イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

山茶花、別れを告げて散る -2022年1月期アニメ 総評&ベストエピソード-

 

・はじめに
この記事は、2022年1~3月期に僕が見たアニメ、見終えたアニメを総論し、ベストエピソードを選出していく記事です。
各話で感想を書いていくと、どうしてもトータルどうだったかを書き記す場所がないし、あえて『最高の一話』を選ぶことで、作品に僕が感じた共鳴とかを浮き彫りにできるかな、と思い、やってみることにしました。
作品が最終話を迎えるたびに、ここに感想が増えていきますので、よろしくご確認を。


からかい上手の高木さん3
 ベストエピソード:第12話『3月14日』

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優れたアニメのベスト選出は毎回悩むが、高木さん三期も当然ながら選ぶのが難しい。
三話ごとの勝負回……特に一本繋ぎの第6話、第9話の仕上がりの凄まじさ、その回ごとに切り取るものの多彩さは素晴らしかったし、短編連作という形式を生かして様々な変化球をしっかりストライクゾーンに入れてくる話数も、大変印象深い。
ずっと同じものが続いていくからこそ、その”いつもの”をどう変化させて届けるかに気を配り、面白さを常に更新していく試みが、志高くありがたかった。
ゲストスタッフの個性を活かし、それぞれの才能が宿った”高木さん”を見れるエピソードも、また大変良かった。

その上でこの話数を選ぶのは、三期がずっと真ん中に据えてきた高木さんの”好き”を堂々西片が受け止め、対等な土俵に立つ所まで主役たちを、物語を引っ張り上げているからだ。
永遠に続く幼年期の”からかい”で成り立つこのお話は、西片が男となり、大人となり、誠実に他者の思いと自分の気持ちに向き合える人間になってしまえば、変質し終わっていくしか無い。
それでもなお、堂々と西片を高みに巣立たせたのは、自分たちが作り上げ付き合ってきた創作に生きる少年少女が、止まることなく流れる時の中を、確かに生きている事実を尊重した決断だと思う。
僕は変化なく永遠に続いていく物語(正確に言えば、それを許容してしまう人々の精神的怠惰、腐敗への引力)ってのが大嫌いなので、明確に”終わり”への意志を匂わせ、それが寂しくも怖くも……確かにあるが、しかしそれでも飛び込むだけの価値がある輝きなのだと描ききった三期は、大変立派な物語だったと思う。

そしてこの巣立ちの先には、まだ先がある。
未だ幼い自分からは差し出せないと、誠実に言葉にしなかった”好き”を西片が掴み、高木さんが受け取るかもしれない劇場版に向けて、期待をしっかりと高める作りであったことも、この最終話の評価に繋がっている。
こういう商業的/作品的オーダーをしっかり踏まえた上で、描くべきものを堂々高く掲げて描ききれる所に、シンエイ動画という創作集団の地力を感じることも出来た。
映画、とても楽しみです。

 

 

・明日ちゃんのセーラー服
ベストエピソード:第7話『聴かせてください』

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これまた大変な力作で選出には悩むが、非常にシンプルに『一番強かった』という理由で、この話数を推したい。
各話ごとに実力派スタッフを配置し、結構話数ごとに作家性が滲んだ作品であったと思うけども、このエピソードはコンテ演出を担当したMoaang氏の迸る才気が随所に宿り、大変力強い仕上がりとなった。
圧倒的なハイクオリティで殴りつけて、特別な女の子が青春のとびらを全力で開けまくる青春ファンタジーに、説得力を与えていく。
クセとパワーが強い原作をどう”アニメ”にしていくか、制作陣が選び取った戦術が最も映える話数だ、とも言える。

メディアが異なる以上、”原作通り”であるためには様々に手を加え頭を捻り、原作にはない要素を付け足してアニメを仕上げていくしか無い。
順番を入れ替え場面を足し、16人全員のキャラを立てた上で一丸勝負の体育祭がクライマックスに相応しい熱を得れるよう、精妙に組み立てられたシリーズ構成。
その力は大変大きく、今まさに連載でやってる所に切り込むこの蛇森&戸鹿野エピソードの説得力、感動、情感も、そこに強く支えられている。
同時に絵の力…アニメであるが故の強みたる”動く絵”の力も大変に大きく、蛇森の身悶え一つ一つが伝わるような演奏シーンの魅力、そんな彼女に道を示す戸鹿野の存在感は、絵をどう描きどう動かすか、何を配置し何を魅せるかという、センスと思考の結晶体として見事に具体化されていた。

明日ちゃんの特別な引力が作品世界を駆動させ、加速させ、支えていることは絶対の事実で、その上で彼女と触れ合う少女一人ひとりが、それぞれの世界と弱さを持ち、ふれあいの中でお互い響き合って、変わっていける。
そんな変化への希望と個別の尊厳が、凡人だからこそ苦悩し、明日小路と向き合い戸鹿野舞衣に支えられて凡人を超えていく蛇森のギターを通じて、大変鮮烈に描かれるエピソードだ。

ファッションでしか無かった音楽が少女をどう変えて、Fコードを抑えるのはどう大変で……。
そういう身動ぎが丁寧に、体温を宿してしっかり伝わる『音楽のお話』としても、凄く良い仕上がりなのも嬉しい。
全エピソード大変に眩く、伸びていく新芽の如き活力に溢れたアニメであったけども、その鮮烈を最もよく表すエピソードは、この話数だと思う。


・その着せ替え人形は恋をする
ベストエピソード:第8話『逆光、オススメです』

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ベスト選出には、大変に悩んだ。
三連続同じ書き出しで芸がないと思うが、事実なのでしょうがない。
22年1月期は力こぶの傑作が多く、見ごたえのあるシーズンであった。その重さに潰されて対応しきれてない部分がまだまだ残っているのが、なんとも申し訳ないところであるが……。
弱音はさておき、青年誌的エロティックアピールと少女漫画的なトキメキ胸キュンLOVEを、Clover Worksらしさが溢れる細い描線で丁寧に融合させ、ドキドキ感と上品さを高いレベルで同居させたこの作品。
そういうキャッチーな魅力にとどまらず、別の世界に住んでいた少年と少女が出会い、”好き”で繋がり変わっていく思春期の物語として、心地よい爽やかさと豊かな広がりをしっかり宿して描かれてきた。
上2つの作品にも通じるが、やはり児童の健やかで多彩な成長を優しく見守るジュブナイルの視座があってくれることが、僕が作品を好きになり評価できる大事な足場であり、このお話にもそういう足場はしっかり宿っていた。

そういう意味では、運命を変えてしまう特別な出会いを鮮烈に描き、グッと作品世界に視聴者を捕まえた第一話を、ベストに選ぶべきか大変に悩んだ。
あそこで描かれた出会いの眩しさは、そのまま作中五条くんと海夢ちゃんを未来に突き動かす炸裂であり、物語が否応なく始まってしまう特異点を力強く、爽やかに、美しく仕上げれたことが、そこから始まるすべての物語の土台に在ったと思う。
この第8話もそんなベースの上に乗っかる、美しい建造物である。

特に話は始まらず進まず、二人はただただ江ノ島に行って波を見つめる。
それが良かった。
作中扱われる”写真”という表現の特性を、美麗に噛み砕いてアニメに落とし込む演出筋力の高さも素晴らしかったが、青春のポートレートとして焦りなく静かに、二人の心と表情を切り取っていく静かな落ち着きが、非常に丁寧にゆったり青春を追いかけていく物語全体としっかり噛み合っていて、とても”らしく”感じた。

恋心が生まれるまでの歩み、あるいは魅力的な肉体に情欲が燃える瞬間。
青春がどんな呼吸をしているのか見落とさない優れた眼と、ゆっくり関係と人格を育んでいくことをキャラクターに許す手付きがとても優しくて、僕はこのアニメを好きになったのだと思う。
静かな海に溶けていく幸福を、独特な色合いの緑と白で縁取ったこのスケッチは、そんな魅力を一番力強く、形にしてくれたエピソードだと思っている。

 

 

・プリンセスコネクト!Re:Dive Season 2
ベストエピソード:第12話『もう一度、キミとつながる物語』

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帰還の挨拶にして1話にぎっしり”プリコネ”をまとめた第1話、キャルちゃんの抱える陰りを的確に演出した第2話、世界の秘密に触れつつ少女の小さな矜持を活写した第3話、怪物めいたバトル作画が暴れた第4話、日常要素を最高にエモくまとめ上げた第8話、抗う者たちの矜持を見事に描いた第11話。
全部ベスト候補であるが、この話を選ぶのはこれが最終回だから……ではない。
無論長い冒険の終わりとして、大変良くまとめ上げすべての要素を燃やし尽くしたフィナーレとしての仕上がりは大変良いが、”ベスト”な理由はシンプルで、ペコリーヌが母の胸で泣けたから、である。

外見から受け取るキャラ記号としても、作中での立ち位置と立ち回りとしても、ペコリーヌはもっと影のない、とにかく明るいコメディリリーフとして描かれるかな、と思っていた。
しかし蓋を開けてみれば全てを奪われてなお努めて明るく振る舞い、寂しさに傷ついた子猫を何かと抱きしめ食事を与え、人生は生きるに値する場所なのだと全力全開で証明し続ける、気高い人として描かれた。
一期最終話、また二期の随所でその震えを丁寧に切り取られ、ただ能天気に輝いている太陽ではないと描いたアニメの筆は、気高い強がりが何より好きな自分としては、作品に前のめりになれるとても大事な要素だった。

『どー考えても心の”芯”をえぐられとるだろ……一生離れられんだろ……』と見てて思ったキャルちゃんが、ペコリーヌが必死に届けてくれたものの意味をしっかり受け取って、我執に噛みつきすぎず温もりに素直になっていったところとかも、大変に好きであるが。
”美食殿”の”姉”として、素直になれない”妹”を優しく抱きとめ、人の温もりを教えてきたペコリーヌも実は家族の愛に飢え、必死に手を伸ばしていたと書き続けてきた物語だからこそ、この最終話でずっと欲しかったものを取り戻し、気高くまとっていた笑顔の鎧を外してただの子供として泣きじゃくれる瞬間を、ペコリーヌに戻してあげたのが嬉しかった。
本当に見たかったものを見せてもらえて、ベストに選ばないのも不誠実であろう。

加えてマイ・ボーイであるユウキくんが、何もかんも忘れちゃったバブちゃんから始まって色んなもの食って、色んな人と出逢って、背負った宿命に恥じない決意を抱えて何を成し遂げ得たのか、しっかり書ききってくれる回でもある。
”一周目”で勝てず絆も守れなかった少年が、今度のReDiveではギルドの仲間に必死に手を伸ばし、かつてリセットされた日常に一緒に戻るべく叫ぶ姿には、宿命を超える説得力があり、同じ周回者として諦めに飲まれたラスボスを超えていく主役の説得力が、確かに宿っていた。
こういう象徴的対比を具体的なキャラと物語に折り込みつつ、王道ファンタジーが駆動する骨格兼エンジンとして見事に機能させれたのは、金崎監督がほぼ全話の脚本を書ききったことが、一貫性として生きてんのかなー、と思ったりもするが。
その最大限の発露としても、今まで描いてきたものが一気に凝集するこの最終話、大変良かった。
面白かったです。

 

 

・王様ランキング
ベストエピソード:第7話『王子の弟子入り』

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王様ランキングが終わった。
自分なり結構前のめりに、急転直下していく物語を受け取り、噛み砕きながら楽しめる2クールで、大変に面白かった。
おとぎ話の類型を上手く活用して、素朴な描画と思わせて『あー、こういう感じね!?』と視聴者の余談を誘った上で、キャラクター描写でも話の展開でも心地よく裏切り、スピーディーに物語を展開させていく。
やはり死刑囚が脱獄し、話が故国に戻っていく前段階のゴロゴロがいっとう印象的で、その手早い切れ味で一気に引き込まれた感じが強い。

その中でもこの第7話は、ここまで辛いことばかりだったボッジがどのようにして彼独自の強みを手に入れ、残酷な世界で何が真実なのかを僕に示してくれる、要となる話数だ。
僕は結構お話の進み方、曲がり方を早い段階で推測、納得しながらフィクションを食べてしまうタイプの人間なので、こういう作品の輪郭がよく見えてくる話数というのはありがたいし、注目もする。
デスパーさんの愉快なキャラクター性、彼の優しさと知恵を通じて描かれる作品の見取り図は、『なるほど、信じて良いのだな』と両足を乗せるに足りる鮮明さで、ここを足場にさらに前のめりになっていった感じである。

ここを起点に獲得されたボッジの強さが、憧れていた父を超え、強さの鎖を解いてあげる結末を描く第21話も、この話数と同じ御所園コンテである。
画作りの大冒険、様々なチャレンジがドラマのうねりを加速させる噛み合いと合わせて、こちらもベストに選出しておかしくない、大変優れた話数だ。
ただ自分の好みとして、未だ作品の全容が見えきらないタイミングで、差し出されてる材料から一個ずつ自分なり、お話を分かっていく……分かろうとする努力を重ねる試みが僕は凄く好きだ。
そんな僕の大事な手遊びに対し、凄く誠実でよく整った物語を手渡して、この後も物語を見続ける手がかりを与えてくれたこの話数は、自分の中で凄く特別な価値を持っている。
綺羅星のような凄さのある話数は他にもあるが、自分としてはこの話数がベストである。

 

 

平家物語
ベストエピソード:第2話『娑婆の栄華は夢のゆめ』

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皆さんご存知かと思うが、まぁ全話ベストは前提の作品である。
メチャクチャシンプルに、アニメとしての画作り、音作り、動きのタイミングと芝居の付け方が圧倒的に気持ちが良く、そういう映像としての快楽に自分が溺れず制御し切る賢さも備えていて、見ごたえと頼もしさが随所に宿っていた。
山田監督のセンスが全体をうまくまとめつつ、各話担当スタッフの個性が色濃く出て、特に第5話のモコちゃんはセンスバリバリ大暴れで、『SALU……未来は明るい……』と多い知らされた。
こんだけ才能が好き勝手に暴れても、作品全体を貫通するムードが一定であり、悲惨な運命に翻弄されるキャラクターをべっとり憐れむことも、冷たく突き放すこともない適切な距離感で向き合い続けたのは、やはり総頭領たる監督の力が大なのだと思う。
ドライな質感を保ちながらも、乱世を必死に駆け抜ける人間一人一人の強さと弱さを慈しみ、独特のヒューマニズムとユーモアでお話を包み込めたことが、古典に現在に通じる息吹を与え直した、平家ルネサンスの魔法なのだろう。

そういう視線を最初に、鮮明に感じれたのがこの話数で、第2話という段階でこういう話を持ってくること自体が、残りの物語を信頼して見届ける大きな足場に為った感じはある。
このお話で示される女達の連帯と、祈り許す心に照らされた救いは、最終話で徳子がたどり着く境涯……お話全体の総まとめに強く通じるものである。
祇王の在り方はこの先、徳子と平家がたどり着く境涯の予言であり、山ほど悲しいことがありながらも人生を恨むこと無く、雨上がりの竹林の爽やかさでもって、輝く場所にたどり着ける。
それを見届けるびわの青い瞳も、異能なる呪いとなるだけではなく、語り部として常人には知りえぬことを知り、間近に見届けた臨場感でもって伝えうる資格として機能することを、巧く教えもする。

第1話、かなり手早く情勢が転がりつつも、キャラクターとドラマの輪郭が鮮明にわかる仕上がりの良さ、背筋の強さも大変に素晴らしくて、その上でこの話数があるからこそ、特別に染みもするが。
とまれ、ここで描かれたかすかな希望と祈りが、陰惨とも取れる物語に長く長く伸びているからこそ、けしてハッピーエンドではない物語を見届けた時、確かな充実とエールを感じる事ができるのだと思う。
そういう物語として、今”平家物語”を語り直せたことには、非常に大きな意味が在ると感じている。

 

ヴァニタスの手記
ベストエピソード:第2話『Noé―花の都にて―』

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分割2クールとして合間をはさみつつ、楽しく見れた作品であった。
第1話のスチームパンクな雰囲気に引かれつつも、まだ構えた部分が自分の中にあったのだが、この第2話の美しいパリで綺麗にほぐされて、『ああ、体重を預けていいアニメなんだな』と思えた感じがある。
自分の中のベスト選びは、やっぱり自分の心に作品がしっかり突き刺さった話数を選ぶべきだと思っているし、この第2話はそういう話である。

第1話のハードなアクション、禍名を巡る過酷な運命を巧く伝える話運びから緊張感が緩んで、青年たちが日常を過ごすバリの美しさ、二人の関係の善さが良く伝わってくる。
ここを作品を見る足場と選んだことは、つまり僕がノエとヴァニタスの不思議な日常を楽しみ、この段階では伏せられたものがいつか、しっかりと暴かれる事を……日常ミステリとしての味わいを、このアニメに求めていたことを意味する。

そう、ミステリ。
謎の隠蔽と開示がかなり巧くて、2クールあまり弛む事無くお話が進んでいったなぁと思わされる展開が、随所にある作品でもあった。
どの札を伏せてどのタイミングで暴くか、というのはストーリーテリングの基本であり、また妙味でもあると思うが、謎めいたヴァニタスの心魂が顕になる最終回を見終えたタイミングだと、序章での謎の魅せ方、興味の引っ張り方は大変に上手かったし、アニメの範囲で綺麗にそれに答えたのだな、と納得もできる。
こういう物語構造体としての収まりの良さが、一話一話の画作りレベルでもしっかりしてて、意図を感じるレイアウトと色気ある表情で楽しませてくれたのも、大変良かった。

思い返すと色々強いところのある貪欲な作品で、そのバラエティの豊かさがドラマの奥行き、作品世界の面白さにもしっかり絡んでいて、トータルの完成度はとても高かったと思う。
そしてその巧さに甘えない、『これを書ききらないと!』という焦燥に駆られた熱のある場面も多々あって、そこも良かった。
やはりパリそれ自体へのフェティシズムが色濃く、街を書く情熱をこの話数で感じられたことが、作品を楽しく見る良い火種に為ったと思う。
そういうものを誠実に手渡してくれる作品は、やはり良いアニメだと思う。

 

・東京24区
ベストエピソード:第2話『セピア・グラフィティ』

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勘違いして欲しくないのは、『この話数が”マシ”だからベストに選ぶ』って話じゃないことだ。
東京24区は現代的なテーマを、24区という場所を仮想することでフィクショナルな手付きで解体・再構築して、視聴者に届ける野心を持った作品だったけど、正直その試みが上手く行っていたとは思わない。
現実的で複雑で難解な問題点を多数扱うには、それが視聴者に刺さる形にシェイプしきれていなかったし、群像劇を狙ってか人数が多すぎ作品の焦点がぼやけることにもなったし、シビアな問題の描き方に対して解決策として提示されるものが、エモーションと”私”というフィクショナルな強引さに満ちすぎていて、SF的な装置やら”24区”という仮想の場を用意した意味やらも、逆行気味にボヤケてしまった感じはある。
眼高手低……というと厳しすぎるが、現代的なテーマを何故フィクションで扱うのか、その時注意して削り出すべきポイントは何処にあるのかを、的確に狙いきれなかった感じはある。

そのズレ方の最たるものとして、シュウタが帰還するべき手触りのある”今”が、三丁目の夕日的ノスタルジーに満ち溢れた人情商店街な所があげられると思う。
そこに”今”の説得力、ノスタルジーを超えたヴィヴィッドな活力を感じて配置したのだとしたら、作品が背景に置き内側に取り込んだ現在的問題点を見据える視力はボケてるとしか言いようがないし、もっと説得力のある『帰るべき今、足を置くべき現実』の象徴化は出来たと思う。
あまりに複雑で解決策がなく、大半の人が見据えたくない現実的問題をわざわざお話で扱う時、このホームタウンに代表される洗練されていない……あるいは十分以上にダサくないダサさがどれだけ鈍らだったかは、終わってみると良く分かる。

同時にその泥臭さがある程度以上、運命の渦中に巻き込まれた青年たちに体温を宿しているのも事実で、そういう”私”の書き方が一番冴えた瞬間として、このお話を選ぶ。
このアニメは、この話数で示された死せるアスミへの絶対的信頼、それを維持することで死を認めず幼い時代に浮遊し続けているシュウタの現状を、12話使って前に進める物語でもあった。
そこにマリの複雑な視線がどう絡んでいるかを、この段階で鮮明に明示できたこと……第1話で示したポップな色彩だけが作品のカラーではないと伝えれたことが、ぶっちゃけいろいろ向き合い方に迷った1クールの視聴の中で、確かな柱になってくれた。
コンパクトな人間的情景を描く時の冴えと、それが広い領分に拡大してデカく話が転がる時のぎこちなさ、両方持っている作品であったけども、前者が冴えていたのはとても良いことだと思っている。

 

 

・リーマンズクラブ
ベストエピソード:第8話『ブレイクスルー』

lastbreath.hatenablog.com好きになれるいいアニメであると同時に、どうも飲み込みきれない引っ掛かりがある作品でもあって、でもトータルで思い返せば見てよかったと思える。
そんな作品であった。
ここのモヤモヤ感は主役コンビが超えるべき”リーマン”の障壁としての専務、”バド”の障壁となる琢磨の描き方が、共に敵ながら天晴と思えるような爽やかさと格のない、戯画化が効きすぎた存在として僕に受け止められた事が大きい。
今までの話全部をぶつけて乗り越えるべきラスボスは、やっぱどこか敬意を抱けるデカい存在であって欲しいし、主人公が描ききれないテーマの影をしっかり背負って、倒されることでお話を完成させるような納得と存在感を求めたくなる。
正直、バドリーマン達がその総決算として挑む2キャラクターにはそういう靭やかさは感じ取れず、主役は深く彫り込みつつ、その対手となる存在……敵味方両方揃って描ききれる選び取ったテーマの扱いに、瑕疵が残る作品かな、という印象になる。

この第8話で佐伯兄弟を主役に描かれるのは、具体的に誰かを倒すということではなく、色々あってこんがらがった思いをどう未来に繋げて、変わっていくものと変わらないものをどう切り取るか、というお話だ。
それは例えば、ラスボスたる琢磨とその兄の因縁であったり、ライフステージの変化を全部飲み込みながら進んでいく”実業団”の姿であったり、サブキャラクター主演のエピソードとして強い仕上がりであり、同時にそれを越えた視野の広さも備えている。
多分この強さと広さでもって、この先に続く終盤戦を描いてほしいという気持ちがあったから、それが叶えられない(と僕は感じた)物語に、燻るものがあるのだろう。
竹田さんのサラッとした引退の書き方、その先にあるコーチとしての人生が俺は結構好きで、たとえ競技者として一つのケリを付けても同じ職場で人生は続いていくし、『バドミントンだけが仕事じゃないけど、バドミントンは幾度も人生を賭けるに足りる』という主題の切り取り方は、彼が椅子を譲った形になる碓山さんの描き方と合わせて、とても”実業団”的だと思う。

この話数に漂ってる不思議な爽やかさは、逆説的に敵が自分の中にあること、具体的に打ち倒すべき誰かにはないことが、実は担っているのかなと、最終話まで見終わって思う。
なまじっか具象として形になったものを倒す時、それが十分な反発力を備えていない(ように見える)と、力を尽くして描ききった感じが抜けてしまうことも、またあるのだなぁと、お話の決着を見届けた今、感じるものがある。
この話数で描かれる主役以外の群像が、力みが抜け横幅広く、僕にとって作中一番心地よく描けるのは、なにか形ある勝利の手応えを背負って、誰かを打ち倒さなければいけない主役の重責がないからかもな、と。
その難しさを越えて、打倒するに相応しい”悪役”を生み出すのも作劇の重点であろうが、それが僕の基準で満たされていないとしても、この話数の仕上がりが鈍るわけでもない。
色んな難しさを感じつつも、キャラクターは基本好きになれるものであったし、鋭い作画力に支えられ競技の特色、その熱量もしっかりと伝わった。
移りゆく群像が、それでも答えを掴むに足りるバドミントンという競技、会社という組織の描き方は、やっぱこの話数が一番いいかな、と思う。