イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

雪痕を鑑みて残念無し -2023年10月期アニメ 総評&ベストエピソード-

・はじめに

 この記事は、2023年10~12月期に僕が見たアニメ、見終えたアニメを総論し、ベストエピソードを選出していく記事です。
 各話で感想を書いていくと、どうしてもトータルどうだったかを書き記す場所がないし、あえて『最高の一話』を選ぶことで、作品に僕が感じた共鳴とかを浮き彫りにできるかな、と思い、やってみることにしました。
 作品が最終話を迎えるたびに、ここに感想が増えていきますので、よろしくご確認を。

 

 

・ブルバスター

ベストエピソード:第7話『シロ、暴走!閉じ込められた仲間を救えるか?ブルバスター初の市街地戦!』

lastbreath.hatenablog.com

 二階堂アル美が好きだった。
 ピンク髪の造形とクールな立ち位置が良い……てのは引っかかりでしかなく、故郷を奪われた痛みを寡黙に背負い込み、甘えず責務を果たすストイックな姿勢と、その奥に煮えたぎった強い感情のギャップが、ズバッと良く刺さった。
 合わせてニ話、彼女のオリジンを暴く良い話数をもらえた結果キャラ造形も深まったし、ぶっちゃけフォーカス当たりきらなかった沖野くんより主人公していたかな、とは感じる。
 ここら辺のぼんやり感は鉛くんでも同じで、課題と解決が他のキャラだと結構はっきり分かりやすいのに対し、主役である沖野くんだけ彼を支配する影がどんな形していて、それを振り切るために波止で頑張んなきゃいけない理由が、自分にはあんましっかり伝わらなかった。
 これがサブキャラならそこまで気になんなかったと思うので、”主人公”ってのは扱いの難しいパーツだと改めて思う。

 さておき、”置き去りにされたペット”という強い札でもって、第4話で削り出されたアル美ちゃんのキャラ性を更に押し込むこの話数、死んでも死なない巨獣のしぶとさを市街戦の中で描くクリーチャーホラーとしても、なかなか仕上がりが良かった。
 中小企業奮戦記であり、災害復興物語であり、人型重機が暴れまわるロボアニメでもあった今作、たっぷり詰め込んだ各種要素をどう共鳴させて、独自の面白さを生み出すかは常時問われていた。
 やり切れたかというと色々ゴツゴツした部分もあるが、この話数は死から蘇って暴れまわる巨獣のおぞましさと、愛犬を二度殺さなきゃいけないアル美ちゃんの悲しみが面白い重なり合いをして、かなり独自のコクが出ていたと思う。
 暗く傷ついた自己評価をヒーロー稼業で癒そうとしている沖野くんへの『いや、それはテメーの問題じゃね?』感に比べ、被災者でありながら(だからこそ)巨獣駆除に勤しみ、身内殺したアル美ちゃんには素直に感情を寄せれて、ただでさえ好きだったところをココでダメ押しされて、作品を視聴しきる大きな足がかりになってくれた。
 やっぱそういう風に、好きになれる何かがあってくれるアニメが自分なりの描き方で、自分の物語を頑張ってくれている手応えを感じられるから、アニメを見るのが僕は好きだ。

 

 

Dr.STONE NEW WORLD

 ベストエピソード:第19話『LAST MAN STANDING』

lastbreath.hatenablog.com

 分割2クール+TVスペシャルで走りきったDr.STONEは、無事FINAL SEASONが決定し、物語の最後までアニメで見届けられるのだと確約された。
 大変嬉しい。
 元々すごく好きな原作であるし、それをアニメ独自の面白さを加えつつしっかり作ってくれているこのシリーズがちゃんと評価されて、継続的に作り続けられる状態にあることが、大袈裟ながら世の中捨てたもんじゃないなと思わされるのだ。
 世間を震わせるほどの大バズでも、原作の売上に大型ブースター乗っけるタイプのヒットでもないけど、アニメ独自の魅力をしっかり練り込んだ上で、千空たちの歩みをしっかり盛り上げ、高く打ち上げてどこかにたどり着いてくれる物語。
 始まって、描いて、終わり切ってくれる物語。
 やっぱり僕はそういうモノを心の奥底で望んでいて、連載継続中の作品に1クールの長いCMとして、半端な部分で終わってしまう”アニメ化”に想定上に疲れているんだなと、四期決定の報を受けて自分でも思いがけないほど大喜びした後、思い知らされたりもした。
 連載中作品のアニメ化も勿論嬉しいのだが、どこまで描ききれるのか見えない中で物語の途中だけを摂取している不完全燃焼感がやっぱりあって、幾度目かのアニメバブルな昨今、そんな感覚が自分の中に蓄積されているのを感じた。
 無論完結しているからと言って全てを語りきることが確約されているわけでも、放送枠があれば物語の全てをアニメに落とし込めるわけでも、ないから難しいわけだが……。

 さておき、この話数は紆余曲折色々あった宝島での決戦が、千空の勝利で終わるエピソードだ。
 ガッツリ計画した上で不測の事態に振り回され、その場その場のヒラメキと強い絆で苦境を打破していった戦いは、ここで最初に見せた『石器時代のドローン空中戦』に立ち戻り決着していく。
 想定外のインパクトで脱線したように見えて、最初に計画がぶち上がった時のワクワク感を裏切らず一番の見せ場に乗っける話運びは、この物語一番の強みである少年漫画らしい真っ直ぐさを、アニメらしい見せ方で堪能させてもらった。
 他にもいい話数は沢山あるし、積み上げた前フリあってのクライマックスでもあるのだが、綿密な下準備を決戦に炸裂させる、王道であるがゆえの面白さが一番色濃く出ていて、作風からしてもここがベストかなと思う。
 盛り上がるべき時に、一番盛り上がる。
 凄く大事で、時に当たり前と言われ、しかし成し遂げるのは難しい。
 そういう事を、しっかりとやり切ってくれて嬉しい三期だった。

 

 

 

アイドルマスター ミリオンライブ!

 ベストエピソード:第10話『アイドルに大切なもの』感想

lastbreath.hatenablog.com

 だって俺は、最上静香と如月千早が好きだから……。

 アプリもやらずライブも見ず、アニオタという外野席から今更ミリオンライブに触りに行く立場であるが、アニメしか知らないからこその感慨ってのも、自分の中にはある……つもりだ。
 A-1製作の”THE IDOLM@STER”放送から十数年、あの時青春のど真ん中をきらめき傷つき駆け抜けていった少女たちが、ALL STARSという立場で後輩を見守る優しい伝説になった、後の物語。
 主役は未来ちゃん達シアターのアイドルであり、彼女たちが堂々と自分たちの”家”に立ち、観客を招き入れ一緒に舞台を作り上げていく様子をこのお話は見事に編み上げたが、同時にずっと前に見届けて、でも時折心のなかから取り出して感慨深く撫でる一つのアニメの、続きとしてみている部分が僕にはあった。
 だからこの話数で、歌と家族を愛し呪われていたひとりの女の子がどれだけ立派になったのか、見届けられたのは凄く嬉しかった。
 千早にとって歌はずっと大事なもので、しかしかつての自分に似た必死さで蒼い季節を活きている静香を前にして、それだけにしがみついてはいない。
 下ばかり向いている彼女がもっと高い場所に飛べるように、差し出した片手は軽やかで自由で、千早の”今”がどんな手触りなのか、良く教えてくれた。

 そして静香は、間違えず悩まないからこそ作品がブレない主柱となる未来ちゃんが、背負えない陰りを一身に背負い、藻掻き悩み強くなる”アイドル”として、大変良かった。
 第2話で彼女が見せた強い陰りを、晴らすまでに9話かかるわけだが、その長い影が夢を追う物語に必要な陰影をしっかり付けて、立体感のある物語を可能にしていたと思う。
 いつだって苦しい静香をけして放って置きはしない、仲間たちのあったかさもまた心地よく、ハラハラ心配しつつもどこか未来は明るいのだと、信頼して見届けられるいいバランスで、この話数までたどり着いてくれた。
 やっぱそういう荒波と起伏は大事で、静香がガンガンに曇ってくれたからこそ描けた光が、強さがあったなぁと思う。
 ”家族”というモチーフを硬軟織り交ぜて、星梨花や志保、千早と絡めることで多彩な群像劇の味わいが出ていたのも、ミリアニらしい巧さを堪能できて好きな話数だ。

 

 

・君のことが大大大大大好きな100人の彼女

 ベストエピソード:第3話『無口な姫と騎士と武士』

lastbreath.hatenablog.com

 

 だって俺は、好本静が好きだから……。

 『彼女100人ノルマ』という、字面からして正気ではない目標に向けて突っ走っていくこの作品、後半になるほど彼女一人にかけられる時間は減っていき、ぞんざい……ってこたぁないが、あんまミッシリと関係や感情を切りたる贅沢は遠ざかっていく。
 『このお話は音速でヒロインを複数攻略し、彼女になった後のラブラブイチャイチャイチャを狂気ギャグとともに、勢いよくお伝えするお話です』つう、作品の基本構造を淫乱とツンデレでお送りする”最初の二人”に続いての、静とのロマンスを一本どっしり描ききるこのエピソードは、100カノのピュアな部分(ぼくの一番好きな部分)がぎゅぎゅっと絞り出されていて、大変いい。

 一話ぎっしり、コミュニケーションに困難を抱えた少女と主人公の向き合い方を追いかける様子を描くことで、このイカれたお話が思いの外人間が生きることのの難しさとか、そこに誰かが手を差し伸べてくれるありがたさとか、世間がどう見ようが皆で一緒にいることを選ぶ強さとか、そういうモンがあぶり出されていく。
 このホワッと柔らかく暖かいもんをバカにせず、作品の中核として大事にやり切る気概がないと、この狂ったお話は狂ってるだけで終わってしまって、あんま面白くないと思う。
 狂ってるのに人間に大事なことを描いて、大真面目なのにぶっ飛んでいる。
 シンプルに割り切れないジャンル横断欲張りキングな作りが、異様なテンポと勢いの中で生み出す独自のグルーヴ。
 その土台となる本気のロマンスが、甘く美しく描かれているこの話数は、『あ、100カノアニメ”本気”なんだな……』と、僕に教えてくれる良い話数だった。
 他の連中がイカれたヨゴレに落ちる中、ひとり小動物的聖域に守られマスコット属性を維持している静の、可憐な魅力もモリモリ元気で、彼女が好きな自分としては大変にありがたいエピソードである。


 

・ミギとダリ

 ベストエピソード:第9話『コロスコロスコロスコロスコロス』

lastbreath.hatenablog.com

 復讐物語の黒幕が誰なのか、朴璐美迫真の怪演が気持ちよく暴れてサスペンスとしての迫力があるってのは、勿論素晴らしい。
 乗り越えるべき闇が深く濃いほどに、そこから飛び出して描かれる光は眩く力強く見えるし、狂気と血しぶきがずっしり重たいからこそ、それに負けない真剣さで双子の悩みや弱さ、それを越えて選び取られる答えに説得力も出る。
 怜子が身にまとう底なしの闇から逃げ出したところで終わらず、夕焼けに殴り合って未来へ二人が進路を戻すところまで、しっかり書き切る話運びも好きだ。
 そういう巧さ凄さを認めた上で、スゲーシンプルにへなちょこだったミギちゃんが、兄貴に負けないほど強く熱いものをここまでの物語で手に入れていたのだと、心底安心するエピソードだったのが、ベストに選ぶ理由だ。

 僕は園山夫妻の真心が、復讐に凝り固まって己を閉ざした双子に届いて欲しいと思いながら、このアニメを見てきた。
 双子がひた隠しにする薄暗い過去に、まーったく気づかないお人好しのバカ善人が、無邪気に当たり前に、でも彼らなりのちっぽけな哀しさを含んで我が子に手渡すものが、知らず彼らの心に染みていたらいいなと思いながら、このアニメを見ていた。
 だから怜子の狂気と不正義を目の当たりにして、何もかも投げ出してただ生きるだけの動物になろうとするダリの賢さを、今までずっとそれに従ってきたミギが振りちぎって、養父母が自由にどこへでも行けるようにと手渡してくれた自転車でもって、自分だけの人生へと漕ぎ出していく瞬間に、凄くホッとした。
 僕が大事にして欲しいと思っていたものは、作品の行方を力強く指し示すくらい、大事にされているのだと感じれた。
 そういう心持ちと心意気が響き合うと、アニメは特別な”僕のアニメ”として目の前に立ち上がってくる。

 原作からして”僕の漫画”だったのだが、そういう思い入れがアニメで形になってくれる奇跡は必ずあるわけではなく、だからこそ叶ってくれるととても嬉しい。
 13話という話数は7巻に及ぶ物語を収め切るには少し窮屈だったろうが、見事にやり遂げ描ききってくれた。
 まだ終盤戦に話数を残したこの段階で、『お前らが見据えている方向は間違いじゃないよ!』としっかり示し、見ているものを惑わせない親切と的確が力強いこの話数は、ノリと勢いとネタで走り切っているように思えるこのアニメが、凄く巧く作られている事実を示してもいる。
 そういう色んな面白さと強さが、贅沢に複数ジャンルを横断する軽やかなステップが、最後まで緩むことなく駆け抜けていく、大変良いアニメでした。
 面白かったです、ありがとう。

 

 

・星屑テレパス

 ベストエピソード:第9話『惑星グラビティ』

lastbreath.hatenablog.com

 

 思い返すと、結構暗くて真っ直ぐで、つまりはスタンダードな青春のお話を1クールやり切ってくれたんだな、と思う。
 ”きららアニメ”とくくられるものは当然個別の作品、個別のアニメであり、統一されたコードは揶揄されるほどには無いといつも思っているのだが、可愛い女の子がいっぱい出てくるところと、その子達なりに青春に悩んだり揺らいだり、人間の暗い部分に真摯に踏み込んだりすることが、自分の中では結構大事だ。
 灰色の宇宙に一人佇み、誰かが何かをしてくれることを望んでいる甘チャンが、運命的に特別な誰かに出会い、おでこを突き合わせて全てを理解してもらって、優しい世界の中夢を叶えていく話。
 そういう第一印象は話数が進むごとに裏切られ、あるいはそもそもそういう話ではなかったのだと描写に埋め込まれたものを思い返し、的確な演出と鮮明なメッセージに手応えを感じながら、一話ごと好きなアニメになっていった。
 瞬登場あたりが顕著な潮目だが、なんとなーく惹かれ合ったかのように思える少女たちがそれぞれ濃いめの影を抱えて、灰色の宇宙に孤独に漂ってる異邦人なのだと見えてくると、砂糖菓子みたいな触感に心地よい苦味と、麗しい奥行きが生まれてくる。
 そこら辺の緩急硬軟を、自在に演出しきったかおり監督の技量を再確認できたのも、このアニメの良いところであろう。

 この話数で、ロケット同好会は負けるべくして負ける。
 唯一の有識者である瞬が過剰な愛着と責務に暴走して、一人で突っ走った結果うまく飛ばなかったロケットは、惨めな結果に墜落して終わったように思える。
 しかしそここそが新たに進み出すための故地であり、間違えてばかりと思える歩みにこそ意味があったのだと教えてもらうことで、海果は主人公が進むべき場所へと、自分を進めていく。
 そうやって自分を見つけ直した海果が、立ち上がって初めて見つけるのが消えたユウな特別さ含めて、この一見ふんわりしたお話が何を見据え何を書こうとしたのか、見せてくれるエピソードだ。
 友だちに向ける強い感情を、観測できるところまで海果が自分を見つけない間は、ユウは存在すら希薄に、自分自身の輪郭を見失って画面に映らない。
 いつも明るく眩しく、内気少女を抱きしめてくれた天女がその実、ひどくあやふやで危うい存在ではないかという予感は、エロティックな微熱となって最終話で再度顔を出して、物語の先へと続いていく。
 色んな人の到達点であり、再出発点であり、未だ暴かれざる獣の気配を夜闇に見事になぞるエピソードでもあって、このアニメらしい豊かさがあるのが良い。
 だから、この話数がベストだ。

 

 

 

 

・呪術廻戦「渋谷事変」

 ベストエピソード:第37話『赫鱗』

lastbreath.hatenablog.com

 バトルとしてはこの後に続く大激戦が、あるいはドラマに宿るエモーションとしてはこの前の”懐玉・玉折”のいくつかが、より鮮烈で力強くはあると思う。
 しかし特別な、自分のための話数だなと一番思えたのはこのエピソードなので、ベストはここにある。

 常時映画級のクオリティをぶん回し、質で見ているものをぶっ倒して問答無用に自分を理解させるような、パワー勝負のアニメ視聴に正直疲れている感じもあるのだが、しかし”呪術廻戦”二期はアニメが凄いことに、凄いだけで終わらない意味と使い道がしっかり宿っていて、自分の中では消化しやすい部類の作品だった。
 加齢と共にアニメを噛み砕く顎、飲み干す胃腸、変化や新奇についていく足腰がつくづく弱っているのを自覚させられ、そんな弱さに飲み込まれて情けない立ち回りを多数してしまった年でもあったが、しかしこの大人気コンテンツを(それこそ夏油がゲロ雑巾飲み込むような気持ちではなく、灰原と飲んだコーラのような爽やかさで)なんとか飲み込めたのは、自分にとってはとても喜ばしいことだった。
 元々マイナー気質で、場外まで商業的成功をぶっ飛ばしてマスと商機に届かせると、気合十分でバッターボックスに入ってくる昨今のビッグバジェットに苦手意識があるわけだが、持ち前の暗さと題材が上手く響き合うのか、呪術廻戦とは個人的に納得できる付き合い方を、続けられていて嬉しい。

 なので作品を見る目、評価する軸も手前勝手で珍奇なものになるわけだが、”渋谷事変”はとにかく美術が良かった。
 渋谷という街がどんだけ美しくて、それが何気なく何の意図もなく配置された標識や案内や看板や、人間が日々暮らしている証が組み合わさって出来ていることを、ど派手で最悪な異能達のぶつかり合いでぶっ壊される中、思い知らされた。
 その残骸は呪術師達が守るべきモノ、守りたいモノであり、そういうモノの手応えを一話丸々、場違いなくらいエモーショナルに切なく切り取った第30話も、僕は大好きだ。
 あの時虎杖くんが身にまとっていた清廉な正しさ、奇妙なぎこちなさは真人の嘲笑に引っ剥がされて、ボロボロに踏みつけられて新たな形に尖っていくわけだが、そんな彼が一人間として、己を兄弟の仇と恨む脹相と戦い、渋谷駅をぶっ壊しまくるこの回がいっとう好きだ。
 後に宿儺に乗っ取られ、スゲースケールで渋谷中を破壊していく戦いと、ちょっと違った人間サイズのフォーカス。
 渋谷の街に数多満ちた記号や意味が、無意味なカオスにぶった切られて人間様の領域が崩れていく有り様は、惨敗に終わる未来を予見しつつ、奇妙にアーティスティックな気配を宿す。
 意味を圧縮して都市に、人々が集い進み出す”駅”という場所に埋め込まれたデザインは、実用的でありながら芸術的でもあって、ちっぽけな人間が役に立って美しいものを必死こいて作ろうとするあがきが、良くこもった象徴だと思えた。
 それが壊され崩れ、しかしまだ意味の形を残したまま、虎杖悠仁と脹相という、呪いによって繋がれた兄弟血みどろの死闘を彩る。
 呪いの道具でしかなかった脹相が人道に戻っていく休戦と、人の道を踏み外した姉妹が自身の命すら奪う致命的な過ちへ、愛ゆえに進み出す場面で終わるのも、人間と呪いの話らしくて良い。
 都市論の匂いをまとうアニメが僕は好きで、だから呪術二期はメチャクチャ肌にあったが、そんな自分の興味関心が一番鮮烈なエピソードで、一番好きなのだ。

 

 

ウマ娘 プリティーダービー Season3

 ベストエピソード:第9話『迫る熱に押されて』

lastbreath.hatenablog.com

 だって俺は、ダイヤちゃんが好きだから……。

 三期のダイヤちゃんは張り詰めて硬質な気高い美しさと、野獣のように戦士のようにガムシャラに駆け抜ける荒々しさが優美な勝負服の中同居していて、とても素敵だった。
 ”お祭りウマ娘”としてのキタちゃんのキャラ建てがぶっちゃけはっきりしない中、麗しき姫騎士としてのダイヤちゃんは百億兆点叩き出していて、サトノの悲願を呪いではなく祈りに昇華するべく走る悲愴も合わせて、凄く良かった。
 そんな彼女と最高のお様馴染みの物語が、頂点に達して最高速で駆け抜けていくエピソードである。

 史実において、この春の天皇賞をピークにキタサンブラックサトノダイヤモンドの走りは交わらず、有馬というクライマックスには顔を出せない。
 話作りには大変困った所だとは思うが、ヒネらず最大出力のエモーションでもってこの決戦を描きに行った結果、とてもいいエピソードになってくれたのは嬉しい限りだ。
 後半、それぞれの死力を尽くし『サトノダイヤモンドから見たキタサンブラック』をレースの熱気で削り出していく場面もいいが、前半のデート部分も良い。
 最終話の出走前もそうなのだが、三期は本来のメッセージを描写の奥に隠して、時間を使ってじっくりと見せる場面の豊かさが、凄く良かった。

 ウマ娘を人生賭けて信心し続けた人が、末期に見る夢のような美しい光景のなかを二人が進んでいって、年頃の少女のように笑い、はしゃぎ、普段着で歩く。
 それがAパート終わり、告白の温度で告げられる宣戦布告によって”ウマ娘”の本分へと立ち返り、お互いがいたからこそたどり着けたG1決戦へと加速し、加熱し、突破していく。
 穏やかなアダージョから激しいヴィヴァーチェへ、緩急をつけて描かれる少女たちの青春が精妙で、物語る手法の巧さとしても、際立ったエピソードだと思う。

 このピークを描ききって、正直後半どうすんだろうなとは思っていたのだが、第10話以降全部を使って、衰えと終わりという抗いがたい定めに向き合った語り口も、また好きだ。
 夢の結晶たる”ウマ娘”において、それは語られるべきではないという意見もあろうが、競走馬をテーマに選んだ以上三期に描くのは必然であるし、誠実でもあろうと僕は思う。
 人も馬もウマ娘も、駆け出したからには終わっていく。
 衰微と受け取られるその黄昏にも、数多の輝きがあり、それはこの眩き青春の頂へと必死に駆け抜け上り詰め、ここでこそ見える景色にたどり着けたからこそ、愛おしく走りきれる場所なのだ。
 そういう風に、アウトロというには長く個別の熱さと美しさをもった物語へとしっかり繋がっていくこと含めて、凄く良い中盤の山場だと思う。