イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

柳春霖に濡れて緑 -2023年1月期アニメ 総評&ベストエピソード-

・はじめに
この記事は、2023年1~3月期に僕が見たアニメ、見終えたアニメを総論し、ベストエピソードを選出していく記事です。
各話で感想を書いていくと、どうしてもトータルどうだったかを書き記す場所がないし、あえて『最高の一話』を選ぶことで、作品に僕が感じた共鳴とかを浮き彫りにできるかな、と思い、やってみることにしました。
作品が最終話を迎えるたびに、ここに感想が増えていきますので、よろしくご確認を。


うる星やつら
 ベストエピソード:第5話『愛と闘魂のグローブ/君待てども…』

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 と言いつつ、来年後半戦をやるアニメからスタートとなるわけだが。
 小学館の金看板を4クールの長尺でリブートする一大計画は、あくまでアレンジ少なめ”原作そのまま”の昭和力で、ドタバタ騒がしく駆け抜けていった。
 つまりは色々細かく手を入れて、今の時代に通じるようエピソードを選び描き方を考え、時に価値観も描き方も当時のまま、時に時代が経てばこその技芸を混ぜ込んで新たな味わいで、作品とキャラの魅力を伝えるよう熱のこもった、とても良いリブートだったと思う。
 とにかくメチャクチャ数が多い連中を舞台に上げて、大体の世界観、空気感が伝わった後半戦どういう描き方をしてくるのか今から楽しみであるが、そう思えるのもこの前半戦、久々に出会う””うる星やつら”の楽しさをしっかり作ってくれたおかげである。

 久方出会い直してみると、こちらが年を取っているのもあってコッテリしたカオスや愉快な騒々しさよりも、そんないつもの長子が少し落ち着いて若い純情が顔を出すエピソードに、なんとも言えない良さを感じた。
 話数がまだ少ないこのタイミングで、『俺たちはこういう絵筆で、ラムとダーリンの物語を積み上げていく』という宣言として、傑作エピソードの強さを損なうことなく、新たに見事に描ききった””君待てども…”は、令和の”うる星”を信頼する足場をしっかり整える、優れたエピソードだった。
 僕はアニメの中の情景が好きなので、このお話の夕日がとても綺麗だったのは大変良かった。
 こういう人間の地金が出るエピソードにしっかり力が入るからこそ、どこまでも明るく楽しくバカバカしくぶっ飛んでいくお話に不思議な安定感が生まれ、繰り返す日々に安心もする。
 そして湿り気の強いメロウなお話が、何もかも終わらせる”答え”にならずに狂騒が続いていけるのは、シリアスな重たさを元気にぶっ飛ばしている脳天気なお話の仕上がりが良いからだ。
 多彩で多角的な、何でもありでいて奇妙に懐かしい”うる星やつら”の面白さは、まだまだいろんな魅力を見せてくれるだろう。
 来年再びやってくる物語に、信頼と期待をしつつ半年の放送を噛みしめる。
 間違いなく、とても良いアニメだった。

 

 

・大雪海のカイナ
 ベストエピソード:第2話『雪海の王女』

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 ポリゴン・ピクチュアズ設立40周年記念作品”大雪海のカイナ”は、とても良い……好きになれるアニメだった。
 作り込んだ異世界を冒険して回る筋立ても、主役たちの純朴で真っ直ぐなキャラ立ても、それを活かすプレーンでベーシックな話作りも、どれも肌にあった。
 その実直な素朴さは時に人を選ぶかもしれないが、古き英雄譚、懐かしき冒険譚の匂いをしっかり受け継ぎつつ、新規なヴィジュアルで見ているものの心を奪い、毎回楽しませてくれたのは、とてもありがたい視聴体験だった。
 俺はこういう、どっしりベタ足で真っ直ぐな打ち込み繰り返すお話が好きなのッ!

 そんなお話の足取りは第1話、天膜の暮らしを丁寧に追いかける描写から既に香っていたわけだが、そうして整えた足場を最大限活かしてお話が飛翔を始めるのは、この第2話からと言えるだろう。
 とは言うものの話に派手さは薄く、救国の運命を背負って天上にたどり着いた王女が、期待外れに当たり前の暮らしをしている人々と触れ合い、空の少年と心を通わせ、新たな冒険に旅立つまでの話なんだけども。
 しかしそこで描かれ手渡される衣食住の手触り、地道に作り込まれた生活文化の手応えこそが、やっぱりこのお話の魅力であり強みなのだと、終わってみると強く感じる。
 飯食って自分の足で前に進んでいく、人間の等身大を色んな角度から、色んな情景や文化と絡めながら描き続けるこのエピソードの粘り腰は、最後まで消えることなく作品に根付き、大きな花を咲かせてくれた。
 その種子が映画という新天地で新たに芽吹き、大好きになれたカイナくん達の物語ともう一度出会えるというのは、とても嬉しい知らせだ。
 10月、大変に楽しみである。

 

・REVENGER
 ベストエピソード:第5話『Love Never Dies』

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 『もう一つの歴史を辿った江戸時代……』という枕詞を盾に、トンチキ時代劇に濃いめのブロマンスをぶち込みやりたい放題やりきった、見事なアニメであった。
 キャラはとても立っていたしインモラルな作風でのくすぐり、乾いたロマンティシズムの扱い、時に露悪的であけすけな切なさの作り方、どれも良かった。
 何をどう見せどう食わせるか、自覚的な作風を最後までしっかり制御して、『正義の殺し』の欺瞞性に気づきつつもそれに縋るしかない、弱くて強い人たちがナガサキ・スプロールでどう生きて死んでいくかを追う、大江戸サイバーパンクとしても面白い仕上がりだった。
 全体的に色気が濃いので、もう少し整った作風にしても良さそうな所で、ボンクラ力の高い大江戸オーパーツが毎回顔を出して、ツッコミどころ多めテンション高めのまま走りきれたのも、自分の強みをぶん回した感じがあって良かった。

 んでベストはこの話数なのだ、理由は僕が乱歩好きだからである。
 仕事人の歪な倫理とはまたちょっと外れた所に立ち、だからこそその真相を冷酷に浮かび上がらせれる鳰にフォーカスしたこのお話は、醜さと美しさ、正しさと過ちの境界線に心地よくフラフラ揺れながら、利便事屋稼業がどんなものか、しっかりと削り出してくる。
 『正義の殺し』に酔った痛快エンタメなのかとここまでの話数で、アニメを受け入れる腹が仕上がった所で、素人づくりのシステムは穴だらけだし、高く掲げている気持ちの良い理念は薄っぺらい金看板でしかないと、しっかり告げる話でもある。
 ここで鳰が突き出した作風へのカウンターが、『正義の殺し』を今掲げる意味合いを内省する足場となって、『主役がやってることは、主役がやっているから正しい』というトートロジーに溺れず、巧いこと作中描かれるものを相対化出来ていたと思う。
 やっぱこのくらいのタイミングで、一度強く打ち出した『この話はこういう話です!』という主題を大きく揺らして、自分たちが何を描くのか話数使って考えていく足場を作ってくれる作風が、僕は好きである。
 この乾いた客観で作品を乾燥させきらず、じっとり湿った情感や悲惨、モチーフ選択と描線に色濃く匂うフェティシズムにも力を入れたことで、思いの外バランスの良いお話になっていた。
 愛に狂い愛に死んだ堂庵おじさんの生き様も鮮烈で、大江戸サーカスのボンクラ力も高く、ド外道を闇から抹殺する”必殺”基本構文からは外れるものの、だからこそこのお話らしい香りが濃く宿って、大変好きなエピソードだ。

 

 

 

TRIGUN STAMPEDE
 ベストエピソード:第3話『光よ、闇を照らせ』

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 思い返すと、相当野心的なリブートであったと思う。
 キャラクターの造形や役割、配置は全体的に変わっているし、作品のテーマは重く暗い方向にフォーカスを変えているし、特徴的な強めのケレン、八方破れの心地よい大騒ぎ感は抑えられ、主役のヴァッシュにいいことなんにもなし。
 キリスト教色を強めたモチーフ選択を全面に押し出し、子どもが子どもでいられないこの世の果てで、誰かを食いつぶすことでしか生きることを許されない罪人たちの業の押し付けあいが、重苦しく踊る。
 しかし考えてみれば”トライガン”はそういう話”でも”あって、そういう”だけの”話ではもちろんないけども、原作を良く見た上で大胆に全てを変えてきた挑戦は、僕にとっては心地よいものだった。
 そして迎えた第0話、全ての起点となるロスト・ジュライをああいう形で描いて、完結編が待っている。
 こういう角度で”トライガン”を書き直した理由を納得するには、必ずそれを見届けなければ終われないわけで、今から大変楽しみである。

 そう思えるようになったのは、この第3話が一切容赦なくヴァッシュを打ち据え、罪の大地に叩き伏せたからだと、今になって思う。
 このお話までの第一章、前半がややライトでソフトな、しかし惑星ノーマンズ・ランドの息吹をしっかり伝えてくる手触りだったのが、マインの登場で陰惨に反転し、その死……ナイヴズ顕現で闇の底に引きずり込まれていく。
 この落差と勢いが、弱々しい印象に変わったヴァッシュを筆頭に、可哀想な子ども達を延々苛み続けるサディスティックな作風を、腹に収める上で大事だったと思う。

 そしてジェネオラロックという街それ自体を切り刻み、残酷な神のように人間を超越するナイヴズの、圧倒的なスケール感。
 Orangeが持つ表現力はコミカルな息抜きの場面、メチャクチャお辛い現実に色んな人が顔をゆがめるシーン、そして巨大な質量がダイナミックに動く場面で、特に冴えていた。
 『俺たちはそうして作り上げたものを、こう活かして話を作る』という挨拶として、ミリオンズ・ナイヴズというキャラクターの自己紹介として、素晴らしい惨劇だった。
 悲惨と圧倒に殴り倒され、作品をしっかり理解れるお話が”三話”というタイミングで来てくれたことが、STAMPIDEの野心を自分が受け止める鍵になってくれたのは、間違いないだろう。

 

 

・D4DJ All Mix
 ベストエピソード:第8話『アイトソラ 』

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 人間の手触り……みたいなものを創作物であり絵の集合体でしかないアニメの中、どこに感じるかというのはそれなりに難しい話で。
 この話数をベストに選ぶのは、僕が明るく楽しくライトに楽しめるお話の中に何処か、地に足がついた重たさがないと作品に入り込めない気質をもっていて、その手応えをこの話数(もっと言えばこの前後のPhoton Maiden三部作)が差し出してくれたからだ。
 何しろ人数多いのでキャラたくさん出してドタバタとハッピー山盛りで明るく元気に! という取り回し方も出来るし、そういう多幸感を手抜きせずしっかり作り上げてくれたお話でもあるんだけど。
 同時にそれぞれの環境でそれぞれの夢を追って、仲間と共に進んでいく道には苦労やら決意やら喜びやら、色々生っぽい手触りのものも宿るだろうと、勝手に期待してしまう。

 All Mixは結構そこに気を配ったお話で、ユニットそれぞれの悩み方や乗り越え方で、当たり前に苦しい青春をどう走り抜けていくか、自分たちなりの明るい色調でしっかり書いてくれた。
 第5話あたりから連なっていくこの手応えが、ユニットとしての”らしさ”を混ぜ合わせながら新しい自分と出会うこの話数で、一気に飛び出す感じがあるのだ。
 Lyrical LilyとPhoton Maidenがどういう音楽集団で、そのメンバーがどういう女の子なのか、新たに出会わせてくれるお話だったのも凄く良かった。
 『この子はこういう子』と、キャラ萌え商売に慣れた舌がナメてかかってくるところを真正面からぶっ倒して、意外ながらなるほどと納得できる新たな顔をいくつも教えてくれて、みずみずしい喜びがあった。
 衣舞紀が咲姫ちゃんをずっと見守り見つめ続けて、出会えた奇跡を凄く大事にしている様子が細やかに切り取られることで、彼女たちのことが良くわかる話数だった。
 そういう新たな喜びを、記号論のど真ん中に立つ二次元美少女に練り込む手応えを見つける瞬間、僕は『萌えアニメ見ててよかったな……』と強く思うのだ。

 

 

・もういっぽん!
 ベストエピソード:第1話『いっぽん!

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 これから描かれる物語に強い期待感を抱ける第1話というのはいつでも良いものだし、そこで描かれた風景に最終話で戻ってきて、お話が一旦幕を閉じた後も続いていくキャラクターたちの青春を、信じられる終わり方をしたのならなおさらだ。
 だからこのベストエピソード選出は、最終話『もういっぽん!』との合わせ一本なのだと思うけども、始まりと終わりを最高だと感じられる物語はつまり、その全てが面白かった、という事でもある。
 自他共栄の理念をJKらしいおバカ加減で体現する、魅力的な主人公を作品の柱にして、味方も敵も全部ひっくるめて描き、抱きとめたお話には、良い所が沢山ある。
 勝ち負けにこだわればこそ生まれる心の軋みや炸裂する喜び、それを超えて広がっていく人生の展望と新たな絆、本気だからこその悔しさと嬉しさ。
 ”部活”を描くということにとても自覚的で、柔道を通じて自分のあり方を教えてくれる大事な誰かと出会い、全力でぶつかりあってかけがえない自分を削り出していく特別な季節を、眩しく描いてくれるお話だった。

 成長の描写がうまいので、この第1話で動き出した関係性や感情、いまだ未熟な実力がどう育ち、花開いていくかの起点としても、かなり意義深いエピソードだ。
 主人公が柔道やめようと思うところから始まり、それを彼女の天真な生き様に救われていた仲間がすくい上げ、絡め取られ、勢いよく伸びていく青春の大樹。
 それがグングン育っていく手応えが、武道場だけではなく帰りのファミレスとか、練習終わりの部室とか、当たり前で普遍的な景色の中にしっかり宿っていると、感じられるのはこのスタートが良いからだ。
 負けは終わりではなく、勝ちは完成ではなく、もっと楽しくより善い自分を求めて皆で進んでいく、道の途中。
 口幅ったい道場訓から距離を取りつつ、キャラクターの生き様とお話の語り口それ自体が、武道の正中を堂々突き進んでいるのは、言動一致の見事な姿勢で、凄く心地良かった。
 特に構えることなく、未知たちの汗臭くも眩い青春を見守っている中で自然、テーマに選んだものが背負う大きな価値が身近に染みる。
 そういうお話を描くのはおそらく見た目より大変で、しかししっかりとやり遂げてみせた。
 とても見事な、好きになれるアニメだった。

 

 

 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン
 ベストエピソード:第22話『天国の時! 新月の時! 新(ニュー)神父!』

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 ……このイカれたサブタイトルな話数がベストなの、なんだかヘンテコな気分であるし、極めて奇想天外な冒険を繰り広げた六部にふさわしい感じもあるし、なかなか複雑な気分である。
 全3クールに及ぶ長い旅が終わり、”ストーンオーシャン”のアニメが完結した。
 最終話の特殊OP/EDに示されているとおり、10年前にアニメとして動きだしたジョースターの血の物語が、世界新生を経て一つの決着にたどり着く区切りとして、原作で描かれているものを全身全霊で受け止めた、優れた力作だったと思う。
 まぁワケ分かんねぇ所も原作そのままなのであるが、その訳のわからなさも含めてジョジョなのだとハラを決めて出会い直す”ストーンオーシャン”は、初読時には気づかなかった面白さと魅力があって、そして好きなところは変わらず魅力的で、38話見届けるに足りるパワーがしっかりあった。
 ある意味一巡したあとの記憶を持って見届ける旅だが、アニメスタッフが新たな表現で掘り起こす魅力に出会い直したり、意外な部分に心動かされるパワーを感じたり、けして同じ繰り返しにはならなかった。
 作品の内部にある奇妙な冒険と、それを外側から読み解く僕の足取りが、不思議に重なるありがたさがこのアニメにはあって、新鮮で懐かしい手触りを楽しませてもらった。

 そういう出会い直しの中で、一番深く心に刺さったのはF・Fの生き様だった。
 ただの少女が歴戦の戦士と目覚め、殺人鬼が愛を知り、無力な少年が血筋を越えた決着を背負うこのお話、”変化”はかなり重要なテーマとして扱われていたように思う。
 ラスボスが知性を授けたただのプランクトンは、人の形を手に入れ徐倫たちと共に過ごす中で思い出を手に入れ、気高い勇気を未来に繋いで散っていく。
 彼女が最後まで守り抜いた知性とは、つまりは優しさから生まれる強さなのだと、幾年かぶりその死に立ち会う中で直感して、僕は”ストーンオーシャン”のアニメが自分にとって、ただの原作再放送ではないことを強く思い出した。

 眼の前で書かれていたのに気づけないもの、出会った当初はピンとこなかった意味合いが、年月と変化を重ねて新たに光りだす瞬間というのが、確かにある。
 それは初見時稲妻に打たれたように心動かされる感動と同じくらい、やはり意味のあるもので、それを与えてくれる作品には力がある。
 本気で偉大な作品に向き合い、今自分たちが描くべきもの、描けるものはなんなのかを必死に考え抜いて、形にしたからこその力が。
 F・Fの死を描くこの話数は、その残響がアナスイに及ぼした影響を初読時よりも強く追いかけながらこの先を見れたありがたさも含め、自分にとって大切だ。

 そういう出会い直しの喜びだけでなく、人であることの意味を命がけで体現した一つの命の終わりの、真っ直ぐでシンプルなら力強さにおいても。
 物語の決着からかなり離れた中盤の山場で、真の”覚悟”とはいかなるものか、F・Fがどんな自分を最後に選んだかは、雄弁に語っている。
 曲がりくねった道程の途中にこそ真実の答えがあるのだと、ずっと告げているジョジョらしさの体現としても、このエピソードはやっぱりすごく好きだ。



・UniteUp!
 ベストエピソード:第12話『繋がらないと』

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 ぶっちゃけ、UniteUP! というアニメとの向き合い方はそれなり以上に難儀した。
 僕は牛嶋新一郎って人の作る絵がすごく好きで、その情景に宿るナイーブで微細な感覚をたっぷり接種したくて、このアニメを見始めた。
 ……わけだが、そういういい雰囲気のエモさに執着した結果か、トータルとしてかなり歪なバランスでゴロゴロ転がっていって、描いているものを素直に受け取るためには幾つか足らないパーツがある、自分を語りきれていない歪さが、話数を重ねるほどに積み上がっていったように思う。
 このアンバランスが極限に達するのが第6話で、アリモノのアイドル物語に必要な困難と不手際を急に貼っつけて展開するぎこちなさに、かなり強めの言葉で文句たれてる記録が、このブログにはたしかに残っている。
 他にも色々危うい部分はあり、なんでこのエピソードが貴重な尺を使って存在しているのか飲み込めない話だったり、あざとさが表層を上滑りして奥まで染み込まない描写だったり、自分の見たい夢となかなか噛み合わない歪さを、自分なり噛み砕いて飲み干す手間が必要な、なかなか厄介なアニメだった。

 そしてそういう手間をわざわざ取りたいと、思わせる魅力のあるアニメでもあった。
 ベストと悩んだ第3話、瑛士郎くんの超絶熱血おバカっぷりで『あーあーこういう感じね……だったらイケる!』と、自分なり調子を掴んでそれを頼りに、アイドル達の悪戦苦闘(というほど、ハードコアな試練が分かりやすく襲いかかってこない柔らかさがまた、この作品の特徴であり難しさでもあるけど)に付き合ってこれた。
 それは先述した圧倒的な情景の良さと、時折熱を持って炸裂するアイドル達のドラマと、キャラクターごと嘘のない悩みと願いが入り混じって、独自の魅力を生み出していたからだ。

 その真中に、一番分厚い物語的リソースを与えられて立っていたのはやっぱり明良くんであり、その旅路がどう決着するかをまっすぐ語ったこの最終回があるから、自分的に色々あった12話をそれでも楽しい思い出と、記せるのだろう。
 何しろ主役が”アイドル”に出会うまでで4話、相当遠回りでヘンテコな足取りをわざわざ選んで構成された物語、取りこぼすものはたくさん会った……と、僕は感じる。
 その上で最終話『この話は、一人の少年がヒーローに為る道へ踏み出すまでの記録だ』と教えてくれたことで、色々納得がいった。
 最後の最後、色んなぐだぐだを吹き飛ばすほどのプロっぷりを圧巻のステージ(を生み出す、造り手たちの実力証明)で感じられたのも、心地よい読後感に繋がっている。
 『終わりよければ全てよし』と言えるのは、もちろんエンドマークに何を綴るか次第であるけども、そこに至るまでの色んな足取り全部があって、『よし』な終りを迎えられるのだという、幸せな実感のある最終回だった。