イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

凩、歳暮の戸を叩く -2021年10月期アニメ 総評&ベストエピソード-

・はじめに
この記事は、2021年9~12月期に僕が見たアニメ、見終えたアニメを総論し、ベストエピソードを選出していく記事です。
各話で感想を書いていくと、どうしてもトータルどうだったかを書き記す場所がないし、あえて『最高の一話』を選ぶことで、作品に僕が感じた共鳴とかを浮き彫りにできるかな、と思い、やってみることにしました。
作品が最終話を迎えるたびに、ここに感想が増えていきますので、よろしくご確認を。

 

 

・白い砂のアクアトープ
ベストエピソード:第21話『ブルー・タートルの夢』

”間違える役”のくくるだけでなく、”答える役”の風花にもミスを犯させて、それ故にしっかり悩んで答えを探す道に送りだせてたのが、平等で良かったです。 そーだよなー、みんなヒヨッコだもんな。

白い砂のアクアトープ:第21話『ブルー・タートルの夢』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

2クール24話をフルに使い切って、少女たちが大人になっていく過程と、その先に続いていく歩みを描いた物語は、仕事に自然に青春に社会の描画にと色々なものを貪欲に盛り込み、その全てを見事に輝かせていた。
各エピソードに良いところがあって、どのお話をベストに選ぶかは悩ましい。
やや全容を掴みかける第1話をしっかりとまとめ上げ、作品の輪郭を教えてくれた第2話もいいし、この物語が青春ど真ん中の若人だけでなく、様々な世代にフォーカスを当てて話を作る気概を見せた第5話、第2クールへの導線を巧妙に張る第9話もいい。
がまがまとくくるの真実を強く暴き、その先に広がる世界に希望を繋ぐ第10話から第12話の流れ、ティンガーラに舞台が移ってからは孤独の第13話と風花が奇跡の帰還を果たす第14話も良い。
しかしその上で、風花が主役となり過去の自分が響かせた残響と向き合う第19話……を前提に、このエピソードをベストに選ぶことにする。

お話が始まった時、風花は前代未聞のフワフワ女で、夢に向かって頑張っているくくるを頼りに自分を見つけていく物語と思えた。
しかし風花に芯が入っていくのと反比例して、ピカピカに見えたくくるの陰りと欠落、それ故産まれる強烈な依存心と危うさが見えてきて、がまがま閉館が迫る第1クールクライマックスで、それが一気に炸裂する。
ここで”姉”としてくくるを支え導くことにした女は、自分の影を追う少女に引導を渡せるほどに成長した……と思わせておいて、当然未成熟な少女としての側面をまだまだ残して、ミスもすれば揺れもすることが、このエピソードで見えてくる。
第2クール終盤の凹ませ方は結構ハードで、早く息をつぎたい一心から風花を”大人”に押し込めたがっていた自分を、このエピソードが鏡写しにしてくれた感じがあった。

欠けているからこそ満たされようと願い、出来ないからこそ出来るようになりたいと夢見る。
夢の残骸から新たな夢を掴み、あるいは砕かれた夢を再生させていく少女たちの道は平坦ではなく、行ったり来たり、浮き沈みが激しい。
”大人”になったと思いこんでも至らぬ所は沢山あり、だからこそ思わぬ所で出逢った夢が、新しい可能性を切り拓いても行く。
くくるがひとり迷って辿り着いた島で、新しい夢に出逢った風花はそれに導かれて、くくるの隣から旅立っていく。くくるもまた、”姉”の縁で風花を縛り付けていた己に気づき、祖の背中を押すことで自分の夢へと、”大人”へと進みだしていく。
繋がって離れて、旅立って戻る。そんな繰り返しは同じ場所に留まることを意味せず、少しずつ高く広い場所へと己を押し上げて、見えなかった景色に飛び込む力をくれる。
そのために絶対必要な間違いと迷いすらも、苦く甘く書ける筆力があったればこそ、この2クールの物語はより良く、面白く仕上がったと思う。
キャラクターを特定の役割と属性に閉じ込めず、生きて変化する存在として最後まで描ききる覚悟をこのエピソードが示してくれたことが、最終局面の喜ばしい変化を受け止める準備を、しっかり整えてくれた感じもある。
そんな風に、24の物語が有機的に連動して一つの編み物を作り上げる心地よさも、また優れたアニメだった。


・ブルーピリオド
ベストエピソード:第10話『俺たちの青い色』

あの海は、鏡に写った俺とお前の裸身は、青い青い一つの頂点であり、苦しみ沈んでいた道の終わりであり、何かが始まり直す視点でもあるのだ。

ブルーピリオド:第10話『俺たちの青い色』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

この話数は間違いなく、ベストに推せる。
八虎と龍二が共に辿り着いた場所の明暗が鮮烈に演出されていることとか、何かと作画がヨレがちなこのアニメがなんとか二本の足で踏ん張る足場だった、絵画的なレイアウトとモチーフの選択が最も冴えてる所とか。
シンプルにアニメとしての仕上がりが良いことは、特筆に値すると思う。
繊細で複雑な青春がどんな色をしているか、ずっと探り描き続けるお話において、やはりそれが最も鮮烈に演出され、鮮明に彫り出されている話が、一番強い。
祖の強さがドラマとしての盛り上がり、八虎の受験が成功する要がグツグツと強く煮立つタイミングに、しっかり噛み合っているのも、また良い。
巧さが空回りし、シリーズ全体を貫く拍動を助けないもったいなさを、アニメを見続けているとよく感じるわけだが、このアニメは勝負回を勝負どころでしっかり差し込み、グングンと勢いを増せていたと思う。
二次試験直前、伸るか反るかのタイミングで八虎が溺れる親友を見捨てられない自分に向き合い、それでも捨てられない賢さを誇りに変えて挑む足場……”勝つ理由”として、このエピソードは決定的に大事だ。
そういう大切な話数を、この仕上がりで描ききれたことが、アニメ全体の評価を大きく高めていると思う。

そlして何より、ここで青年二人が辿り着いた岸辺は、とても眩しい。
今までの自分に×印を付けて、共に溺れる誰かを求め挑発していた龍二に先んじて、踏み込んだ八虎の決断。
それは八虎自身の視界を開き、二次試験の課題にダイレクトに繋がった表現を、その身魂に宿していく。
あくまで誠実に、生粋の優等生として自分を引き上げた八虎の生き様を間近に感じて、龍二もまた深い淵から己を引っ張り出す。
お互いぶつかり合い、燃え盛る火花を散らす赤い縁。
そうして切開された心から、瑞々しく湧き上がる青。
混ざり合う色合いが一つの頂点に辿り着き、そこからまた人生が続いていく果てしない喜びと不可思議が、小田原の情景に心地よく宿っていた。
ああ、いい話だ、と。
そう思えるエピソードであり、作品であり、アニメ化だったと思う。

 

・月とライカと吸血姫
ベストエピソード:第7話『リコリスの料理ショー』感想ツイートまとめ

鳴り響く雄大な祖国の音楽、頻発するアクシデント、宇宙空間に轟くペーソス。 達成感と爽やかさがある、このアニメらしいクライマックスだった。

月とライカと吸血姫:第7話『リコリスの料理ショー』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

真っ赤なソ連味でロマンスとスポ根宇宙開発を入り混ぜた、かなり奇妙なこのアニメ。
前半と後半で主役が入れ替わる構成を取っていて、イリナが宇宙に上がるこの話数で彼女はヒロインの位置に下がって、物語の推進役をレフに手渡すことになる。
宇宙に上るものこそが主役というのは、宇宙開発を主題としたアニメとしては正しいチョイスであり、レフくんが”人類最初の宇宙飛行士”としてロケットに乗り込み、世界を変えていく後半戦も、勿論面白い。

の、だが。
やっぱり”最初”というのは特別で、共和国の宇宙開発秘史、そこに込められた少女と少年決死の思いを見守ってきた視聴者としては、この話数で描かれた栄光なき奮戦、数多のアクシデントとその克服、宇宙を駆ける姫君のロマンティシズムは深く刺さる。
差別と絶望を乗り越えて夢の舞台に立ったイリナちゃんが、一体何を見たのか。
それが上手く表現されて、大変詩的でロマンティックな絵面が連発するのも、なんだかんだポエジーのあったこのアニメらしいクライマックスであった。

沢山の危険と未熟を越えて、大質量で人間一人をぶち上げる。
宇宙開発ドキュメンタリーとしてのプリミティブな面白さは、やっぱりこの話数で最大限発揮されてる感じがある。
この存在し得ない”人類初飛行”があった結果、レフくんの挑戦はあまり波風なく平穏に飛び……降りた後の政治と革命にこそ、彼と彼女のドラマがあったりする。
話が展開する次元が政治方面へと捻れ、国家最高指導者が第3の主人公としてガンガンのし上がっていく後編も、やっぱり好きであるけども。
すごく素直にヒロインが健気で可憐で可愛く、彼女を導き支えた少年の純粋さが眩い、王道ボーイ・ミーツ・ガールとしての面白さは、あの二人きりの雪原で最高潮を迎えていた。
その余波を狭く閉じた場所で満足させず、世間に大きく広げる最終話も良いフィナーレであるし、あの小さな楽園で受け取った言葉を宇宙からのラブレターとして、また英雄の演説としてたった一人、愛する人に届ける終幕も、良いものだけど。
やはりこの話数に、このアニメの良さはギュッと凝縮されている感じがある。

 

輪るピングドラム
ベストエピソード:第18話『だから私のためにいてほしい』

それは聖者にも残酷にも透明にもなりきれず、取り残された場所で必死に生き延びてきた青年…元子供であることをやめられない男が、否応なく行き着いた必然である。 その半端な身じろぎに、僕は凄く人間を感じて、多蕗桂樹という存在が凄く好きなのだ。

輪るピングドラム:第18話『だから私のためにいてほしい』再視聴感想ツイートまとめ - イマワノキワ

10年越しの再視聴であろうが、いいアニメだったので総評は書く。
しかしベストエピソードは、見返したからこそ選出がとても難しく、判断放棄しようかと結構マジで悩んだ。
見返してみると各話数、あるいはシーン同士がかなり面白く有意義な繋がり方をしてて、あんまり面白く思えなかった場面にぐっと深みが増したり、見つけ直した解釈で読み直すと愛おしさが増えたり、再視聴ゆえの面白さがあった。
いかにもな悲劇なヒロインとして物語を牽引する陽毬が、思いの外タフで自分を持っている少女として、かなり早い段階から描かれていたり。
高倉の姓を冠さない真砂子や苹果ちゃんが、彼女が運命を選び取るにあたって非常に強い働きかけをしていたり。
陽毬の再生と決断を促すシスターフッドの網が、その構成員をより強くし前に押し出していく物語としても読めたり。
今回見直して、自分の中で形になったものは幾つもあった。ありがたい。

見返してみると第1話の心地よいハッタリ、話の全部をそこで言っちゃってる感じは凄まじく、24話の長い列車を牽引する先頭車両として、やっぱり凄まじいパワーが有る。
ここと繋がる最終話もまた、圧倒的な画作りのエモさ、問答無用に理解らせてくる詩情が燃え盛り、たいへん強いエピソードだ。
愚かで一途な人間たちが、冷たく孤独な世界の中でどんな答えを見つけるか。
ピングドラムを探すのだ』という問いかけは、正しく作品の中心を射抜いているわけだ。
お話は全て、この強烈な主軸に寄り添うように編み上げられ、相互に連動したり、まーったく繋がってないナンセンスが暴れたりしながら、怒涛の勢いで半年走り切る。

そんなエピソード群の中でこのエピソードを選ぶのは、俺が多蕗が好きだ、ってのも当然在るけど。
この話が最速で、作品全体が辿り着く救いと答えにたどり着く、物語の終着駅を指し示すエピソードだからだ。
多蕗は頭では無価値と理解している復讐に身を投げて、大事にしてきたものを全部踏みにじってなお、己の心と傷に……抱きしめられ救われてきた思い出に向き合う。
その愚かしさ、諦めきれなさは終盤、テロルに落ちていく冠葉を強く照射するわけだが、多蕗が悪徳を抜ける足がかりもまた、クライマックスを既に示唆している。
痛みを恐れない無辜の血。誰かの肖像に反射する、純粋だった過去の自分。
それに目を見開くことで、彼は己が本当に欲しかったものを、自分をここまで導いてくれた光の意味を思い出す。
そうして高い場所から降りてくることで、生身の多蕗はゆりにビンタされ、そのためにゆりは物質化した奇跡……ピングドラムの半分を、雨に濡れる大地に取り落とす。
後に燃えてなくなるそれは、眞悧が差し出すフーディニの魔術のようにまやかしで、真実大事なものはいつでも思い出の中に、誰かと誰かが編み上げる奇跡の間にあるのだ。

ゆりと多蕗という、子供しかいない高倉家からちょっと離れた場所にある”大人”たちは、コミカルで頼もしい顔を第1クールで投げ捨て、薄汚くエロティックで必死な表情をむき出しに、己の望みを暴走させていく。
その歩みがここで一つ、答えにたどり着くことで話の焦点は、”大人”に負けず劣らず因縁に囚われ、亡霊に狙われる子供たちへとフォーカスしていく。
既に終わった物語ではなく、今正に決断する荒波に揉まれ、魂を砕かれていく子どもたちを見ているのはとても辛かったが、同時にこの話数で救済のワクチン接種が果たされていることで、なんとか見守れた感じはある。
そういう構成を周到に整え、予兆に満たして物語を編む技術が確かに、この感性全ぶり投げっぱなしと評価されがちなアニメーションには、ちゃんとあるのだ。

 

 

・プラオレ!〜PRIDE OF ORANGE〜
ベストエピソード:第12話『PRIDE OF ORANGE』

体験教室から始めて、地道にフィジカルを鍛えメンタルを養って、辿り着いたハイレベルな試合。 一つ一つのプレイにここまでの鍛錬がしっかり滲んでいて、プラオレくんの泥臭い所が良い光り方してて、大変良かった。

プラオレ!〜PRIDE OF ORANGE〜:第12話『PRIDE OF ORANGE』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

ベストエピソードを選ぶのは、そのアニメの何が良かったと自分が考えているのか、選ぶ行為でもあると思う。
単純に推しカプに深く切り込んだ有り難さで選ぶなら第9話だし、記号的に思えたキャラの人間的な震えが見れた第3話も、尖らせた人格を丸くするチームと地元の良さが見える第5話も良い。
こんな風にベスト選出に悩むのは、つまりこのアニメが多角的に魅力があり、色んな面白さを有していた証拠なんだと思う。
最初はあんまりのんびりした進め方と、各要素がいまいち馴染みきらないキメラ感に、どうなることかと様子を見たが。
終わってみると癖のない青春スポ根物語と、時に独特の深度で切り込む女と女の感情物語と、日光のいい景色とが入り混じった、独特の魅力あるアニメになっていた。

そんな作品の土台になっているのは、なんといってもホッケーやってる場面が凄くしっかりしていて、可愛いCraft Egg顔を晒しているときよりもむしろ、ごっつい防具着込んでシャーシャー走り回っているときのほうが魅力的に、キャラが映えていたからだ。
なので、一番試合の描写が長く、熱く、強いこの回を選ぶ。
こういう領域で競り合う試合はぶっちゃけ一回しか無いのだが、ここに辿り着くまでにどういう段階を踏んで少女がホッケー選手になっていくかとか、そうなるために必要な対価とかを、笑いと可愛さを交えつつちゃんと積み上げてきたので、この一回で僕は相当に満足した。
見たいものが最終話にちゃんと見れると、やっぱり嬉しい。
二つのチームそれぞれのドラマは勿論熱いのだが、言葉でも説明できる物語の熱量だけでなく、非言語的で魂の奥底を直接揺さぶってくるようなプレイの凄み、ギリギリの鬩ぎ合いが無言の説得力を持つからこそ、描けるものがある。
それは身体と精神の極限を捧げる”スポーツ”を描く上で、絶対にゆるがせにしてほしくない部分であり、何かと奇妙な部分が目立つこの作品がそういう”真ん中”を、凄くちゃんとやり遂げた証明なのだ。

 

 

・ヴィジュアルプリズン
ベストエピソード:第4話『Nemesis』

第1話でトンチキ音楽バトルに興じる優しいヴァンパイアを描いておいて、『そればっかなわけねーだろ。力に溺れたクズも当然いるし、それ駆除するハンターもいるよ!』と告げてくる。 変な構成してんなぁ、このアニメ…(好き)

ヴィジュアルプリズン:第4話『Nemesis』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

イヴが徹頭徹尾エロいとか、超絶伝奇バトルの作画が異様に良いとか、まぁ好きなポイントはたくさんあるのだけども。
この話数をベストに選ぶのは、作品に対して背筋を伸ばすチャンスをくれた話数だからだ。
あの極絶トンチキな第1話にぶん殴られ、ちょっとずつ作品の全容が見えつつもどこかナメた『あー、こういう感じね?』という予断を心地よくぶん殴り、思い込みを追い出して作品自体を見せてくれたエピソード。
それを自分が作品との姿勢を変えることではなく、エピソード自身の仕上がりで教えてくるエピソードが4話というタイミングでしっかり来ているのは、なんだかんだよく計算された構成がこのアニメに、ちゃんとある証明だ。
イレギュラーでトリッキーな力技を的確に刺すには、ベーシックをしっかり抑えてふつうのコトをちゃんとやる技量が大事で、その両輪がしっかり力強い作品なのだと、教えてくれる話数なのもある。

このエピソードで一般堕落ヴァンパイアが現れ倒されることで、ノンキに音楽バトルやってる連中がちゃんと”吸血鬼”であり、怪物としての捻じくれた心身、永遠を生きる中生まれてくる退廃に飲まれ墜ちる宿命に、相当頑張ってあらがっていることが見えてくる。
愛する人は死に絶えるし、赤い月の宿命は厳しく罪人を律するし、真実以外を歌えない切なさが憧れを砕くこともあるが、それでもなお、音楽の可能性を信じて歌い続ける。
そういう生き方を選んだ者たちの本気のステージとして、ヴィジュプリが輝く前提を、このエピソードが作ってくれたありがたさ。
一歩間違えば、弱きものを踏みにじり暴力に溺れた怪物になってしまう危うさを抱えつつ、バンドが音楽を届けるのに必要な人の営みを尊重し、運命に飲み込まれながらも闘うことを諦めない気高さ。
闇の中に光る星のような、ヴァンパイアの貴族的側面にフォーカスした作品なのだということを、殺戮の咎にずっと悩んでいるイヴの姿がよく教えてくれる。
何の苦悩も理不尽も背負わず、しかしジャンルとしてバンドとしてそれを歌い上げる”V”に真実なんて宿るはずはなく、結構苦労して身につまされた上で、耽美で前向きな歌を彼らも歌っているのだと、この話数でわかる。

そういう理解を着火剤にして、作品が音楽に、”吸血鬼”にかなり腰を落として向き合う本気が、より鮮明に見えてきた。
闇狩人の宿命を主題にしたこのエピソードは、ただネタとして”V”を扱う軽薄からは生まれない分厚さがちゃんとあって、現代伝奇としてもしっかりした芳香を放っている所が、また良いところだと思う。
『そこにこそ本気なんだ』と伝えるべく、バトル作画気合い入れまくり、悩めるイヴの流し目をセクシーに描ききった力の使い方とかも、的確でとても良い。
そしてどっかズレたトンチキが元気で、重い話なんだかホッコリ温かい感触もある。
総じて、凄くヴィジュアルプリズンらしいエピソードであり、そんな”らしさ”を力強くこちらに投げ渡してくれるお話なのだ。

 

 

最果てのパラディン
ベストエピソード:第10話『武勲の輝き』

ワイバーン素手で絞め殺す英雄詩的な行為を、どう人間は加工して処理可能なものにするか。 そこではどんな思惑が絡み、利と信が渦を巻くか。 そして儀礼は、その過程においてどういう仕事を果たすか。

最果てのパラディン:第10話『武勲の輝き』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

大変面白いアニメだった。
冒頭三話、感想を控えて様子を見たことからも判るように、(大変に失礼ながら)結構な警戒をしながら近づいたアニメーションには、とても懐かしい香りがあった。
それは冒険の描写の随所に漂うTRPGテイストであったり、どっしりと作り込まれた本格ファンタジーの香りであったり、何より困難と克服を物語のエンジンにしっかり据えた、オーソドックスな物語運びにこそ宿っている。
ウィルは特別な出自と異様な環境によって育まれ、蓄えた力をどう人間の世界で使うのかを悩み学びながら、成功の階段を駆け上がっていく。
そこに不自然な物語敵成り行きはとても少なく、転生者としての後悔、アンデッドと化してなお死なない英雄の遺志を受け継いで、彼自身が戦い道を選んでいく確かな手応えがあった。
話の最後に、チート主人公特有の超越性にしっかり切り込んで、結局一人間でしか無い己の身の丈を学び、かけがえのない友情と連帯によってさらなる未知を切り開く話運びには、自作・自ジャンルへの冷静な批評眼も垣間見えた。
己が身を置く物語がどのような地点に足場を置いて、そこにはどんな特徴と問題が在るのか。
それを自覚しつつ、より良く、より己らしく物語ろうとする意思が滲む物語が、僕は好きなのだ。

この俯瞰で作品を見れる目の良さは、『三人のアンデッドが、廃墟都市で赤子を育てる』という魅力的なワンアイデアから一歩進んだ新章に置いて、更に冴えた感じがある。
人間社会の常識から隔絶され(たが故に、超越的な力を獲得している)ウィルが名前と教えを引き継ぎ漕ぎ出した場所は、人倫が常に試されるフロントライン。
そこにおいて父母から引き継ぎ神に誓った『よく生きよく死ぬ』という人道を通すには、何をしたら良いのか。
主人公が挑むべき関門をしっかり魅力的に用意し、厳しい試しの中でかけがえのない友に出会わせ、不屈の意志で道を切り拓いていく。
生存すら困難な辺境の現状と、そこに人間的生活の地歩を築いていく手応えは、第一章に負けず劣らず楽しいものだった。
閉鎖され、死人しかいない伝説の領域での神殺しを経て、人間が生きていればこその難しさ、面白さに飛び込んでいく変化は、作品の面白さをぐっと奥深く、横幅広くしていたと思う。
章を改めるにあたり、こういう新しい面白さをしっかり提出できていたのは原作の強さであり、それをアニメに落とし込む制作陣の巧さでもあったろう。

廃都市での幼年期、修行時代にどっしりと時間を使って、英雄が如何にしてその人品を養っていくか、何が彼の物語を支えるかをしっかりと見せていたことが、後に広い世界に漕ぎ出していく時に役立つ。
あれだけ特別な場所で、とても当たり前で大切な思いに包まれながら育ったのならば、なるほど何事か為しうるだろう。
否、是非に為して欲しい。
そういう期待感が主人公に宿っているのは、のし上がりの面白さを大きな推進力にする作品にとって、大変大事なことであった。

それが一つの頂点を迎えるこのお話では、神話の領域にいたのではけしてぶつかることのない、人の営みが色濃く描かれる。
為政者の計算、人に惚れ込む心意気。
英雄的膂力で守ったものの価値と、それが人の世に繋がるために必要なもの。
堅苦しき格式ばった”典礼”なるものが、どんな風に社会的な作用を成し遂げ、人が生きる上で大事なものを打ち立てるのかを、そこに至るまでの過程含めてしっかりと描いていた。

この話は何かと形骸化し、その真意を見損なっている様々な価値を、”ここではないどこか”に託しながら描きなおしているように思う。
何かと命の意味が希薄になりがちな現代から転生してきた少年は、だからこそのよく生き良く死に直す意思を新たに見定めて、人間の条件が問われる場所へと進んでいく。
殺さねば生き延びれぬ理不尽と、それに飲まれぬために作られる都市、文化、社会制度。
その尊さも、白紙の主人公だからこそよく彫り直せた感じがある。
そんな力強い再話の面白さ……物語に普遍に宿り、幾度も問い直す意味がある価値への強いアプローチが一番色濃く出ているのは、チートバトルが無いこの回であったように思う。
騎士叙勲という儀礼にどれだけの戦いと思いが宿り、よく整えられた形式に何が宿るのか。
あって当然に思われがちな人間社会の器が、実は相当な努力と知恵によって形成され、維持され、確保されている現実を、ファンタジックな照明によって強く照らす。
”ここではないどこか”を描くことによって”他でもないここ”に繋がる強い物語を描ききれる、ファンタジーの力。
それが確かに、様々な場所に宿っていたアニメであった。面白かったです。


・takt op.Destiny
ベストエピソード:第6話『朝陽-Rooster-』

そんな感じの1クールの旅路の折り返しは、D2出てこない、武器を抜かないエピソードである。 大変良かった。 お話を咀嚼する時、どの味わいを気に入るかは人によると思うのだが、僕はやっぱりこのお話に宿るアメリカの多彩な景色、生活に滲む土の味が好きだ。

takt op.Destiny:第6話『朝陽-Rooster-』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

やっぱ三人が、アメリカの色んな場所をガヤガヤ騒ぎながら進んで、人間に大事なもの、音楽に必要なものを見つけていく旅路が面白かったなと、終わってみると思う。
尊敬する父は謀略で殺され、人を幸せにするべき音楽は本来の形を奪われ、愛した少女もまた残酷に簒奪されて、人生に良いこと一個もないタクトくんは捻くれてはいるものの心の強い子で、閉ざした窓の外側に満ちているもの、誰かが優しく差し出してくれるものの意味をしっかり聞き届けて、自分を未来に押し出していった。
全てを無残に奪われた所に、自分なり一個一個音符を探していく彼の歩みは健気でチャーミングで、あんま素直に真っすぐは進まないところも良かった。
ヒネたマエストロに歩調を合わせるように、”運命”もまた大したポンコツであり、彼女なり必死に人間がどのように生きるのか、自分がどんな存在なのかを探り当てて、タクトに向き合おうとする。
NYを目指す歩みは再生の物語であり、発見の物語として瑞々しく、生き生きと輝いていた。

そんな彼らが一切バトルせず、ウロウロ街を彷徨くこのエピソードが、僕は一番好きだ。
タクトと運命&お姉ちゃんの歩みが交わらず、それぞれ街に住まうフツーの人たちの傷に触れて何かを学ぶ構成が、風通しが良くていい。
広大なアメリカの風景を鮮烈に描くこのお話は、特別で過酷な運命に選ばれた主役だけではなく、同じくそれぞれ過酷な人生を背負っている普通の人達のあり方を、横幅広く大事にしてくれた。
絶望に閉ざされ希望が崩れ去ってなお、人はそれぞれの生活と音楽を諦められないものであるし、一見音楽に繋がっていないような当たり前の喜びと悲しみこそが、五線譜に命を宿していく。
そういう視線が作中に満ちて、人間が生きるために有史以来しがみついてきた普遍的な文化である”音楽”を描く上で、凄く強い土台になっていたと思う。

ここで白紙の五線譜を託されることで、タクトは絶望に満ちた世界をなお生き抜く決意、そこに自分だけの音楽を刻む勇気を確固たるものにするわけだが、それを手渡したのは特別なヒロインではない。
かつて音楽に心躍り、今諦めのただ中にいるただのオッサンが手渡したものが、作中相当に大事な……それこそラスボスが世界に押し付ける絶望を覆す武器になってる所が、やっぱ好きなのだ。
”運命”もまたマエストロがいない所で、人間にとって……つまりは人間でしか無いムジカートにとって大事なものを学び取る。
そんな風に様々なものと関わり合いながら、広がっていくもの、繋がるもの、託されるもの。
そういうモノがよく描けていたから、僕はこのアニメが好きだ。

 

・トロピカル〜ジュ! プリキュア
ベストエピソード:第37話『人魚の記憶! 海のリングを取り戻せ!』

今を全力で生きて、未来を掴む。 そんなトロピカった生き方の根っこに、名前すら聞けなかった後悔、既に出会っていた運命がぶっ刺さってるのは、ロマンスとしか言いようがねぇ…。

トロピカル〜ジュ! プリキュア:第37話『人魚の記憶! 海のリングを取り戻せ!』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

何しろいいアニメであったし、いいプリキュアでもあったので、優れた話数は多く存在する。
それを認めた上で(個別の話数として心に残ったものは別に選出もするとして)、”ベスト”となると個人的にはこの話数である。
最終1クールの始まりを継げるこのエピソードで仕上げた土台の上に、トロピカる部メンバー個別の決着、戦いの裏側にあった因縁と新しい結末がしっかり乗ったことが、ただただ明るくノンキな物語としてトロプリが終わらない決定打であったと思う。

この話数で今まで庇護され追いかけてきたグランオーシャンの現実(あるいは真実)を知ったこと、それがまなつとの楽しい日々を終わらせる事実に直面したことで、ローラは急速に大人の階段を駆け上がっていく。
自分の望んだ世界を掴み取り、固定された因習を変化させうる力を持った……持たなければ何もかもが忘却に飲み込まれてしまう当事者。
ローラは憧れの女王様のいうまま育てば、理想の自分になれる可能性を封じられ、自分の頭で自分の未来を選び取る必要に迫られていく。
そんな彼女がどんな策略で現実と戦い、どんな未来を掴み取ったかは、大団円たる最終話を見れば分かるが、あの最高の結末へと繋がるための厳しい現実認識は、やはりこの話数で形作られている。

そんな”変化する主人公”たるローラに強い影響を投げかけ、ここまで積極的な働きかけと靭やかな他者受容で作品を安定させてきた”変化しない”主人公、夏海まなつ。
曇りなき太陽に思える彼女が、幼い頃既に挫折を知り、トロピかった人生を目指した結果として今の彼女になったのだと、分かるエピソードでもある。
この一点の陰りが、僕がまなつを好きになる決定打になったと分かるのも、最終回を見届けた今だからこそ、だ。
正直陰りがなさすぎ欠点がなさすぎ(だと感じられないよう、非常に巧妙におバカ劣等生の外装を被せられて入るけども、物語が進むべき方向性、選び取るべき倫理の実現において、まなつは本当にミスの少ない主役であった)な完璧さが、ツルンと引っ掛かりのない人造性を宿しすらしてたが、まなつのオリジンがここで描かれたことで、全てが繋がった感覚を受け取れた。
何も間違えず生まれつき答えを知っている無謬の存在ではなく、当たり前にすごく大事なものを取り逃し、だからこそ二度と人生に負けないことを誓った小さな子供だからこそ、まなつの光は柔らかく悩めるものを包み、その生き方を変えていく。
『名前を聞けなかった』という後悔あればこそ、名前に集約される相手の個性、願望や祈りをしっかり聞き遂げて、理想を押し付けるのではなくその後押しをするサポーター気質が、まなつの行動理念になった。
あまりに他人を尊重しすぎる結果、”自分”が薄めだという特徴が、第34話で一足早く主題に取り上げられていたのもあって、終盤グッとキャラが分かり、好きになる主役だったなぁ,という感慨がある。

加えて、あえて宿命の戦いを主軸に持ってこず、ライトで明るいお話づくりを心がけてきたトロプリが終わり切るために必要な重さを、キュアオアシスと魔女様の過去を物語の中心に持ってくることで宿すエピソードでもある。
ここで仕込んだ爆弾は第44話で、バトラーという追加燃料を継ぎ足して見事に炸裂し、まなつ達が踏み込まず描いてこなかった暗さや重たさを、作品に引き込んだ。
どうしようもなく動かないものは世界に確かにあるが、眩しい未来へ突き進む”今”の少女たちは力強くそれを切り開いて、かつて悲劇に終わるしかなかった物語に、別の結末を呼び込むことが出来る。
ここで魔女たちの哀しみに目を向けたことが、過去の繰り返しではなくよりよい未来へとどう進んでいくか、ローラが必死に考え答えをもぎ取った結末にも、深く残響していると思う。
そこまで深く直接的な縁はなくとも、まなつもローラも敵対した怪物がどんな願いを抱え、何を夢見ていたかをしっかり見れる子どもであった。
お気楽で満たされた日々を過ごしている自分に、過去の悲劇は関係ない。
そんな非・プリキュア的態度を我らが主役は当然取らず、世界を滅ぼす呪いにまで拡大してしまった誰かの哀しみを自分の内側に引き受け、あの時出なかった答えを生者として、亡霊に手渡すこととなる。

身の回り五メートルの小さく、手応えのある青春物語を駆け抜けながら、同時にとても広くて大きなものを見据える。
そんな欲張りな物語をトロプリが語りきれたのは、やっぱ最終コーナー突入を継げるこの話数の仕上がりが、とても良かったからだと思う。
そしてそんな話を生み出せたのは、要所要所で生真面目に、大きな世界の重たい問題を見据えて話の骨格を作り、小さな女の子たちの小さな悩みが実は、海のように広く多彩な人生に確かにつながっていると描く下準備を、しっかりしてきたからだと思う。
底抜けに明るく楽しい物語は、非常に生真面目な知性に支えられている。
そういう創作の魔法、一つの真理を確認する上でも、とても良い話数だった。

 

 

鬼滅の刃 遊郭
ベストエピソード:第10話『絶対諦めない』

いやー…凄かったね。

鬼滅の刃 遊郭編:第10話『絶対諦めない』感想ツイートまとめ - イマワノキワ

という感想が一番素直に出る、力こぶの浮き出たエピソードを選ぶのが、一番アニメ”鬼滅の刃”に似合った選出なのかな、という気持ちが一つ。
もう一つは確かに凄いんだけども凄さがド派手アクションよりかは分かりにくい、妓夫太郎と炭治郎の対話シーンが見終わってから時を過ぎるごとに、じわじわと染みるからである。
完全に好みで選ぶと、”遊郭”という場所の絢爛と生活が異様なクオリティで描かれている、第4話あたりが候補に入るが、それがあくまで側道であり、本筋から考えると余計な力みであると判断できる程度の脳みそは、一応僕にも残っている。
でもあのお花の場面は、アニメ史上に残る”活け花”であったと思う。

最終話で首が落ち過去が思い出されて、妓夫太郎と梅ちゃんが竈門兄妹のシャドウであったことは鮮明になるわけだが、その前段階……決定的に勝敗を分かった、鬼に不似合いな情の滲む語りかけの場面に、妓夫太郎の思いは既に滲んでいたように思う。
鏡合わせに妹を思う、痣の醜い”兄”にどうやったって修羅道の果て、思わず声をかけて一緒に鬼になって欲しい寂しさが、傍若無人の悪鬼にはあったのだ。
それが結局彼の首を落とし、鬼の成れ果てを刃でせき止めてもらう道にも繋がっていくわけだが、弱く醜く情けなく、罵倒されビンタされ傷つけられてなお、妹を必死に守ることだけには嘘がない炭治郎に、自分の姿を寄せる共感能力が、あの場面では花開く。
それは結局指を折り、罵倒し嬲る鬼のコミュニケーションにしかならないんだけども、妓夫太郎は炭治郎に話を聞いて欲しかったし、自分の気持ちを分かって欲しかった。
鬼になろうと、そういう寂しさだけは忘却の中、微かに匂うのだ。

なにかと苛烈で残酷で極端な話なので、主役サイドが過剰な正しさで”人間的”な弱さを持つ鬼を追い込んでいるとも見れる作品なのだが、その過酷な正しさを遠ざけ、鬼になるしかなかった元人間の憐れに心を寄せるべく、炭治郎は情の深い……深すぎて非人間的ですらある主役として造形されている。
そんな彼だからこそ、妓夫太郎にかすかに残った情を暖め、過酷な戦いの場では”勝機”になるしかない……別の場所で発露したなら、膝突き合わせてそれぞれの苦しさ、愛おしさを語り合うきっかけになるかもしれないものを、手繰り寄せも出来たのだろう。
やはり自分は、業の果てに自分を縫い止めてしまってどこにもいけない亡者を祓い、引導を渡してやる悪霊祓いの物語として鬼滅を見てて、それを成し遂げうる高徳を炭治郎に望んでいるんだと思う。

苛烈極まる戦いの中、殺し殺されしか救いにならねぇ鬼=元人間との、刃を通じ血を潤滑油にしたコミュニケーションの中で、時に命を奪う嘘のない対話として成立するには、その過酷な”現場”であるバトルシーンは、やっぱり迫力があったほうが良くて。
過剰な力みと気合が一番生きる場面は、やっぱりド派手な高速バトルなのだろうなぁと、しみじみ理解らされる意味でも、このお話はアニメ”鬼滅の刃”の真髄を伝えるエピソードと言えよう。
やっぱあの強さで描かれてしまうと、納得するしか無い部分が確かにある。いいアニメでした。