イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

終末トレインどこへいく?:第3話『ショートでハッピーイージーに 』感想ツイートまとめ

 湿り気を宿した暗闇の中で、絶望は菌糸を伸ばす。

 終末トレインどこへいく? 第3話を見る。
 故郷吾野を飛び出しての、初の停車駅・東吾野
 終わった世界を太く短く死んでいくために、キノコに支配される道を選んだ住人が、終末トレイン一行を取り込もうと足掻くコメディ・ホラーである。
 ”マタンゴ”と”ミスト”と”サクラメント”を福圓さんの怪演でかき混ぜ、少女頑張り物語で和えたような独自の食感が、このお話らしくて大変良かった。
 初手でこんだけロクでもないと、旅路の先に待ち構える他の駅も大概な匂いがプンプンするが、まー何かを求める旅ってのは大概そんなもんだ!
 晶ちゃんが頑張ってて良かったです。

 

 前回描かれたトレイン・アクションを通じて、一行それぞれがどんな子なのか、見ている側にも少しは種が巻かれている。
 賢さと臆病さを併せ持つ晶ちゃんが、能天気な他メンバーが無防備にキノコに侵食される中、一人自我を保って危機と向き合う役になるのは、納得の配役である。
 この終末世界においては、疑り深いからこそ生き延びられる瞬間が確かにあり、弱さと慎重さを重ね合わせた晶ちゃんの資質は、運命共同体が初手で終わる危機を乗り越える、決定的な切り札になっていく。

 東吾野を支配する、死に至る病への効き目の短い処方箋。
 コミカルなキノコ要素で薄く糊塗されているが、要は自殺主義のドゥームズデイ・カルトだ。
 ワイワイ騒がしく明るいJKノリに助けられて、あんま直面せずに住んでいるが、7G世界の終わりっぷりはマジでシャレになっていなくて、そらー太く短く気持ちよく死んでいく道を選ぶ人たちも、当然いる。
 苗床がバッタバッタと枯死しても気にしない、世代を重ね生に執着する”人間らしさ”を放棄することに成功した東吾野の人たちは、旅人を自分たちと同じ絶望に染め上げて、光の下でしぶとく繁茂するゴーヤイズムに恐怖する。
 眩しい太陽の光の元、邪魔になるくらい元気に育つ苦くて栄養満点の野菜は、それを特産とする吾野に育った子ども達が、湿った快楽主義的自殺願望をはねのける武器にもなっていく。
 ……結構故郷の土に根付いた、植物のトーテミズムな話だな、面白い。
 終わった世界を黄色い列車で切り裂いて、わざわざ遥かなる池袋まで足を伸ばす理由。
 前回撫子ちゃんが穏やかに問うてきたクエリーを、東吾野の絶望マタンゴ達はより恐ろしく、直接的侵食を伴って投げつけてくる。

 

 これに答え、終末トレインを結末まで引っ張っていく特権は主人公にこそあるわけだが、静留はミストサウナで寄生されて、安楽な絶望に飲まれかけてしまう。
 成り行きでも、ぶつかり合っても、自分とは違う警戒心を持った誰かがいてくれるからこそ、旅は隣駅で終わらずまだまだ続いていける。
 晶ちゃん主役の大冒険は、そんな運命共同体のルールを改めて描くキャンバスにもなっていた。
 東吾野に蔓延する刹那主義は、静留の中にも確かにある。
 だから菌糸は少女の頭に根づき、旅を終わらせかけていく。
 そこから這い上がって、”進む”と主人公が決めるためには一見心地よい終わりを否定する誰かに、どこへ行きたいかを問いかけてもらう必要がある。
 自分一人ではとても簡単に見失ってしまうものを、問いかけ直して新たに思い出す手助けをしてくれるから、友達というものは得難いのだろう。
 静留の旅立ちが孤独なものにならなかったのは、ノリと勢いに任せた偶然であるけど、レール越しのモールス信号含めて色んな人がその旅に関わり、助けてくれるのは幸運な運命といえる。
 というか、ソロだとすぐ死ぬわこの世界。

 晶ちゃんは東吾野の霧に一人抵抗し、その真実を暴いていくエピソードの主役であるけど、回想シーンはあくまで主役とヒロインのために用意される。
 なぜ、旅の果てまで進んでいきたいのか。
 これを補強するように葉香との思い出が描かれ、ありきたりで幸せな約束がまだ残っているから、終わった世界でなお絶望に飲まれず、ゴーヤのようにタフに生きていく決断を主役は選んでいける。
 架線無しで進んでいく不思議な列車の推進力は、やはり心と絆の力であり、そういう精神性第一主義のファンタジックな描写が、コミカルな寓話という独自の表情を与えている気がする。
 心が飲まれたら旅が終わるし、それをせき止めるのは友情なのだ。

 終わった世界で生き続ける理由を、東吾野の人たちは見つけられなかった。
 ならキノコが脳髄に直接伝えてくれる快楽に溺れたまま、死に飛び込む道を選ぶのは道理だ。
 そんな彼らに取り込まれかけ跳ね除けることで、『友達にもう一度会いたい』という、実に大した事ない願いがゴーヤとキノコを隔てている現状が鮮明になってくれる。

 

 この終わった世界において、停止と死の誘惑は、可愛い見た目で誤解するほど、少女たちから遠くない。
 なにしろ世界が終わっているのだから、ちっぽけな人間が人間のまま生き、狂気に飲まれず人であり続けることはとても難しいのだ。
 その難業にかじりつく足場は、一体どこにあるのか。
 故郷を旅立ってしまった以上、その問いかけは静留だけでなく、終末トレインの仲間全員に伸びていくだろう。
 ここら辺、今回主役を張った晶ちゃんにとって未だ明確ではなく、ブルブル震えながら何故電車に乗り続けるかは、こっから先のお話で見えてくる部分なのだと思う。
 ツンツンしつつもめっちゃ玲実に甘えているので、彼女との関係性に死と狂気を越えていく光があるのかな~…って感じだが、さてはてどうなるか。

 

 コミカルに狂って終わった世界と、そこでのシニカルな命がけが終末少女達の青春を問う、良い画材になる手応えはここまでの物語で、しっかり得ることが出来た。
 たった四人と一匹、死に飲み込まれず生き延びる。
 それが最初の印象よりかなり厳しい旅であり、だからこそ彼女たちが彼女たちである意味、人間が人間である証明を照らしてくれそうなヤバさとワクワクが、良く感じられるエピソードでした。
 物言わぬポチさんが可愛くも頼もしく、要所要所で晶ちゃんの冒険を助けてくれていたのも良かったなぁ…ポチさんデカくて可愛いから好きだぁ。

 ゴーヤブン回して心地よい終局を拒絶した静留たちの、先が見えない旅は続く。
 ローカルな手触り満点の美術に、狂って終わった世界の不思議と不気味が満ちている面白さを、東吾野に堪能しつつ、この先の物語を待つ。
 ゲラゲラ笑った後『…全然ヤバいじゃん』と真顔になるこの感じ、かなり好きだな…。

 

 

 ・追記 キノコの毒に飲み込まれてもなお、脳髄の中に微かに残ったものへ、東雲晶はお礼を言った。
 ヤベー度合いがずいぶん濃い女将さんが、それでも無償で手渡してくれた食料に晶ちゃんが最後お礼を言ってたの、凄く好きだ。
 キノコ人間になって、食って腹減って食わなきゃ死んでいく人間の定めから開放された彼らにとって、インスタントラーメンは遠くに置き去りにした人間性の残滓であり、もう取り戻せず無用な正気だ。
 自分たちと同じ絶望に取り込むまでの擬態だったとしても、その遺産を晶ちゃんたちに手渡してくれた温かさを、何事にも素直になれない少女はたしかに受け取って、頭を下げた。
 それは人間の形をした死にゆくキノコへの礼儀と同時に、終わりきった世界でもそうやって”人間”でいられる自分へ、礼を尽くした行為だと思う。
 あの子はそういう事をする子なのだと、今回の冒険で理解ったのは凄く良かったです。

夜のクラゲは泳げない:第2話『めいの推しごと』感想

 夜に流され新しい場所へたどり着くための仲間と、ぶつかり合いながら出会う旅へ。
 ママー! また花音さんが自分に惹かれた女の人生捻じ曲げてるーッ!! な、ヨルクラ第2話である。
 大変良かった。

 

 過去と現在が交錯し、夜光性の眩さが渋谷を染めたまひる主観の第一話とは、ちょっと違った角度から新たな出会いを描くエピソードである。
 前髪ぱっつん激ヤバお嬢様かとおもわれためいちゃんと、ぶつかったり近づいたりを繰り返しながら花音さんが自分がかつてファンに告げたことを思い出し、『解釈違い』と跳ね除けた憧れをもう一度抱きしめることで、木村ちゃんも彼女の偶像が持つ2つの名前を受け入れられる。
 まひるを傍観者の立場に置くことで、彼女のアーティスティックな才覚があの渋谷の夜を生み出していたことも再確認できて、そんな彼女には出来ない楽曲作成のエキスパートとして、新たな仲間が加わる頼もしさもある。
 頑なに反発し合っていた”山ノ内花音”と”橘ののか”、”木村ちゃん”と”高梨・キム・アヌーク・めい”が、お互いを溶媒として認め合っていく喜ばしさも眩しくて、大変面白いエピソードだった。
 やっぱ複数の名前、複数のアイデンティティが生み出す反発を融和させながら、真実の自分を配信アート活動から汲み上げていく感じの話になりそうだ……今っぽいね。

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 というわけで、携帯電話に残した”橘ののか”へのあこがれを消し去って、全てを殺した鉄面皮に戻りかけていためいちゃんが、金髪の”山ノ内花音”と知らねー新しい女と友だちになっている自分を、新たな待ち受け画面にして微笑めるようになるまでの物語である。
 冒頭と結末が携帯電話というメディアを通じて響き合い、めいちゃんの変化を鮮明にしている構図だが、シケきった絶望から希望に満ちたほほ笑みへと、暗い過去から新たな未来へと踏み出す彼女の顔を照らす時、携帯電話は鏡の役目も果たしている。
 これは花音さんにも向けられている視線で、自分の姿をコピーすることでクソみたいな現実に立ち向かう強さを得た、一番のファンと向き合い直すことで、彼女はアイドル時代の自分と少しだけ和解できる。

 自分も音楽も、ファンを一人にしない。
 そう誓っていたはずなのに、眼の前の強火オタクに解釈違いを叩きつけられ、頑なにアイドル時代をはねのける自分は果たして、いつか見た夢を大事にできているのか。
 日本とドイツ、二つのルーツがミックスされた己の名前を素直に告げられなかった”木村ちゃん”の事を思い出すことで、花音さんもまた確かに”橘ののか”だった自分との、アイドルとしての過去の繋がりを再獲得して、今より笑える未来へと進み出していく。
 まぁそういう、名前とアイデンティティを巡るとても普通……とは言えない、良い感じのエキセントリックがスパイシーに香りつつも、普遍的な思春期を描くお話である。

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 つーわけで、二人で一つの青春有機体”JELEE”として、世界に声を上げる事を選んだっまひると花音。
 叫ばずにはいられない巨大な質量を霊に宿す花音が、一回挫折し足を止めかけたまひるを引っ張る形……と思いきや、パッションが迸りすぎてぶっちゃけバカな花音のふらつく足元を、まひるが落ち着いて支える感じの重心バランスがまず描かれる。
 前回無敵の女神っぷりを見せていた花音さんの、浅はかでおバカな部分がドンドン出てくることで、そういう部分を飾らない対等な距離感でJELEEが向き合っていると解るのは、なんか良かった。
 人生揺さぶる特別なアートの創造主として、敬意と憧れをお互いに抱きつつも、バーでのバイトという極めて泥臭い現実領域で重なり合うことで、気のおけない友達としてのいい間合いが構築されている様子が、大変グッドだ。
 めいちゃんを仲間に加え、楽曲配信で世界を相手取っていく戦いが進んでいく中でこの距離感も変化していくと思うが、量産型として世界に埋没し全部諦めようとしていた時代より、まひるが楽しそうなのは凄く良いなぁ、と思う。

 この暖かな距離感を足場に、今回は花音さんが自分の鏡と向き合うターンである。
 なのでまひるは衝突のちょっと外側、当事者から少し遠い距離で見守るポジションに立ち続ける。
 前回の主役を押しのけて話の真ん中に座るのは、姫カットの激ヤバオタク、高梨・キム・アヌーク・めいである。
 初手むき出しの十万円、札びらで貧乏アーティストをぶん殴って自分色に染めようとするヤバっぷりで強烈なデビューを飾った彼女は、窓枠の中央分離帯を大きく飛び超えて手を差し出し、花音はそれをはねのける。
 先週印象的だった夜の渋谷とは少し違った、現実的で陰が濃い色合い。
  それは花音とめいが共有する過去からの残響であり、過去にしがみつくファンと過去を否定するアーティストとのすれ違いが、生み出す不協和音の色でもある。
 この濃厚な感情領域に、既に花音の金髪な現在に救われ呪われてしまったまひるは入っていけない……

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 というわけでも、実はない。
 荷物の取り違いを通じて、花音がヤバオタクの内側に何があるのかを電車内で確認する隣に、まひるは相棒らしくちゃんと座る。
 絵画に才能を持つまひるが直感できない、自分たちと響き合う音の良さを歌い手である花音はすぐさま感覚し、一度跳ね除けためいちゃんとしっかり向き合う必要性を感じ取る。
 着座と直立、聴覚と視覚に捻れていた距離はイヤホンを共有することで混ざり合って、JELEEはお互いが感じ取っているものをしっかり共有して、一緒に向き合うべき場所へと進んでいくことになる。
 のがした魚の大きさを嘆く情けなさや、対峙するべき課題を見つめるキリッとした横顔。
 人間としてアーティストとして、色んな顔を見せる山ノ内花音の全部を、まひるはしっかり見届けれる距離にいる。
 それは思い出の芳香をスーハークンカクンカ、バキバキにトリップしながら包まれるめいちゃんにはなかなか、見れない距離だ。
 つうかマジでやべぇなこのアマ……。

 花音-めいで通じ合いぶつかる、あこがれと才能の導火線。
 これが未だ表舞台に立たないキウイちゃんにおいても、幼馴染であり”海月ヨル”最古のファンでもある関係性を通じて、来週あたり発火しそうではある。
 まひる自身が信じきれなかった才能を、信じ手を引いて眩しい光の中へと誘い出した花音ちゃんの特別さは、多分キウイちゃんも届かぬながらずっと手渡してきたもので、しかしそれではまひるは動き出せなかった。
 自分を夜に連れ出す眩しい悪魔の、特別さを背負えなかった”大事な友だち”として、キウイちゃんが親切の奥に相当質量デカい感情隠している様子……それにまひるが気づいていない気配も、元アイドルとヤバオタクの衝突の陰でジワジワ積まれている。
 ここがドカンとぶっ飛ぶと、まひるを間に挟んで2つの才能が感情の爆心地で大怪獣バトルしてくれそうで、今からメチャクチャ期待してる。
 ぜってー自分だけが支えてきた才能が嬉しそうに語る、自分の知らない新しい女にメラってるでしょキウイちゃん……そういうの理解っちゃう。(期待混じりの妄念)

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 そこら辺の爆裂は先の話として、音楽という自分の領域を通すことでやべー元ファンと向き合う必要性を感じ取った花音は、やべーお嬢様の手に渡った自分の持ち物を取り戻し、相手の持ち物を返……そうとするが、ここではまだ上手くいかない。
 お互いに譲れないものが何なのか、自分たちを繋ぎうるものが何なのか、見つけても思い出してもいないこの段階において、境界線を越えた交流はあくまで押し付け奪い譲らないものでしかなく、二人の衝突は物別れに終わる。
 青いアウターをグイと掴んで引き渡さないめいちゃんも、知らず彼女のアイデンティティを汚してしまう花音も、お互い何かにしがみついて自由に泳ぐことが出来ないままだ。
 この不自由さを描くことで、前回まひるを新しい場所へと導いた花音が彼女自身何かに縛られ、なかなか己を解き放てない等身大の人間であることが見えてくる。
 そんな難しくかっこいい花音のこだわりと強さを、まひるは部外者の距離からちゃんと見上げ見届けていて、『無様な強張りも含めてありのままの己を見てくれる誰かが、隣りにいてくれるのは良いことだな……』と思わされる。

 めいちゃんのヤバさが目立つので、彼女が勝手な解釈ぶん回して推しを傷つける加害者にも見える構図なのだが、そこにはそうやって何かにしがみつかなければ、形を真似なければ崩れてしまう少女の脆さが、確かにある。
 お互いの顔を見ず、自分の顔を見せず、頑なにギリギリ今の自分を守ろうとする切実さが、目を隠した肖像には宿っている。
 『今の私は”山ノ内花音”だ!』と、己の在り方に固執する花音さんの強さは、かつて”橘ののか”だった黒髪のアイドルに救いを見出した少女と、そんな彼女に約束してしまった自分自身を、蔑ろにしていないか。
 そんな冷静な問いかけが、学生証を汚す食べかすで象徴的に描かれているのは、似た者同士の傷追い人がだからこそすれ違い、お互いを大事にできていない現状を鮮明に描き直す。
 この無理解の描写があればこそ、”山ノ内花音”にしがみつく少女が”橘ののか”だった自分を少し許して、自分が差し出してしまった救いの責任を取りにヤバオタクの内側に進み出す一歩が、暖かな手応えを生んでもいく。
 こうやって一個一個、間違えたり強がったりすれ違ったりしながら、それでも笑える温度感でこの物語は青春を描いていくのだ。

 

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 この決別から、物語はめいちゃんの回想へと迂回し、激ヤバオタクの秘めたる歴史へと切り込んでいく。
 前回現実の渋谷とオーバーラップする形で描かれたのとは、また違う幻惑の少ない表現であるが、このスタンダードさがめいちゃんの持ち味であり、あるいは前回の眩暈こそがアーティストとしての”海月ヨル”の特質……ということだろうか。
 ここら辺はJELEEとして実際どういう作品を皆で作り、世の中に吠え声突き立てていくかで答え合わせされていくと思うが、回想の中のめいちゃんはナチュラルな栗色の髪をして、イカれたハイテンションはどこへやら、世界は大変に暗い。
 かっちりした直線が窮屈にせり出す世界は、やらされてるだけのピアノしかすがるものはなく、自分の名前も髪も、ドイツと日本のミックスであるアイデンティティも肯定的に突き出せない憂鬱を、重たく反射している。

 その薄暗さから抜け出す出会いが、偶然足を運んだチェキ会にはある。
 陰口叩かれた生来の名前ではなく、”木村ちゃん”という量産型日本人の偽名で繋がった、あまりにも眩い光。
 ありのままの自分を認め、愛し、求めてくれるアイドルと出会ってしまった少女は、大好きを携帯電話の待受と黒く染めなおした髪に刻むことで、憂鬱な世界をなんとか生きていく力を得ていく。
 先週まひるが”山ノ内花音”に出会うことで歪まされた人生のレールを、”木村ちゃん”は”橘ののか”に出会うことで捻じ曲げられてしまって、その歪さは世間がどう言おうと、過酷な世界で生き延びるための光になっていく。

 かつてサンフラワー……太陽の花たる向日葵だった/そうあり続けることが出来なかった”橘ののか”が、たしかに生み出してしまった奇跡。
 嘘ばかりの孤独な世界の中で、確かにファンと響き合った暖かな手触りと、交わした約束。
 それが今の”山ノ内花音”を否定する呪いだと頑なに遠ざけ、見えなくなっていたものがジクジク、傷ついためいちゃんの心から溢れていく。
 『女一人の人生、狂わしちまったのなら責任ってのがあるよなぁ!』と、心のツボを抉られて花音さんに思わず詰め寄りたくなってしまったが、そういう奇跡の対価をきっちり払う正しさを、失っていないのも花音さんの良いところである。
 皆、あの女に狂わされていくッ!(最高of最高)
 ……相性悪くて喧嘩ばかりだった元メンが、太陽になりきれなかった女に向ける感情もネトネト重たいんだろうなー。
 VSサンフラワードールズ編にも、期待大だぜ!

 

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 それは先の話として(二度目)、『諦めたはずの過去に涙を滲ませる女の暗い世界を、輝く光でぶち破ってくれよ花音さん!』というこっちの期待に、完全に燦然と応える存在質量バカデカ女の眩さよ……。
 『やべー女だなゲラゲラ』と嘲笑う対象だったはずの、めいちゃんであり木村ちゃんでもある女の子がどんだけ切実に”橘ののか”を求め、当人が投げ捨てた輝きを唯一の支えにして暗い世界を生きてきたのか、知ってしまってはこっちにゃ、救済を希うしかねーわけよ!
 これは壁面に封じられた夜のクラゲを愛で蘇らせて、”海月ヨル”を復活させた先週の花音さんと重なる動きであり、同時にどんだけ最悪な状況になっても”橘ののか”を信じ愛し続けてきた、もう一人の”橘ののか”あっての眩しさでもある。
 花音さんが投げ捨てることでしか生き延びられなかった、嘘っぱちの偶像が確かに手渡してきた救いと約束の形を、めいちゃんが背負ってくれていたからこそ今、それを裏切らない自分を取り戻すことが出来る。
 アイドルとファンが思いの外お互い様で、アイドルやめた今だからこそ同じフレームの中一つに重なって進み出すことが出来る可能性へと、ラノマニノフを伴奏に物語が駆けていく。

 花音さんは札束で自分を蔑ろにされても、”山ノ内花音”を解釈違いと否定されても、耳に飛び込むめいちゃんの音楽に魂を揺すぶられ、思い出した約束に背中を向けない。
 頑なな強さを確かに持ちつつ、柔軟に過去へと立ち返り新たに生まれ直す強さと眩しさが未だ生きているから、めいちゃんはかつて自分を救った黒髪のメサイアが、金髪になって名前を変えても輝いている事実を認められる。
 そうして貰うことで、花音さんも自分が置き去りにしてきたかつての輝きを、孤独な夜を過ごす全ての人のための音楽を、新たに思い出すことも出来る。
 そういう共鳴が境界線を飛び超えて、新しい関係と可能性を生み出していくのは、やっぱ良いなと思う。

 

 

画像は”夜のクラゲは泳げない”第2話より引用

 愛の証を握りしめ、かつて自信なく居場所を明け渡した悪意を前に戦う時、世界は少しだけ明るい。
 ラノマニノフだけがあった防音室に、不似合いなアイドルグッズを祭り上げるほどに、自分がここにいて良いのだと思える幸せの実感はまして行った。
 自分を好きになってくれた人に、孤独を遠ざける音楽を手渡すことで、”橘ののか”は確かに奇跡を生んできた。
 それを否定するばっかではなく、新たに光の方へと進みだそうとしている”山ノ内花音”に繋がる大事な存在として抱きしめ直す一歩目として、かつての”橘ののか”と同じ形をしているめいちゃんの存在は、音楽担当がJELEEに加わった以上の意味を持っているように思う。
 『誰かが見つけ手を差し伸べてくれるからこそ、自分が見捨てていた自分の可能性と向き合い抱きしめられる』という構造は、前回まひるが花音さんに掬い上げられたときと同じで、今回はめいちゃんと花音さん、鏡合わせに抱きしめ合う形なんだな。

 めいちゃんが一曲見事に弾ききって、大好きなののたんに突っ走っていく時、お嬢様らしからぬ無様で活き活きした歩みをしているのが、僕はすごく好きだ。
 先週まひるが悪魔に抱きしめられた時もそうだけど、人間の人生が動き出すときにはそういう力みと歪さが必ずあって、ともすればブサイクな真実の瞬間を、このお話はとても大事に切り取っていると思う。
 俺は張り詰めた心の鎧を固くすることで、なんとか闇の中生き延びてきた人が赤子のように思いをぶつける瞬間が大好きなので、木村ちゃんがののたんに飛び込んでいった瞬間には相当食らってしまった……。
 ドタバタテンポの良い奇人コメディを描きつつ、素直に『良かったね……頑張ってね……』と思える青春絵巻をパワフルにぶん回せているのは、このお話の強みだなー。

 かつての自分に似ためいちゃんを、幾度かの衝突と拒絶を経て抱きしめられた花音さんは、かつて約束を交わしたファンに重ねて、アイドルとしての自分を抱きしめられたのだと思う。
 まだまだ黒髪だった自分を抱きしめ切るには足りないけども、”木村ちゃん”を鏡として自分の大事なものを思い出した今回は、その才能と人格で色んな女を救い狂わせている、花音さん自身が救われるための、大事な一歩なのだろう。
 憧れ救われるファンとアイドルの一方通行ではなく、新しい友達として傍観者(あるいは”見届けるもの”)だったまひるもまじえて、新たな一歩を刻んでいく。
 そんな関係もまた、喜ばしく力強いものだと思えるお話でした。
 まひるが無茶苦茶素直に、結構拗れていた木村ちゃんとののたんの現在地を祝福して、力まず一緒に進んでいく姿勢見せてくれているの、俺は好きだ。
 この軟体クラゲっ子の掴みどころのなさが、固くなれば傷も増える青春の激浪を泳いでいくための、大事な強さになっていくんだろうなぁ……。

 

 

 というわけで、ヤバくて面白くて可愛い”三人目”の善さを、原液120%でドバドバ味あわせてくれる回でした。
 アイドル時代の花音に、重すぎる感情持ってるヤバ女だからこそ削り出せる、鏡合わせの貴方と私、過去と未来。
 ミックスルーツを排除する、面白くもねぇ学校の空気から抜け出して、”高梨・キム・アヌーク・めい”であり”木村ちゃん”でもある自分を肯定できた、めいちゃんを祝福したくなる回でした。

 ラノマニノフの演奏が良い感じに楽曲担当の強さを語って、JELEEの未来がドンドン開けていく手応えも十分。
 境界線を飛び越えながら夜を泳ぐクラゲたちが、一体どこまで這い上がっていくのか。
 次回も大変楽しみです。
 ……そこかしこに核爆発級の女女地雷が埋め込まれているので、どこが炸裂しても最高大惨事なんだよなぁ……。

ブルーアーカイブ The Animation:第2話『私は認めない!』感想ツイートまとめ

 謎のアーティファクト”シッテムの箱”を携えて、先生は借金まみれのアビドス再興に駆けずり回る!
 ブルーアーカイブ The Animation 第2話を見る。

 

 今時珍しいストロングスタイルなツンデレセリカちゃんの反発をテコに、部外者であり大人である先生がアビドスの守護者として認められてていく過程を描くエピソード。
 銃を握らないひ弱な彼に何が出来るのか、セリカの可愛さで絨毯爆撃カマしながらしっかり積み上げていくお話で、足腰強くて大変良かった。
 やっぱ主人公以外起動すら不能、可哀想な子どもらが幸せを掴むための道を切り開く道具として”箱”が描かれると、先生の唯一性が上がって良い。

 とにもかくにも、セリカさん(Classic Style TUN-DERE Black Belt)の可愛さをゴリゴリ押し込む回であった。
 やっぱ異形進化した萌え業界に、あえてコッテコテのド真ん中を投げ込むことで新鮮な風を生み出している感じがあり、ヒドイ扱いされた結果大人を信じられなくなったネコチャンがフーフー言ってる様は、脳髄ぶっ飛ぶほどに可愛かった。

 ややコミカルに転がしていって、自販機前のシロコとの会話をいかにもブルアカな青い透過光で照らし、少女たちの絆こそが勘所だと、キッチリ見せてアクションに入る緩急もよい。
 先生ワッショイもやりつつ、女の子たちの仲良し重点で進めてくれるの良いわ。

 

 装輪装甲車まで持ち出してくるヤバ武装集団が、学校に襲いかかってくる背景も語られたわけだが、多くの生徒が出ていく中でアビドスにしがみつく五人は、逆に言えばそこ以外に居場所がもうないわけで。
 子どもでしかない自分たちを誰も助けてくれない辛さを、降って湧いた救世主に預けたい気持ちが、安易にならぬようツンツンネコチャンが噛みついてくる! かわいいね偉いね…。
 先生がそんな少女たちのメシアになるのは、契約の石版を収める聖櫃をタブレットにして持って特別な存在だから…てだけでもない。
 ラーメン屋の大将とのやり取りから見えてくるように、健気で孤独な生徒たちをどうにか助けたいと思いやり、気持ちだけでなく体を張って抗争の現場に出て指揮を取り、勝利へ近づく手助けをしているからだ。
 (坂田将吾の声帯が付いたモーゼが主役なの、結構面白いネタの調理法だな。ホシノの盾にもIRON HORSと描かれてたし、イスラエルとエジプトが触れ合う出エジプト記が一つの背骨……なんかなぁ)

 ここら辺、シッテムの箱によるクラッキングセリカの居場所を即座に把握し、武力行使要員をスムーズに投下して事態制圧を図る描写で、良い感じに強化されていた。
 アレは持ってて嬉しい主役の証ではなく、子どもらには手が届かない希望を強引に引き寄せるための、非力な戦士の武器なのだ。
 フィジカル強すぎるアドビス人が物理戦闘を担当して、先生が情報指揮を受け持つ役割分担は、バトルのメリハリも付いて大変いい。
カーアクションも交えた戦闘は、ド派手なのに血生臭さがなく、コミカルで暴力的な放課後青春絵巻って感じがあって、独特の面白さだ。
 青と白を基調としたカラーリングが、構えた銃器に良い意味での玩具っぽさを与えて、ハードなアクションが重くなりすぎないよう、ちょうどいい塩梅で味付けしてくれてる感じ。
 でもアビドスの猛者が存分に実力を発揮する銃撃戦にはちゃんと迫力があって、賑やかで楽しいクレイジースクールライフを彩ってくれているのが、いいバランスだなと感じる。
 ここら辺序盤の軽快な無双が終わって、強敵とガチる展開になってくるとまた、味が変わってくるのかなぁ。
 ネームドとやり合う場面が今から楽しみだ。

 

 

 

画像は”ブルーアーカイブ The Animation”第2話より引用

 つーかバギーから投げ出される時、普通なら大人である先生がアヤネをかばう感じになると思うけど、描かれたのは逆にアヤネが先生を抱きしめて着地する絵だった。
 スナック感覚で実弾ぶっ放し合う、アビドス人の頑丈さに比べて、先生はごくごく一般的な人間の脆さなんかなー。
 とすると、不壊なる天使たちの中で唯一死する運命を背負った人間が、人の儚さを恐れず誰かのために荒野に突き進んでいくという対比にもなってきて、先生のキリスト性もガシガシ強化されていく感じだが…。
 萌えとアクションにゴリゴリ、正統オカルトをねじ込む味付けなので、ついつい秘教妄想が迸りがちなのはあんま良くないか…。

 

 さておき、先生に強めに当たるセリカを二話の主役に据えたことで、彼が生徒たちに受け入れられていく流れも素直に飲み込めて、大変良かった。
 こういうチャーミングな衝突無しで、無条件で認められちゃうと逆に引っかかり強かったと思うし、『言う役』担当したセリカは偉い。

 信じられないけど信じたい、プルプル震えるピュアハートの描写が鮮烈だったので、一話で評価を改める素直さが可愛く思えて、思春期の子と向き合ってる感じも強くなった。
 自分たちの居場所を守りたくて必死にあがいても、クズみてーな大人ばっかが全てを奪っていって、何も信じられなくなってたところに先生降臨だからな…そら甘咬みもするよ。
 しかし先生が体張って、銃弾で証を立ててくれた結果、本当は信じたかったものを素直に信じられるところへ、セリカは辿り着けた。
 チョロいっちゃあチョロいが、そういう柔らかさを柔らかいままに守ってやるのが”先生”の仕事だと思うし、主人公がやって欲しいことしっかりやり遂げてくれる話運びは、爽快感と信頼感が凄い。

 あとホシノののんべんだらりおじさん顔が、戦闘になると一気に蒸発して引き締まるの、最上位学年らしい油断のなさで好きだ。
 その鷹の目でまだ、先生のことを信用しきらず睨みつけているのは、後輩たちを守りたい気持ちを感じれて、なお好きである。
 ちびっ子なのに盾構えてタンクやってるの、守護者の気概感じて素敵ね。

 

 というわけで、砂に埋れかけの大事な居場所に集った先生と生徒のことを、もっと好きになれる第二話でした。
 鉄砲持ってようが、萌え萌え天使ちゃん達はみーんな震えるガキだからよ…介入可能特権を持ってる主人公様は、その不安も祈りも分かってあげた上で、やれること全部やって欲しいのッ!
 そういう見てる側のワガママを、先生がちゃんと叶えてくれる展開になっていて、大変良かったです。
 治安の悪さと硝煙の香りで分かりにくいけど、座組としてはスタンダードな廃校/廃部阻止モノなんだなぁ…。

 なんか凄そうなネームドも颯爽登場カマして、こっからどう話が転がっていくのか。
 次回も大変楽しみです!

わんだふるぷりきゅあ!:第11話『山に潜む、巨大生物!?』感想

 変身戦士の使命を背負い、往くぞ山奥探すぞガルガル!
 いろはちゃんと悟くんの甘酸っぱいピクニック・デート味も交えつつ、皆で仲良く事件解決な、わんぷり第11話である。

 コンテ・演出篠原花奈、作監板岡錦というスペシャルな座組で展開するお話であるが、あんま力んだ感じはなく、むしろとてもわんぷりらしい穏やかなエピソードとなった。
 しかし『避ける凄み』を攻めたカメラワークで見せるアクションシーンや、弾むように楽しい日常をヴィヴィッドに伝える可愛い場面など、圧倒的な実力が愉しさをバリバリ膨らませてくれる回でもあり、大変良かった。
 特に犬モードこむぎの可愛さが凄いことになっていて、お水をペロペロしたり悟くん謹製犬クッキーを食べたり、たくさん抱っこしてもらったり、見ながら思わず”声”出ちまったな……。
 何しろスーパーアニメーターなので、”動き”を語られることが多いけども、板岡錦は『とにかく可愛い存在を可愛く描ける』ことが強いんだということを、改めて確認させてもらう回でもあった。
 ほんと可愛かったなぁ……いろはちゃんが好きすぎるので、無意識に腕組みに行ってるヒトこむぎとかも最高。

 

 お話の方は大変ゆったりした塩梅で、仲良し三人組が自然豊かな裏山へ向かい、パトロールとピクニックが合わさった幸せ時間を楽しむ感じ。
 感情表現が素直でパワフルなこむぎがいることで、『この時間がとにかく楽しくて嬉しくて最高ッ!』という事が真っ直ぐ伝わって、見ているコッチも幸せな気分になれた。
 この頑是ないダイレクトな描き方は、やや対象年齢を下げた語り口、話運びを選んだわんぷりだからこその良さだと思うので、たっぷり食べられてとても嬉しい。
 プリキュアだけが立ち向かえる危機への対策ではあるんだけど、あんま力んだ所なく自然体、気楽に気安く楽しみながらパトロールしている様子も、わんぷりらしくて良かった。

 でもグダグダに気が抜けているというわけでもなく、オトボケ交えて生態を推理しながら怪生物の正体に迫っていくという、ちょっとしたミステリ味もあって良かった。
 料理まで出来ることが判明したスーパー中学生、兎山悟くんがやっぱいい仕事をしてて、感情のまま突っ走りがちな犬飼姉妹の手綱を握って、ちょっとした動物豆知識も交えて作品全体を引き締める、ナイスポジションに収まっている。
 便利な参謀役で終わらず、チャーミングな恋心もしっかり覗かせてくれて、話数が重なる事に悟くんのことを好きになっていく話作りは、やっぱり見ていて気持ちがいい。
 言動が幼いこむぎを間に挟んで、凄くいいバランスで三人が楽しく過ごし、力強く戦っている様子は、そろそろ1クールが終わるこのアニメが見ているものに何を手渡したか、静かに確認できる感じがした。
 こういうしみじみした”善さ”があるのは、わんぷりのとても良いところだ。

 

 別にガルガルにならんでも強い熊を相手取り、コッチからは一発も殴らない専守防衛ドッジアクションが展開されたわけだが、プリキュアの超人的身体能力を活かしてメリハリを作りつつ、とてもわんぷりらしい”戦い”で良かった。
 バトル要素を遠くに退けて話を作るのは、おそらく見た目より遥かに大変だと思うのだけど、力んだ拳を話の真ん中に置かないことで生まれるゆったり優しい雰囲気、空いたスペースで展開される落ち着いた物語と、実りも多く感じる。
 僕はここまで三ヶ月、わんぷりが描いてきたバトル要素少なめ、日常の幸せや悩みにどっしり向き合った話運びに、他でもない”プリキュア”が刷新した魔法少女像を新たに原点回帰させるような、心地よいノスタルジーを感じている。
 先週ユキとの思い出に一話使ったり、今週最高ピクニックを心から楽しんだり、こういう力みのない平和で身近な手応えは、大胆に”プリキュアらしさ(と思われているもの)”を抜き取ったからこそ生まれる、新しくて懐かしい手触りだ。

 そんな善さを残しつつ、激しいアクションが生み出す爽快感と、キュアワンダフル達がただ行楽に来ているのではなく、日常に潜む脅威をどうにかする戦いに馳せ参じている緊張感を、思い出すことも出来る回だった。
 あんまシリアスには描かれないけども、なんだかんだプリキュアだけが解決できる秘密のミッションは相当な一大事で、色々苦労し頑張りながら変身戦士やっている二人の汗を見ると、そういう事実をちゃんと思い出せる。
 要求されるハードさは話数ごとに変わりながら、望まぬ暴走を強いられてるガルガルを助ける戦いが毎回あることの意味も、しっかり物語の中に刻み込めていると思った。
 やっぱガルガルが傷ついていることに、戦いの中プリキュアが気付く描写が多いの好きなんだよな……握らぬ拳に宿るのは、仁愛の心意気なわけよヤッパリ。

 

 そして話の端っこで展開される、猫屋敷姉妹の日常的イチャイチャ……。
 『先週”起源”が示されたから、このやり取りもより染みるなぁ……』とか思っていたら、謎のまつげバチバチ金髪美少女がミステリアスに忠言ぶっこみ、第三の戦士キュアニャミーの存在が示唆されたッ!!
 猫の形でも人の姿でも、猫屋敷まゆはその瞳をユキに奪われてしまう宿命であると解る描き方で、めちゃくちゃ良かったです。
 お前は本当にユキが好きだね……そういうの、本当に素敵だよ……。

 ニャミーが画面に写ってないだけで既に人化の法を身に着け、人知れず夜を守る戦士として駆けずり回っていたつう展開は、猫屋敷姉妹本格参戦に焦れていた心にズバッと刺さる、なかなか良い手だと思います。
 謎めいた第三勢力という立ち位置は、ここまで描かれたユキの自由気ままでクールな気質とも合ってるし、かといって薄情な感じも全然ないしね……街とまゆを守るために、バリバリ闘ってくれてるし。
 つーか猫屋敷ユキ、美少女形態でバッチバッチにキメつつどっか心地良くボケてる感じがあって、既に美味しいのズルいよな……。
 『先週メチャクチャ尺貰ってたし、今回は犬飼姉妹のハッピーピクニック一本だよなぁ……』と思っていたところに、怒涛の新展開ぶっ刺してくる展開も、気持ちの良い不意打ちで良かったです。

 

 というわけで、とてもかわいくてパワフルな、わんぷりらしい回でした。
 『わんぷりって、だいたいこういうプリキュア、こういう話だな!』というイメージが、ある程度固まったこのタイミングで、こういうクオリティと温度のお話が来てくれるの、凄く良かった。
 放送された映像から自分が受け取った思い込みが、その提供者のイメージとズレていない……あるいはもっと暖かく力強いものだと教えてくれるエピソードを見れるのは、とても幸せなことだ。
 ピクニック&パトロールを楽しみ頑張った三人、皆が可愛く輝いていて、本当に素晴らしかったです。

 強敵クマガルガルを浄化し、顕になった謎の戦士の存在。
 果たしてキュアニャミーは僕らの期待通り、スーパー素敵な自由ネコチャンなのか!?
 颯爽登場新戦士をどう描いてくるのか、次回も楽しみッ!

となりの妖怪さん:第2話感想ツイートまとめ

 となりの妖怪さん 第2話を見る。

 異形と隣り合う田舎暮らし、穏やかに夏の風が吹き抜ける第2話である。
 主役を固定せず、色んな人がそれぞれの暮らしの中、小さな成長や失敗、衝突や発見を積み重ねながら日々を過ごしていく、落ち着いた手応えが心地よい。
 一話一話、もうちょい明瞭な見通しを立ててクッキリお話の目鼻を付けていく作りが昨今のスタンダードかと思うが、あえてジリジリジワジワした作りにしているのが、逆に独自の語り口となっており、全体の雰囲気とも合っている。
 自分たちもあの山間の村に住んで、隣人の暮らしを見守ってる感じ。
 色んなことがありながら、人間にも妖怪にも時は流れていくのだ。

 河童のレインちゃん(虹とかいて”れいん”なのが、フツーに今義務教育受けてる河童って感じがしてスゲー好き)が甘酸っぱい恋に悩んだり、むーちゃんがお父さんのいない寂しさをどう受けたものかフラツイたり、ぶちおくんがワケアリ狐と衝突したり。
 色んなキャラに色んなことが起きているのだが、あんまドラマチックで大きな解決というのはこの話数で起きず、ちょっとだけ解決の糸口が見えたり、逆に見えなくなったり、どっしりした手応えで話が転がる。
 あんまり劇的ではないその手付きが、人間も妖怪もおんなじように、当たり前の難しさの中で生きている実感を連れてきて、素朴なデザインが生み出す味わいと響き合って大変いい。
 ジローはむーちゃんを大事に思いつつ父親ではなく、虚無に食われた父を忘れたくないと思いつつ、忘れていってしまう自分に戸惑うむーちゃんの全部を、受け止められるわけではない。

 しかし虚無に魅入られかけたむーちゃんを抱きしめた羽の温もりは嘘ではなく、他人であっても、人間でなくても、そこには尊いものがある。
 これをすぐさまむーちゃんが受け入れられるのではなくて、声も形も激渋な早千代に諭され、あるいは同じく虚無から生まれたベトベトサンと話すことで、ちょっとずつ心の行く先が見えていくのが良かった。
 小学三年生、そういう歩幅で進んでいくのが大事だし、そういう歩幅で進むことを許せるように、皆頑張ってる。

 

 今回形のない暗い気配が、人を誘い危うくすること…ジロー達がそれを人から遠ざけるように、深山に分け入って”仕事”をしている様子が描かれたのが、ただボンヤリ優しい話ではないと分かって良かった。
 小学校に当たり前に人外が通い、先生がひょろりと首を伸ばす不思議な世界は、皆が善くあろうと心がけ、持ち前の異能とか長い寿命とかの扱いを考えた上で生まれている。
 そういう当たり前の人の尊い頑張りが見えて、作品世界の底が支えられた感じがあった。

 この手応えは冒頭の、フツーに楽しそうなバーベキューの風景と繋がっているもので、ああいう当たり前の幸せがどう作られ守られてるか、小学校の情景と重なりつつ見えてくる。
 ぶちおくんは猫又としての新生を選び、言葉を得たことで自分が何者か悩んでいる。
 ジロー達と言葉をかわして、自分の胸の中にある家族への感謝を言葉に届ける事も出来るし、うっかり百合ちゃんの地雷を踏んで怒らせたりもする。
 そんな百合ちゃんも素直な平さんには”化け”てない自分を預けて、複雑な家族関係の一端を覗き込むことを許したりする。

 異能があろうと異形であろうと、言葉というメディアを使うことで繋がれるのは人と同じで、言葉にならないものを届けようと藻掻いてどこかにたどり着けるのも、また人と同じだ。
 ここら辺、口下手なレインちゃんの小さな奮戦が、可愛らしく効いている。
 色んな人があの山間の村には住んでいて、色んなやり方で他人と繋がろうとし、上手く行ったりちょっと上手くいかなかったり、色んなことが起こる。
 その全部が、なんか良いことなのだと思える穏やかな調子がずっと緩むことなく、静かに続いていく心地よさを、たっぷり味わえる第2話でした。

 

 この穏やかな語り口に付き合う中、妖怪が当たり前に隣りにいる世界の空気がどんなものか、見ている側に染み入っていくのは良い。
 ガツンと解りやすく殴ってくる語り口ではないが、しかし確かに伝わるものがあって、その穏やかな効き方を楽しみつつ、お話独自の魅力と向き合っていける。
 そういうアニメは、やっぱ良い。
 次回も楽しみ。