降りしきる雨の中、少年たちは思いの丈を強く吠える。
どいてろアオハル、そこのけそこのけ友情が通る!
意地と敬意が混ざりあった男の子テイスト濃い目の青春カクテルを、告白直前にお届けする僕ヤバアニメ第23話である。
足立将……好きだ……。
というわけで、スケベでバカで配慮が足りず、どうやっても山田には選ばれない当て馬こと足立くんの恋が、無様に終わる回である。
選ばれないモブにだって誇りというものがあり、それぞれの悩みや人生があるということは南条ハルヤを描く筆で既に示されていたが、京ちゃんが山田への恋慕を深めていく隣で確かに積み上がった、青臭く暑苦しい男の絆が、今回のメインである。
俺は山田と京ちゃんの恋が、中学受験失敗というありふれた挫折からネジ曲がりかけた、彼の人生をより望ましい方向に、元々の京ちゃんらしい角度に整えていってくれている様子が、いっとう好きだ。
恋するほどにきょうちゃんの視野は広がり、色んな人が自分を大事にしてくれている事実に目を向け、もっと強く優しくならなければ……と心に刻んで、実際その通りの自分を引き寄せる。
顔真っ赤にプルプル震えて、余裕なんてなんもないその必死さで、山田杏奈の前に立てる自分でいようと、懸命な背伸びをすることが、彼の人格を確かに伸ばし、可愛くも頼もしい青年へと育て上げてきた。
物語の主役ではない足立くんは、そういうチャンスに恵まれない。
ずっとバカで無神経で、中学生男子の一番胸キュンから遠い獣性を正すチャンスも少ないまま、当然山田の視界に入ることもなく、阿呆な空回りを延々続けてここに至る。
市川京太郎になれなかったし、なろうとしなかったし、なりようがなかった少年はしかし、ダチ一人いなかった京ちゃんの確かな親友であり、山田を好きになって変わっていく京ちゃんの善さを、山田とは違う角度から受け入れて好きになってくれた。
彼には彼なりの可能性が確かにあって、それは恋という形に結実しなくとも意味も熱もあるものだということを、今回雨中の決闘は強く滲ませる。
大昔の不良漫画に良くある『雨の河原で殴り合い、大の字に倒れてマブダチ確認』を、体育祭という行事を通じ擬似的に描く今回、足立くんの熱に当てられる形で市川京太郎は、男臭く暴力的ですらある”強さ”を、表に出してくる。
それは山田杏奈を鏡にした時出てくる、ナイーブな優しさ……京ちゃんが選ばれ足立くんが選ばれなかった最も大事なファクターが、ただ優しいだけでは終わらぬ強さになるための、大事な火種だ。
足立くんがいてくれたからこそ、京ちゃんは間違いなく彼らしさの一部である”強さ”をアホみたいな友情の中温めて、それで守れたり踏み込めたりするものも沢山あって、山田杏奈を好きで、それを堂々誇れるような自分に近づいていったのだと思う。
『バカがよ~~』と内面で罵りつつ、確かに自分にそういう側面もあるスケベなアホっぷりと肩を組んで、好きなこと一緒にいるだけじゃ消えてしまう、等身大の男子中学生としての京ちゃんを、大事に出来たのだと思う。
そういう”強さ”があったから、悶々と考えた挙げ句山田が欲しがってる優しさを手渡す小さな勇気も、送辞で堂々己の思いを白紙のまま告げることも、出来たんじゃないかなと思う。
そうやってバカみてーな青春一緒に送りながら、なりたい自分に近づけてくれた足立くんのありがたみを、京ちゃんも分かっているからこそアホみたいなタイマンを受けて、本心を叫ぶ。
青臭く、暑苦しく、バカみたいで、とても素敵だった。
足立くん、京ちゃんの友だちになってくれてありがとう……。(自分で書いてて、何処視点だかサッパリ分からんけども、今の素直な気持ちが”こう”なんだからしょうがなかろう)
というわけで窓ガラスの向こう側、『興味ないね……』とクールを装い、体育祭という一大イベントから距離を置こうとする京ちゃんは、しかし一年前の彼ではない。
送辞で全校に見せつけた侠気に、不良オーラを纏った強面ボーイも一目を置き、騎馬戦の”頭”に据えようと声をかけてくるところに、ここまで23話京ちゃんは自分を運んできた。
自己イメージではクソ陰キャの弱虫なまんまなんだが、なんだかんだ京ちゃんが山田に惚れて以来の軌跡を色んな人がみてて、『あいつ変わったな……』と評価し直している様子は、このお話の随所で見られる。
誰かを好きになったことで、誰かを好きでいられる自分であろうと自分なり頑張ってあがいてみることが、確かに何かを切り開いていく可能性に対して、このお話はきわめてポジティブだ。
不格好なカッコよさ、可愛くないカワイさ。
そういうモノが、不自由な青春の身じろぎにはしっかり宿るのだと信じて話を積み上げてきたことが、自分が思っているより強くて熱い市川京太郎の存在を、しっかり支えてもいる。
こういう変化を、アホバカなはずの足立くんも至近距離でちゃんと感じ取っていて、一年前食ってかかった自分を謝りつつ、デカくなっちまったマブダチを見つめる。
普段どーしょうもないクソ中坊やってる彼が、時折見せる繊細な視野の描写は、彼もまた思春期を戦う少年戦士の一人なのだと、大事にしながら話を作っている現れだと思う。
そういう繊細さはありつつ、気恥ずかしく目をそらして『そんなの俺らしくない』と向き合えなかった結果、自分のナイーブさを全力で突き出して山田に深くした京ちゃんとは、ずいぶん違う場所へ来た。
京ちゃんが保健室のベッドの下、クラス最上位のピカピカ女から溢れる生身の涙と血を見つめたことで始まった関係の、更にゼロ地点。
山田が京ちゃんを意識する最初の出会いもまた、傷と血から始まっているのはなんとも運命的であるが、足立くんにそういう特別さは訪れない。
未だ残る傷跡を優しく撫でて、愛しさを確かめるような距離感に自分が置いていかれていることを、彼は持ち前の視力でしっかり確認する。
それが理解ってしまった上で、儀式のように敗北したいと願うのは卒業式での南条ハルヤと同じなのだが、憐れまれるよりもフラレることを望んだナンパイに対し、足立くんは京ちゃんとの距離があまりに近い。
かっこよく身を躱すよりも、無様に前のめりに拳を突き出し、本気でぶつかりたい。
その思いがまっすぐ、眼差しと一緒に突き出されて、京ちゃんは避けられないまま受け止める。
ここで差し出された恥ずかしい青春を、自分の全部で受け止める男に京ちゃんはなれていて、躱したくない相手だと思えるくらい、足立くんとはダチなのだ。
そういう友情を、元登校拒否児で世界中全部を恨んでたヤバイやつが掴めているのは、やっぱ良いなと思う。
一年で伸びたのは背丈だけじゃないと、本人より良く理解っているのが足立くんなのかもしんねぇなぁ……。
本命の青春激突との間を繋ぐように、山田とのちょっとエッチなハプニングがあったり、ワイワイ楽しい最後の体育祭があったり、日々は楽しく過ぎていく。
足立くんとはぶつける形で思いを繋げた拳が、山田とは相繋ぐ手のひらになっているあたり、人と人の在り方は様々だし、だからこそ美しく楽しいというメッセージが良い感じに出ている。
無論このお話、胸キュン青春ラブコメなので最終的には山田杏奈との関係に回収されていくわけだが、色んな連中が京ちゃんの周りに集って、困ったダメさも引っくるめて楽しく過ごしている様子には、個別の良さがたっぷりある。
クライマックスを前に、山田ではなく足立くんを焦点とするエピソードがここで挟まるのは、(彼のファンである俺の贔屓目を抜いても)彼らが身を置く世界の豊かさを改めて語り直す、良い構成だと感じる。
父兄も混ざる一大行事とあって、ここまでの物語で関わった人たち大集合のバラエティ回という感じが色濃く、そこもまた良かった。
前回関係を深めた半沢さんがすっかり山田にメロメロな様子とか、色恋絡まなくてもカンカンは厄介事起こすとか、ラブラブっぷりは娘とよう似とるな! な山田夫妻だったり、やっぱこの騒がしい感じが楽しく好きだ。
騒がしい行事は相変わらず苦手だが、遠ざけて無視して自分を守る必要も薄くなってて、『ワーワーうるせぇのも結構良いかも……』と思えるようになった、今の京ちゃんを感じられるのも良い。
その一環として足立くんとのじゃれ合いもあって、でもそこにただ友情だけがあるわけじゃないことを、二人共真正面から受け止める戦いがこっから始まっていく。
皮一枚で保たれていた当たり前の日常、バカバカしくも大事な友情が、決定的な沸騰点に辿り着いてしまう瞬間特有のハラハラとワクワクが、このエピソードは濃いから好きだぁ……。
お前もあいつもいい奴だから、無様に負けて納得したかった。
荒天の中強行された騎馬戦で、足立くんは普段恥ずかしすぎて言えない思いの丈を、至近距離で吠える。
イベントごとだからこそ言葉にできるものが確かにあるのだとしたら、京ちゃんが普段バカにしている浮かれポンチにも十分意味があるなと思いつつ、気づけば大きく差をつけられてしまった恋敵との距離を、バカなまんま前に進めなかった自分を、足立くんは苦そうに噛みしめる。
それが後悔だけで終わらないためには、目の前にいるダチが熱と勢いをこのせめぎあいに足して、本気でぶつかってくれる必要がある。
山田の前だけじゃなく、雨が覆い隠してくれるこの友達の眼の前でも、京ちゃんが泣いているのが俺は好きだ。
心のなかに押し留めておけないくらい強いものを、同じ女の子を好きになった友達にも確かに抱えていて、それをクールに押し隠すほうがダサいと思ったから、タイマン受けた。
あまりに不器用に、真っ直ぐ突き出される拳から逃げずに、自分がどれだけ山田杏奈が好きなのか、そうあるためにはどうすればいいのか、ちゃんと答える。
そんな時、市川京太郎という少年は泣かずにはいられないのだ。
そこが好きだ。
足立くんにとって京ちゃんは、クラスのキモくてヤバい奴として始まった。
初期の二人を見返すと結構当たりが強くて、それは気になってる女の子への牽制含みなんだと思うけど、ある意味京ちゃんをナメてる視線が二人の関係を繋ぎ、しかし眼の前の少年が誰に恋して、誰のためにどんどん強くなっているかを、ダチの距離で足立くんも確かに感じていたと思う。
自分が前にいたはずなのに、恋でも人間としても追い抜かれて、もしかしたら追い付けない。
そういう現状認識と危惧が、山田と京ちゃんがガンッガンに青春ラブコメの主役やる後ろにあって、ここで闘って負けなきゃもう市川京太郎のダチじゃいられないと、結構マジな危機感に煽られたから、足立くんは恥ずかしい決闘に踏み出した気がする。
それに同じ温度で答えて、『俺達の友情は確かに釣り合っている!』と理解らせる京ちゃんも、ダチが青春の大勝負に挑む足場になってやる太田くん達も、見込んだ男のち潮が確かに熱かったことに満足げな鵠沼くんも、男の子たちみんな素敵だ。
ハチマキの下にある恋心を自分の目で確かめて、無様に泥の中に落ちて雨に打たれて、二人は満足げにカッコ悪い。
そこは男の子の聖域で、山田は遠く見守ることしか出来ないわけだが、この三角形を成り立たせる裏事情をよく知る萌が、だりーの何の言わず一緒に濡れてくれるのも、良き友情の在り方だ。
グイグイ前に出る普段のスタイルを封じられ、なんかワーワー言ってる様子を遠巻きに見つめることしか出来ない山田からのみ摂取できる、正統ヒロイン力ってのは確かにあるな……。
こういうのを際立たせる燭台としても、旧き良きずぶ濡れ河原殴り合いスタイルは有効であり、最近だと”ガンダムSEED FREEDOM”でも活用されてた印象。
時代遅れになっても強い類型があるなら、芯を残したままアレンジして使えばいいんだよな~。
望んでいた無様な敗北を掴み取り、山田も市川も嫌いにならないまま一つの決着を付けた足立くんは、なんだかんだしょーもないクソガキであり、新たな恋の予感にタフにときめく。
アニメはかーなり強めの補助線、”萌足”に足してる感じもあるわけだが、バレンタインから繋がってきた仄かな温もりがここでもう一つ温度を上げた感じがあり、大変良かった。
もう一つダメ押し、足立くんが惨めなシリアスに沈まなくていい足場になってくれたお姉が、京ちゃん以外には結構塩対応のクール女子であり、ダダ甘は弟だけの特別扱いって解る所も好きだ。
あまりにも自分のことが好きな身内の、一側面を至近距離で押し付けられて視界塞がっているので、対外的に優れた表情全然見えてない位の距離感、ホント好き。
あと『京ちゃん怪我したって!?』って大急ぎ駆けつけたのに、杏奈ちゃんがカーテンの向こう一緒にいるのを確認してクールに去るところとか、二人への信頼と気遣いが垣間見えて最高。
好きだ……市川香菜……。
さておき戦いすんで日が暮れて、自分のために泥だらけになってくれたダーリンに手弁当。
ここでの『うっまぁ……』が、山田パパのスープ食ったときと(おそらく無自覚に)一緒なの、”血”を感じて好きである。
『お前その”あーん”はもう……もうさぁ……』と、足立くんじゃなくても言いたくなるが、こういうのをヤバいと感じぬままぶっ放せるのが今の二人であり、残り話数でどこに転がしていくのか! という話でもある。
足立くん相手に本心吠えちまったことは、もう逃げられないスイッチを京ちゃんに入れた感じでもあり、まだこの暖かなぬるま湯で付かず離れず微睡んでいたい心地よさも良く伝わり、さー僕ヤバアニメ最終盤、一体どうなる!
という感じの、男たちの体育祭でした。
俺は京ちゃんが背負えなかった男子中学生当たり前のバカな無神経を、背負って負けに行った足立くんが好きだし、そんな足立くんを大事にしてくれるこのお話が好きなので、大変良かったです。
山田と京ちゃん二人に狭く閉じたクライマックスに飛び込む前に、色んな人がいるからこそ面白かったお話の善さを、たっぷり味わえもした。
次回、運命の修学旅行。
一体アニメがどう描くのか、大変楽しみです。