に惹かれてここまで歩いてきたかを、『来なければよかった……』と下を向きながらも京ちゃんは理解しているし、山田もそういう気持ちが彼の中にあると至近距離で解ったから、余人に見せない大事な場所へと、彼を誘ったのだ。
 見たかったし、見てほしかったのだ。

 

 そんな複雑な引力に引っ張られて、京ちゃんは撮影現場に戻ってくる。
 制服を着ていない、立派で大人な秋野杏奈にも憧れたから、その手を引いて彼女が輝ける場所へと走って連れて行く。
 その仕草はどう考えても……であり、そらーマネジさんも警戒するわなぁって感じだけども、大人の冷たい釘刺しには長年一緒に頑張ってきた”いい子”への愛情があって、京ちゃんを見つめる視線には不思議な興味がある。
 この二人の間合い好きなんだよな~~……子供と大人を対立項におかず、シンプルに繋ぎもしてないこのお話、独特の視座が色濃く出ている気がする。
 マネジさんにとって山田は裏表のないいい子で、その子が語る京ちゃんは尊敬に値する、自分の本当を照らしてくれる大事な人だ。
 仕事としての安全だけ考えるなら遠ざけちゃったほうが良いんだけども、それが山田杏奈の人生にとって良いのかまで考えた上で、じっと見つめて人間を探っている。
 眩しさに照らされて陰る劣等感だけじゃなくて、眩いからこそ惹かれて自分が見えてくる、二人の距離感を見つめている。
 そういうのが、やっぱ良い。

 山田が大事にしたいと思っているものを、自分も大事にしようと決めたから取れた写真は、秋野杏奈の仕事風景でありながら、山田杏奈の素が出ている。
 少女がもつ二つの顔、両方とも好きで大事なのだと、己の未熟に打ちのめされつつも逃げなかったきょうちゃんは思い知る。
 『山田と比べて、自分は子ども過ぎる……』と落ち込む京ちゃんと、ガキっぽいヤバさを多分に抱えている山田は鏡合わせの関係にあって、お互いの理想をお互いの中に見据えながらも、それに成り代わるのではなくてそれと向き合える自分を、どうにか探している真っ最中だ。
 そうやって現実と理想、私と貴方が違っているからこそ知りたいと、勇気を持って踏み出す先に、素敵な時間が待っている。
 ずーっと京ちゃん視点の一人称で進んできたエピソードが、最後に車窓越しの客観でもって、美しい夕日の中にいる二人の今を切り取って終わるのが、鮮やかで好きだ。

 

 というわけで、バレンタインデーを終えた二人が今どこにいて、何を見て何を探しているのか描くお話でした。
 山田とワチャワチャしている中で、どんっどん京ちゃんは成りたかった理想を思い出し、そこから逃げず進み出す強さを得て、山田に優しくしていく。
 それは京ちゃんが自分の内面と、隣りにいたいと思う女の子と、それを取り巻く世界をしっかり見て考えているから、生まれる成長だ。
 恋を主題と扱いつつ、それと取っ組み合うことで子ども達がどう、善くなっていくのかを掘り下げる。
 俺がこのお話でいっとう好きな所を、胸キュン描写山盛りで削り出してくれる回で、大変良かったです。
 次回も楽しみッ!