錯綜し、衝突する3つの過去。
時光代理人-LINK CLICK- II 第9話を見る。
た、助けて~~!(いつもの挨拶)
チエン弁護士と李兄妹、ヒカルの運命に潜ったトキと、それぞれ深度も視点も異なる三つの過去が描かれ、一つに重なっていくまでを描くエピソードとなった。
マイク・ミニョーラみてぇなバキバキの陰影が暴れまくり、『なにか新しくてヤバいもんが飛び出してくるぞ!』とヴィジュアルで教えてくれる(でも受け身は取れない)画作りが、大変パワフルで良かった。
なにか新しいものを描く時、新しい表現を大胆に叩きつけてくる思い切りの良さは、やっぱ時光最大の魅力だなぁ…。
つうわけでモノクロで暴かれていくチエン”班長”の過去だが…ただの復讐絵巻にしては生臭いものが全力で混入されてて、しかもそれが手ずから奪ったチェン刑事の人生と思い切り重なって、二重三重にしんどかった。
不倫疑惑と死体が重なる構図は李家も同じで、犠牲者も加害者もどっか似たような部分で邪悪な共鳴を為して、どうしようもなく焦げ付いた想いが最悪の結果をバカスカ生み出していく辛さが、ジリジリと迫ってきて良かった(良くない)。
どこか怪物めいた影を表情に宿す、大胆なデザイニングがチエン班長の絶望を見事に照らしていて、それがお兄ちゃんと共鳴しちゃうのが、なんともね…。
心ぶっ壊れちまったティエンシーちゃんの物語は、ファンシーなケモを代役に立ててチエン班長が二人を拾った後を描くわけだが、そことの落差…あるいは共鳴も新しい表現に挑んだからこそ冴えてて、メチャクチャバキバキだった。
チエン班長においては怪物的なリアリティを宿す現実が、ティエンシーちゃんは獣に擬された淡い夢であり、しかしそれは折り重なって絶望の中に確かな色を生み出し、あるいはケモな装いをぶち破って、現実的な血生臭さを溢れさせる。
射抜かれた噂好きな鳥たちが、歪んだ正義の矢をつがえる狩人たちの犠牲になった様子は、無惨な人格交換殺人として僕らの視界に、既に入り込んでいる。
その裏に何があったのか、伏せ札の後ろをめくってくるこの回が、いつもとかなり違った表現をわざわざ選び取り、研ぎ澄ませてぶっ刺してくる力み方が、僕はとても好きだ。
そこには僕らが知らなかった真実があり、それが解っても全てが解明されるわけでも、解決されるわけでもない。
お兄ちゃんとチエン”弁護士”を繋いだ狂気の笑いは未だ鳴り響いているし、死んだ人は戻ってこないし、積み重ねた悪徳も消えやしない。
それでも、なにかが見えてくるということは希望の一つの形であるはずで…さて、3つの物語が混ざりあった先で生まれる一つの結末は、どこに続いていくのだろうか?
表現形式を切り替えることで、複雑な群像劇が飲み込みやすくなる作用もあり、各キャラクターが見据えている世界の差を強く感じ取ることも出来た。
ママと幸せに暮らせていたからこそ、可愛らしい夢に彩られたティエンシーちゃんの世界が、血みどろぶっ殺しワールドに塗り替えられちゃってる…その中でティエンシーちゃんがずっと泣いてる事実が、あんまりにも辛かった。
異能を駆使した復讐に溺れることで、義父とお兄ちゃんは生きる辛さを誤魔化せたかもしれないけど、そういう事怖いし嫌いなティエンシーちゃんは、うるさい鳥を殺したってスカットなんかしない。
そっちのほうが普通の感性なのに、何かが狂って歪んでいる。
そこに悪意が”ない”噂話と夫婦関係の破綻が混ざり込んでくる、イヤーで重たい生臭さが、また良かった(よくない)。
ロミジュリのポスター意味深に見てたときには、もうちょい隠喩的な回収されるのかなと思ってたけども、実際描かれると大変にエグい真相開陳になってて、『このダイレクトさが時光二期だぜーッ!』って感じではある。
そらートキ攫って全部ゼロから、ハッピーにやり直す悪夢も見るよなぁ…。
同じ立場だったけど幸福な未来が待ってたチェン刑事を、その手で殺しちゃってるのがまー、またまた救われない。
犠牲者が加害者になり、また犠牲者が生まれていく輪廻から、出る道がなかなか見えない。
『こういう因業の深い話だからこそ、異能者やるにはあまりに優しすぎる男が、この話の主役になってんだろうな…』という納得もあったけども。
騒がしい鳥どもを狩り殺す、異能の使い方を義父に学びたどり着いた、全てを狂わせた元凶…と思える男。
お兄ちゃんが狂喜するオタク野郎との再会も、キレイな真相だけが世界に埋まってない苦さを全面に押し出してきて、なかなかやるせない。
チエン班長の奥さんの誠実といい、地獄みてぇな状況でこっちが信じたかったものを、積極的にハンマーで壊しにかかる話運び…最悪で見事としか言いようがねぇ。
義父もお兄ちゃんも、悪意より弱さで人生捻じ曲げられてるのがなぁ…。
そんな彼に極めて予言的な、狩るものと狩られるものの関係を語っていた謎の青年との再会は、一体どんな運命を連れてきたのか。
チエン班長とお兄ちゃん、ティエンシーちゃんの過去が今回明かされたことで、未だ伏せられ続けているこのポイントが、かなり気になる運びにもなっていた。
彼が真相に繋がる最後の…大きな道糸だとは思うのだが、何企んでるのか全然読めないのがまーた、次回を見届けたく成る牽引力にも繋がっている。ヒキが太ぇッ!
今回二人の過去を見せた筆の冴えを見るだに、もう一枚の伏せ札めくる時も鮮烈な表現を届けてくれそうで、アヴァンギャルド摂取するべくこのアニメ見てる僕は、そこも楽しみだ。
そして三つ目、導きのないまま定められた運命へと潜ったトキの物語は、これまでと変わらぬ色彩で、これまで以上の熱を込めて駆け抜けていく。
数多の偶然が必然に編み上げられていく因果の不思議を改めて味わいながら、トキはけして触れてはならない過去にどう向き合い、踏み出すのか。
背負うには辛すぎる過去に押しつぶされた連中の思いが、新たな筆致で鮮烈に描かれた今回だからこそ、時光代理人のタブーを破る決断を前にした主役の息づかいが、荒々しくも生々しく迫る。
ヒカルはまだ死んでおらず、取り返しのつかない惨劇は未だ、青年たちの心を砕いてはいない。
だがその瞬間は、確かに目の前に迫ってきている。
チエン班長とお兄ちゃんが、極めて”時光”的なやるせなさの当事者であり、決断を間違えたもう一人の”時光代理人”なのだと解ってくることで、人間が背負うには重たすぎる決断を主役も果たすのか、ハラハラする気持ちが強まってくる。
やっぱ敵と味方は光と影、背中合わせの歪な鏡で照らされていたのだと解ってくる瞬間ほど、力強い熱が物語から立ち上がってくる時ねーわな。
トキが潜りヒカルが導く、人間の正道を行く因果律ダイブをハラハラしながら見守ってきたからこそ、歪な正義で鳥を狩る狩人の在り方が、その歪な写像だってのも解ってくる。
通じる部分は確かにあるのに、決定的にねじ曲がって対立していく運命。
そのうねりがぶつかった結果、一つの事件が起こり、今終わって新たに始まろうとしている瞬間を描くエピソードでした。
こういう形で、複雑怪奇な群像劇が重大な結節点にまとまっていく姿を見せられると、問答無用に理解らせるパワーがあってメッチャ凄い。
主役によって全く違う画風の物語は、時を遡ってその真実を抉り出し運命に引き寄せられて一つにまとまった。
涙と狂笑が、祈りと卑属が、繰り返す殺戮と決死の跳躍が数多入り混じって、炸裂した先に続いていく物語は、未だ全容を見せない。
だからこそ、見届けなければいけない。
”時光代理人-LINK CLICK- II”…お、面白すぎりゅ。
次回も楽しみ!