イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

星屑テレパス:第3話『爆薬メカニック』感想

 何一つ自分の言葉で己を語れないバブちゃんが、きらら美少女に理解られ抱かれHappyに!
 そんな都合の良い夢を、かなり強めのアタリで新キャラがぶん殴りに来る、星屑テレパス第3話である。

 奇人集う放課後ロケット研究会、四人目のメンバーは不登校の凄腕メカニック! ……を向かい入れるまでに、当然といえば当然ながら、いきなり生っぽい軋轢がきらら時空に襲いかかってくる回である。
 ゴーグル不登校のロボマニア、瞬ちゃんの人間関係アクセルしかなくて、ブレーキしかない海果にガツガツ全力でぶつかってきて、だいぶ空気変わったな……て感じ。
 同時にテレパス宇宙人に何でもかんでも理解してもらって、まともな繋がり作れないクズっぷりをド正面から叩きに行くのは、今後気持ちのいい話を展開する上では必須だとも思う。
 前回までのふんわり柔らか青春絵巻から、だいぶハードヒットな方向へ舵を切った感じではあるが、泣き虫宇宙人のハチャメチャコミュニケーションは一体何をもたらすのか、こっからの話運びが楽しみである。
 『ペットボトルロケット何発飛ばそうが、宇宙に行けるわけねぇだろ!』ていうのは、テーマに選んだロケット開発を生真面目にやっていくなら、誰かが叩きつけなきゃいけない一発なわけで、第3話で”そこ”に触る話なんだなー、と思った。
 個人的には、好みの方向へ舵切ったな、って感じ。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第3話より引用

 つーわけで前回青春ロケットを、きらら色の夕焼けに飛ばした三人。
 可愛いSDや擬音を抑えめに、四人目との対峙はなかなか重たくシリアスな手応えである。
 陰気、電波、電波とふんわり揃いの三人に、付け足すんならそらーツッコミ属性なんだろうけども、一方的に奇人共のバランス取る不公平を嫌ったのか、瞬ちゃんは覚悟の不登校ブッ込むガレージガール……”一般人”などではけしてない。
 自分の”好き”を認めやがらねぇ世間に中指おっ立て、歯に衣着せぬ本質ぶっぱを得意とする彼女は、ユウや遥乃が内にこもりがちな海果に甘い……甘すぎるのとは真逆に、ビシバシぶち当たって厳しく攻めてくる。
 腐れコミュ障の脳髄直接覗き込んで、何でも理解し抱きしめてくれるピンク髪のママちゃんが、言いたいことも世間に訴えられないまま周囲を切り捨て”ここではない何処か”目指してる主人公を全肯定する展開には、正直ヤダ味も感じていたので、瞬ちゃんのあたりの強さはそこまで嫌いではない。
 ここでキツめにぶっ叩く担当を入れて、緩みを正すつもりがある話だったのね、って感じよ。

 自分を肯定してくれる二人に出会ったことで、海果を包囲する灰色の孤独には微かに色がついた。
 しかしそれはまともな生活できないくらいコミュニケーション能力が破綻している主人公が、”まとも”になったわけではなく、ある意味初対面に当然の対応をしてくる瞬を前にして、海果は自分で自分を語れない。
 ここで何でも助けてくれるユウが代理人になって、瞬との関係が全然改善しないのは、主役の成長を促す意味でも作品内部の公平性を保つ意味でも、大事だなぁと思う。
 ピカピカ眩しいカラフルな青春だけが海果の周りにあるのではなく、宇宙に逃げたいほど灰色な現実もまた彼女の一部であり、そこを色づけたいのならば海果自身が変わっていかなければいけない。
 ユウはそのための不可欠な触媒であり大事な友人であるけども、苦手分野を全部押し付けて代行してもらう関係は、健全とはとても言えないだろう。
 ここらへんは共感全ぶりのアーパー宇宙人が、難しいこと全部海果に押し付けてロケット開発というデカい夢にタダ乗りしかけてる状況にも言えることで、二人がお互いの得意分野を持ち寄り、苦手にちょっとずつ踏み込む対等な互助関係をどう作っていくかが、今後の課題かなと感じる。

 

 ここで海果と瞬が元クラスメイトであり、自分にないものをもっていた瞬との甘い未来を一瞬夢見て裏切られていたのだと描かれるのは、海果が人間関係毒ガス発生装置とのコミュニケーションを諦めない、良いネタだと思った。
 ノリと利害だけで仲間に引き入れようとコンタクトしたのではなく、もうちょい湿った感情が過去にあった上で、破綻した夢を作ろうように不器用に近づき、また間違えていく海果の歩み寄りには、なかなかいい手応えがある。
 何もかんも拒絶してしまう瞬にとっても、奇人三匹がすり寄ってきたのは己を変え夢に近づくいいチャンスなんだけども、瞬もまた他人からの歩み寄りがないと暗い場所から出れない少女だ。
 灰色の失敗に終わったファーストコンタクトの後、ガレージの扉を開け薄暗い影にきらら色の夕陽を差し込ませる特権は、やはりユウにある。

 白紙の純真さを持つ彼女は、他人の気持ちや為すべきことが解ってしまう物語的特権を持っていて、海果と瞬がどこに行くべきかが見えている。
 それが自分とよく似た、万色を孕んだ茜色の光であるからこそ、問題解決のキャスティングボードを二人に預ける。
 扉を開け光を闇の中に届ける特別さを行使し、海果の特別になった宇宙人は、瞬に対しておでこを突き合わせ、彼女の救済者になる未来を拒む。
 普段のアーパー陽キャっぷりを少し収めて、謎めいた宇宙人っぷりを全面に出した彼女の影は、あくまで影でしかなくて瞬の孤独に触れ合わない。
 この不思議で魅力的な距離感を、踏み込もうと頑張る海果の足取りに先立って切り取るカメラの豊かさは、大変このお話らしい。
 スッと画面の雰囲気を冷やして行う情感の描写が、かなりの切れ味と鋭さを持ってるところが好きだね、このアニメ。

 

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第3話より引用

 甘く都合の良い夢が破綻した思い出から目覚めて、何故かそこにいてくれる特別な運命と影が重なり、指が絡む。
 『え……なんでこんなえっちな雰囲気なの……』って聞きたくもなるが、僕はこのアニメが時折のぞかせるエロティックな肉感は、とても良いなー、と思っている。
 常識離れした奇人変人がトンチキな学園生活を送る話が、成層圏にぶっ飛んでいかないために必要なフィジカルな感覚を、触れ合う体の手応えが生み出してくれる感じがある。
 そこに情欲の炎が揺らめいているのかは横において、海果にとってユウの肉体が自分に触れてくれること、その質感が灰色の世界に色を付けてくれることは、これまで望んで得られなかった特別な体験だ。
 モノトーンからカラフルへ、色彩を得てまた失望の冷たい灰色へ、結構激しくカラーリングを変えるお話を生きてる少女たちが、どんな実感でもって自分たちの青春を受け止めているのか、考えるヒントが特別な触れ合いの中見つけられる気がするのだ。
 まぁ二次元存在が匂わせる実在性の欲望を良い作画から感じるのが、ただただ好きだって話でもあるけど。(欲望パナシで台無し)

 おでこぱしーを操るユウは”理解する”という能力において図抜けていて、これから海果がどういう道を進んでいくべきなのか、とても正しい示唆を与える。
 口ごもった真意をユウに代読してもらうのではなく、自分の口で伝え手で掴み取る道にこそ友達を進めていくのは、それが海果の望みだからだ。
 中学時代瞬を見つめていた視線、叶わなかった夢を思い返しても、生きたいけどいけない”どこか”は常に、誰かの隣りにある。
 近くて遠く、果てしない未来に捕まえるようでいて既に間近にある”どこか”へ踏み出す旅は、しかし海果一人では不可能である。
 幼子に対する母のように、何もかもを理解し抱きとめてくれる絶対的な安心があればこそ、海果は求めて叶わない夢に手を伸ばす勇気をもらえ、踏み出して少しずつ変わっていける。
 ことコミュニケーションに関して、関係性の勾配は圧倒的にユウ優位に傾いていて、傷つきやすく後ろ向きな海果は甘えている。
 そんな一方的な傾斜、甘えた関係が存在することそれ自体が悪いわけではなく、そこに安住して変わらないこと、作品がその停滞を肯定することが危ういと思うので、ユウとの茜色の触れ合いが海果の”母港”となって、傷ついても戻れるからこそ踏み出せる距離感が(少しエロティックな温度を宿して)描かれているのは、結構好きだ。
 ここをスタートにロケットづくりや友人関係、個人の内面も変化していくだろうけど、この繋がりの特別さを変化の中失わず、描き続けてくれると嬉しい。

 

 ユウのぬくもりに抱きとめられ、背中を押されることで海果は閉ざされた扉へ、何度も体当たりを繰り返す。
 共感能力に飛び抜けた才能を示すユウが一足先に開いて、光を届けた場所に海果は、身勝手な挑戦状をねじ込むことしか出来ない。
 しかし相手の”好き”を聞き届け、震えながら自分の”好き”に向き合って言葉にすることで、ユウに自分の言いたいこと、言うべきことを代読してもらっったときは通じなかったものが、暗いクローゼットの中に届き始める。
 瞬も頑なな態度の中、扉の向こうで己を語る海果に視線を向けて、拒絶以外の反応を見せ……勝手な挑戦状に思わず扉を開けて、逃げる背中を捕まえられない。
 コミュ障と狂犬、イカれた二人の関係性は”勝負”することでしか進展しない所まで……”勝負”しさえすればどこかに転がりだす所まで、海果の勇気によって進み出す。

 海果が囚われている孤独と独善が、常に冷たいモノトーンで描かれている今作。
 他者とのチャンネルを閉ざし攻撃的な態度で遠ざける瞬のガレージも、色合いとしては薄暗い単色に塗られている。
 友達のぬくもりに背中を押され、かつて掴みたくて諦めたものにもう一度向き合う海果が身を置くのは、もはや暗い灰色ではない。
 その光が閉じた扉のそこから、微かに漏れ滲んでいるのを丁寧に切り取っている演出が、僕は好きだ。
 変人たちの来訪は、世界と自分をどう繋げたらいいのか分からなくっている少女の居場所≒心に、確かに侵入を開始している。

 これが(瞬自身は大きなお世話と跳ね除けつつ)喜ばしい変化と思えるのは、瞬自身が彼女を傷つけた偏見や諦めを、海果にたたきつけてしまっている現状を変えうるからだ。
 ロボットに憧れゴーグルを外さなヘンテコを、世間一般の普通になじまない意地を、理解されず傷ついたからこそ学校に居場所を見いだせない女の子は、同じような歪さをもっている奇人に、自分がされたのと同じふるまいで向き合っている。
 それは自分を孤独に追い込んだものと同じ色合いに、自分を染めてしまう行為だと思う。
 海果はユウと触れ合うことで、逃げ出したかった灰色に染まりかけていた自分を宇宙に向けて進み出し、なりたいと思える自分をちょっとずつ探りつつあるけど、瞬は大嫌いなはずの偏見ヤローと、同じ態度で他人に接しかけている。
 言葉にならない思いを引っ張り上げてくれる、ユウという理想の鏡を手に入れたことで好転しだした海果の人生と、全く逆向きの……フツーで面白くもない引力に瞬は囚われつつあるのだ。
 この引力を、ハチャメチャな果たし状は引きちぎってともに進む友情ロケットに、果たしてなれるのか。
 その行く先を暗示するように、ガレージの扉は既に開いている。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第3話より引用

 とはいえ己の至らなさ、変われなさに傷ついた海果は道半ばに膝を曲げ、動けなくなってしまう。
 この弱さ、出来なさが海果の現在地であり、それを思い知ることでしか新しい場所に進み出すことは出来ない。
 一人であれば今まで通り暗い闇が周囲を覆っていたのだろうけど、今は灯台の秘密基地に仲間がいる。
 ここで鮮烈な光が海果を射抜き、自分がいるべき場所、戻るべき場所、進むべき場所を教えるのは、モノトーンとカラフルの複雑な混合で青春の明暗を描いてきた、統一感ある演出の軸線上だ。
 話の雰囲気をガラッと変える、現実的で苛烈な瞬がぶち当たってきたからこそ、海果が包囲されている孤独な闇の濃さ、それを打ち払う友情の眩さは、今までとは違う角度から作品を照らしていく。
 そういう事ができるキャラを三話というタイミングで投入できたのは、僕はいいことだと思った。

 自分なりに挑みやらかし涙したコミュニケーション闘争を、海果と遥乃は朗らかに笑い、暖かく抱きとめる。
 そうして与えられてばかりの自分が嫌だと、海果がかなり切実に涙する場面をちゃんと描いてきたのは、与え与えられる対等な関係に向けて主人公と作品が向き合うつもりがあるのだと、しっかり示してくれていて嬉しい。
 ここで泣いちゃうのも、抱きしめられるのも、灰色の孤独からなんとか這い出そうとしている海果の現状であり、これからちょっとずつ変わっていく景色だ。
 そこには光と影が瞬いていて、二人の友だちがいて、テレパシーがあろうとなかろうと、宇宙人だろうと地球人だろうと、伝わりにくい気持ちに寄り添ってくれる。
 そのありがたさに抱きとめられながら、海果は涙を拭ってなりたい自分になっていく。
 それが瞬も巻き込む、ハチャメチャで元気な青春の旅だと、寂しくなくていいなと思う。

 いたずらに微笑みながら遥乃が差し出した鍵は、どんな扉を開けるのか。
 勝手に押し付けた挑戦状が、彼女なりの生きづらさを抱えたメカニックに手渡すものは何なのか。
 風向きを変えながら、物語は続く。
 その予期してなかった変化が、望んでいた表現を連れてきてくれて、とても良いエピソードだった。
  思いの外本腰で、ダメダメで生きにくい変人たちがそれでも肩を並べて、ロケットに本気になっていく様子を書くアニメなんだな、と思えた。
 次回も、とても楽しみだ。


・補記 モノトーン・カラフル

 総天然色を基本とするアニメにおいて、灰色の新生姜豊かに息づいていく変化は様々な物語の中で活写されてきた、もはや定番である。

  例示するなら”四月は君の嘘”第一話

lastbreath.hatenablog.com

  あるいは”スーパーカブ”第1話

lastbreath.hatenablog.com
  もしくは”ぼっち・ざ・ろっく”第1話

lastbreath.hatenablog.com


 はたまた作品全体のテーマとなった”色づく世界の明日から”

lastbreath.hatenablog.com

 

 などの傑作が、ぱっと思い出せるだけでも出てくる。

 定番の演出だからといって陳腐なわけではなく、むしろ一つのリンガ・フランカとして共有されればこそ作品ごとの味わいや魅力、面白さがにじみ出るポイントだと思う。
 ユウと運命的に出会ったことで色づいた海果の灰色を、ここで瞬にツッコませてもう一度灰色な現状に直面させ、当人に変わるべき/変わりたいポイントを鮮明にさせる使い方をしてきたのは、なかなかに独特だ。
 その薄暗さが海果の専売特許ではなく、激しくぶつかりあった瞬もまたガレージの暗がりに己を閉じ込めている、未来への媒として使ってきたのも含め、今後もこのお話が己だけのモノトーン・カラフルをどう使っていくのか、見届けたいと思う。