イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

映画”特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜”感想

 ”誓いのフィナーレ”と四期を繋ぐ、ユーフォ特別編を見たので感想を書く。
 全国への切符を掴めぬ無念を抱え、黄前部長態勢に変わった北宇治吹奏楽部の新たな日常を優しく、精妙にスケッチしていくような作品で、尺も合わせてTVSP前後編……といった趣。
 なのだが伊達や酔狂で”京都アニメーション”ではなく、BGMを抑えめに展開する思春期の全局面が美しくも眩しく、特別ではないからこそ特別なものを見せてもらっているような、”ユーフォ”の手触りを思い出させてくれた。
 もう一個の味わいであるギスギスした重たさは、4月から始まるTVシリーズに取っておいた感じで、今回はOPの吹奏楽部日常ポートレートに刻まれているような、高校生たちの弾むような日常が大事に大事に削り出されていく。

 その焦点はやはり黄前久美子であり、遂に部長になった彼女のまーったく熟れてない可愛らしさから始まって、アンサンブルコンテンスト部内予選を取り回していく中で、ユニット内部を指導するうちにだんだんと頼りがいを得て、真実”部長・黄前久美子”に成っていく過程を、丁寧に見せてもらった。
 少女たちが冬景色の中、確かにそこに居るという実在感と、現実の煤けたみすぼらしさを全力で拒絶する、京アニテイスト全開の美しすぎる世界が豊かに融合していて、僕らが見たい青春がとても穏やかに、力強く描かれていった。
 立ち姿一つとってもどこかフェティシズムが匂う、やり過ぎに張り詰めた美しさを久々に浴びたわけだが、やはりこういう方向性でクオリティをぶん回すマニアックな味わいが肌にあっている感じで、懐かしくも嬉しい手応えだった。
 校内の風景、何気ない仕草、表情の一つ一つの粒が立っていて、北宇治とその通学路に満ちている澄んだ空気を胸いっぱい吸い込ませてもらえているような、暖かな臨場感が引き続き豊かに感じられるのは、とても良かった。

 ここまでニ年、レギュラーとして勝負に挑み続けていた久美子からは見えにくくなっていた”出来ない”側の事情も部長となれば向き合う必要がある。
 ”出来ない”葉月ちゃんとつばめちゃんを仲間に入れて部内オーディションに挑むことで、ただ先頭をひた走るだけではない部長としての頼もしさがどう生まれるのか、じっくり掘り下げて黄前体制の足場を見せてくれるのは、大変良かった。
 自分の音に入りすぎる葉月ちゃん、周りと呼吸を合わせないつばめちゃんが、久美子のアドバイスを契機に一気に開花し壁を乗り越えていく様子は、それぞれの技量や個性が一つにまとまるからこそ奏でられる”アンサンブル”の真髄を、自然と教えてもくれる。
 三年生となった久美子は『私が私が』と前に出ていれば良い子どもではもはやなく、新進校の新部長という立場にのしかかるものは重い。
 しかし久美子なりの柔らかな態度で後輩の悩みを受け止め、あぶれちゃった子たちのフォローも考え、全体のバランスを整えながらもより良い音が出るように、より強い音楽が奏でられるように一歩ずつ進んでいく足取りは、久美子らしいままで頼もしかった。

 これは滝先生の出番が極端に少なく、生徒の自主性によって自分たちの音楽を作り上げていく自主独立の頼もしさが、話全体の構造から立ち上がっていたのも大きいだろう。
 アンコンはあくまでオフシーズンも緊張感を持って実力向上に勤めるための”口実”であり、しかしそこに真剣に向き合うからこそ鍛え上げられていく強さが確かにある。
 部内コンクールで選ばれた精鋭は全国銀賞の栄誉にたどり着きもするわけで、口実に内実が付き従い、練習が本番に繋がっている強い姿勢で持って、久美子率いる北宇治吹奏楽部は音楽に向き合っている。
 名将に引っ張られるだけでなく、悩みながらも自分たちがどんな音を生み出したいのか、助け合いながら進んでいく姿勢は、卒業を控えて人生のアレソレとも取っ組み合うことになる、部活の外の黄前久美子と、確かに響き合っている。
 まー今は波が穏やかなだけで、どーせ春になったら激ヤバ爆弾がズンドコ投下されまくり翻弄されまくりなわけだが、そこで悩んで滅茶苦茶になるのも一つの糧というか、あるべき段階というか……。
 頼りないところから頼もしくなり、また新たな問題にぶち当たって揺れて立ち上がり。
 そういう事を繰り返して、ちょっとずつ人間としての芯、演奏家としての揺るがぬ核が出来ていく様子を、見届けるのもまた嬉しい。

 

 葵ちゃん譲りの優しさで波風立てず、部を穏やかにまとめていこうとする久美子に対し、ドラムメジャーたる麗奈はピリッと厳しい辛口派、部長に足りないものをしっかり演奏集団に付け足してくれる。
 肩書背負った降り目立たしさは、プライベートのイチャコラ高湿度っぷりを公には出さない頼もしさが在ると同時に、その殻ぶち開けた時のトクベツなネットリ感を強くもしてくれる。
 いやまーじ、一生イチャイチャしてて凄かった。
 『秀一にはあんな肘鉄ブッ込んでおいて、黒髪ロング安済知佳となりゃコレかよ!』と言いたくなるようなイチャイチャっぷりだったが、俺はそれが見たくてユーフォ観てんだよッ!(暴論棒で思いっきり叩く)
 ニ年間、色々な波風を共に乗り越えてきた二人の”今”がどんな繋がり方と湿度で踊っているのか、公私両面でみっちり書いてくれる特別編で、大変良かったです。
 それ以外の場面では抑えめなBGMが、麗奈とのゼロ距離青春闘争開始した瞬間元気に鳴り出して、そこでもトクベツ感出てたのは良かったですね。

 あんまデカい波風が叩かない合間の話なので、俺が大好きなみんなの可愛い所が要所要所に挟み込まれて、それも嬉しかったです。
 面倒くささはそのまんま分かりにくいデレ期に突入した奏のスーパーチャーミングとか、肩の荷物をおろした三年生組の闊達自在な軽やかさとか、スーパー甘えん坊に見えて時折図抜けた理知が顔を見せる剣崎後輩とか、いいところ沢山あった。
 ネームドだけでなく、北宇治の一員として自分たちなりの青春を楽器に託し、演奏を楽しんでいる子達が元気に描かれていたのも、横幅広い描写で良かったです。
 部内オーディションの結果、ネームドが一人も入らないクラリネット四重奏が”勝つ”のが俺好きなんだよな。
 三年目の北宇治が実力者揃いだって描写にもなってるし、主役を過剰に特別視しない風通しも生まれてるし。

 

 そんな日常の穏やかなスケッチも良いのだが、時折楽器とそこに宿る音楽へのフェティシズムが豊かに溢れ出したシーンが鋭く演出され、久美子達が音楽に捧げる本気を作画が下支えするような手応えを、場面から受け取ることも出来た。
 特につばめちゃんが担当するマリンバは優秀な演奏装置として機能し、彼女が壁を突破する瞬間、内部機構にカメラを据え付け奇っ怪ながら美麗なオブジェとして、マリンバの”内蔵”をえぐり取ってくる場面は、とてもファンタスティックな映像体験だった。
 呼吸一つ、世界の見え方一つで楽器が奏でる音は変わっていき、それは変化していく自分と自分たちを、豊かに映し出し形にしてくれる。
 そういう自己と世界をつなぎ合わせ、表現する魔法の道具として楽器を信じている手触りを、凝りに凝った楽器作画から感じ取ることが出来て、大変良かった。
 やっぱアニメ見るときは、ありのままの世界のどこに焦点を合わせて特別視するかっていう、造り手のフェティシズムを感じたいわけで、そういうのが分厚いからオラ京アニとユーフォ好きだァ……。

 勝負のオーディションに挑む時、”出来ない”側だったつばめちゃんと”出来る”側にたっていた久美子が協力して、マリンバを運ぶ。
 ここにも楽器の魔法を信じ、それが生み出す繋がりと変化を愛する視線は生きていて、二人が練習の中で育んだ絆、それが頼りない部長に生み出した強さを、重たいマリンバが反射してくれる。
 ぐっと力を入れて持ち上げ、越えられない段差を超える仕草と描画は、この練習を契機に諦めていた自分を豊かな野心へと解き放つようになった、つばめちゃんの成長を見事に描く。
 それを優しく見つめる黄前部長の視線と合わせて、穏やかな日常のスケッチが確かに何かを生み出していたのだと、見ている側に納得と満足感を手渡す場面にもなっていて、一時間の中編をまとめ上げるのにとてもいい場面だと感じた。
 あそこを経て、夕日の公園で”最初の四人”が高校生力全開で語らってる場面の美しさも凄いし、ユーフォで見たいものたっぷり見れる、良いアニメだったな……。

 

 というわけで、大変面白かったです。
 透明度と輝きの強い、光の青春フィルムって感じでしたけども、それはあくまでユーフォの半分。
 残り半分のエゴと愛憎渦を巻く暗い闇は、4月からのTVシリーズでたっぷりと味わうことが出来るでしょう。
 久美子が部長を務める三年目の前奏として、そこに留まらない一つのまばゆい青春群像として、非常に良いアニメでした。
 面白かったです、ありがとう!