イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

話数単位で選ぶ、2022年TVアニメ10選

 矢のごとく飛び交う時をかき集めて、気付けば一年総ざらいの大晦日でございます。
 恒例の10選企画、今年もやっていきます。
 集計は aninado さんにやっていただいております。ありがとうございます。

 

・ルール
・2021年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

 

クールごとの各作ベストエピソード選出と総評はこちらから。

山茶花、別れを告げて散る -2022年1月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

茅の輪くぐれど汗引かず -2022年4月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

松虫暑気を送る -2022年7月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

蝋梅寒風に芳し -2022年10月期アニメ 総評&ベストエピソード- - イマワノキワ

 

 

・ヒーラー・ガール:第5話『空は青くて山は緑、川の戦い銀河ステーション』

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 意欲に満ちたオリジナルアニメが元気だと、古い気質のアニオタである自分の心は、やはり別格の嬉しさを覚える。
 ビッグバジェットに支えられた話題作が規格外の大ヒットを飛ばす裏側で、刺さる人には深く刺さる、ディープでコアで丁寧で誠実なアニメが僕の隣にあってくれると、なんというか……置いてけぼりにされている感じを和らげることが出来る。
 ”音声治療”というトンデモネタをSF日常劇に見事に昇華したこの作品は、同時に人生と世界の素晴らしさを高らかに歌い上げる見事なミュージカルでもあって、この第5話はそんな『讃歌としてのヒーラーガール』の実力が、一番良く出ているエピソードだと思う。
 ふるさとの景色も、家族の温もりも、少女たちに広がる未来も、音に満ちてあまりに美しく、朗らかな笑顔に満ちている。
 そんな未来像を前向きに信じ続け、しかしありきたりではない筆先で見事に描きぬいたこのアニメが、今年あってくれたこと。
 それは自分にとって、とても嬉しくありがたい収穫だった。

 

 

・薔薇王の葬列:第24話『Requiem of the Rose King』

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 奇っ怪で、エグみが強く、視聴のための必要な知識が複雑で、陰惨かつ重厚。
 絶対に一般受けはしない作品であるが、しかし奇想に満ちた歴史伝奇としても、社会と家庭の呪いに深く傷つけられなお必死に生きた人間の叙事詩としても、自分に強く深く刺さる作品となった。
 目を覆いたくなるような謀略と惨劇、剥き出しのセックスと欲望がえげつなく露悪に思われ、しかしそれを扱うことでしか描けない暗黒の中の光が、薔薇戦争の秘された真実を追う歴史ロマンのなかに、じっとりと薫っていく。
 天使であり悪魔でもあった……あるいはそのどちらでもなく、ただ人間でしかなかったリチャードが追い求め掴めず、あるいは掴んでいたのに手放してしまった数多の夢。
 それが決着する時、白薔薇の墓碑はあまりに悲壮で美しい。
 耽美……とひとくくりにしてしまうと、この作品が刻み込んだ切実で愚かな人の有り様を置き去りにしてしまう感じもあり、ただただこう終わるしかなかった人間必死の一代記として、とても良いアニメだった。

 

 

・デリシャスパーティ♡プリキュア:第21話『この味を守りたい…!らんの和菓子大作戦』

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 大きい物語としての”デリシャスパーティ♡プリキュア”がどう完結するかは、今クライマックスの真っ最中であるから評価不能として。
 おいしーなタウンというローカルな場所を大事に描き、そこで積み上げられていく少し懐かしい価値観に立ち返った一個人の成長記録としては、このプリキュアはとてもコンパクトで、小さな歩みを確かに積み上げてきた。
 非日常に選ばれた戦士であり、同時に思春期を自分の脚で歩いて行く一少女でもあるプリキュアには、個性がありそれぞれの痛みと悩みがあり、愚かで未熟だからこその発見と成長がある。
 そんな一番基本的で大切な足取りを、”バカ”だからこそ生まれる勇み足と変化を、一番強く刻んでいたのはらんちゃんであり、このエピソードだったかな、と思う。
 自分に見えているものこそが正しいのだと狭く思い込み、突っ走って周りを引きずり回し、新たに叩きつけられたものに目を見開いて、新たに自分と世界を見つめ直す。
 独特の言語感覚と世界認識で、社会との間にズレを感じ続けてる”ヘン”な彼女が気付かされた、終わっていく世界の否定しえぬ真実。
 それでもなお、終わり得ないものを継いでいく道にしっかり目を向けさせた、ポジティブな未来への視線含めて、ジュブナイルとしてのプリキュアの一番いい所が、この話数には強く刻まれていると思う。

 

 

 ・ラブライブ!スーパースター!! 二期:第7話『UR 葉月恋』

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 『虹ヶ咲学園二期も、他に冴えたエピソードもあるのに、よりにもよって”コレ”!?』と言いたくなる気持ちは解るし、自分の中でもそういう声がよく響く。
 その上で放送から四ヶ月、”あの”最終回を経て思い返してみると、この話数かなと思う。
 Liella!の物語は前人未到のTV放送第3クールに突入する……ことを前提に、かなりいい感じで好きにもなれた二期を全部ひっくり返すようなクリフハンガーで終わった。
 見終わった当時は評価不能と棚上げするしかなかったが、しかし明らかに物語的リソース配分に恵まれず、作品に己を刻む意義が弱かった葉月恋が二期の物語を、この当番回を通じて自分の中、どういう存在になっているかを思い返した時、当時自分が感じていたより大事なエピソードなのだな、と思えた。
 このトンチキ極まるヘンテコなお話を通じて、恋ちゃんが確かにLiella!の一員で、奇妙にこわばったところがありつつ、それでもそれだからこそ仲間とファンに愛される女の子なのだという納得が、確かに育まれていた。
 ”ラブライブ!”の本道に帰還しつつ、貪欲に新たな挑戦を続けるこの物語が思いの外、作品世界の中で確かに生きている少女たちを好きにならせてくれるお話なのだと思い返すことで、ここから先まだ続いていく物語を中身見る前から決めつけたり、諦めたりする必要はないと信じられる。
 そう出来ることは、なんだかんだ”ラブライブ!”とこのアニメが好きな自分にとっては大切なことなのだ。

 

 

・ルミナスウィッチーズ:第10話『故郷の空

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 ありがとう、ルミナスウィッチーズ。
 このアニメを見終わった時感じたのは率直にそういう気持ちでああったし、それは終わって暫く経つ今も熾火のように、胸の奥で静かに燃えている。
 RtBで正伝として語りうるものに必死でかじりつき、語りうる限りを語りきった後何を描くかと思っていたが、佐伯監督の作家性を過去一番色濃く、ペーソスと詩情豊かに歌い上げる青春の合唱曲が見事に綴られ、大変にありがたく、素晴らしかった。
 第9話ラストであまりに人間味豊かに描かれた、英雄ではない私の埒外で勝手に救われてしまった故郷への、エリーの震え。
 それがどこに行き着き、何を生み出し、どう取り戻されて再び誰かに手渡されていくかを、専科の爪痕が色国残る廃墟を、そこに確かに宿る思い出と命を追いかけながら、この話数は丁寧に描く。
 それは飄々と地金を見せなかった少女がどんな思いを込めて生きてきたかを、501の外側で確かに生きていた数多の人達の生き様を反射しながら、プリズムのように活写していく。
 この話数で描かれるエリーの生き様がラスト、主人公の気高く力強い決断とともに第11話に繋がり、全てを豊かに歌い上げるフィナーレへと繋がっていく構成の豊かさと併せて、圧巻のエピソードである。

 

 

ヤマノススメ Next Summit:第6話『ひかりのデート大作戦!/みんなでホワイトクリスマス!』

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 異様な作画力と気合に満ちた作品がわんさと集い、後にアニメ的特異点と語り継がれること間違い無しの22年10月クールの中でも、ヤマノススメ四期は奇っ怪にして異様な覚悟が滲む、格別の物語であった。
 クリエーターごとの個性が強く滲む画作り、登山シーズンを外れているからこその豊かなバラエティを、富士登山リベンジという明瞭な結末を見据えてしっかりまとめ上げ、山がそこにあるということ、季節ごと場所ごと個別のまばゆさと存在感を持っている事実に、アニメという絵空事で挑む。
 総身に覚悟と実力が満ちていなければ実現不可能な難行に挑む足取りはしかし奇妙に軽くて、青春日常モノとしての可愛げと爽やかさ、颯爽たる明るさに満たされていた。
 ライトでポップな歯ざわりと、その奥に確かに宿り、隠れることを知らない異様な”力み”。
 ヤマノススメヤマノススメたる部分が、今まで以上にブン回るシリーズとなった。
 そこでこの話数を選ぶのは、無論前半濃厚に刻まれる一人の女の情感があんまりにも濃厚かつ強烈で、傷心を年下の女に預けることでしか秋に溶かすことが出来ない難しさとズルさが、なにより鮮烈に描かれていたからだ。
 NSを『富士山にもう一度登る話』として見るなら、本筋に絡まぬ迷い道ともなりそうな話であるが、しかしむしろここに描かれた濃厚で複雑な感情の綾錦と、それをあまりに美しく包み込む情景の豊かさこそが、何よりも”ヤマノススメ”であり、遊んでもらっているようで甘えられ、受け止めているようで便利に使われてもいる不思議な間柄の滋味をあおいが噛みしめる瞬間にこそ、ヤマが教えてくれるものの本質がある。
 そう思える回である。強すぎる……。

 

アイドリッシュセブン Third BEAT!:第21話『絆と約束』

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 僕はMEZZO"が好きだ。
 なので彼らが辿り着き追い込まれ、突破し新たに進みだした風景を情感豊かに、静物の暗喩性を最大限活かした、とてもアニナナらしいこの話数が好きだ。
 厄介事を引き起こし、兄貴分に手を引かれるばかりだった環は気付けば相棒を導き、守り、溢れる思いを誰かのかわりに伝えられる存在になっていて、物分かりの良い賢い壮五は、そんな環から漏れ出る子どもっぽさに当てられ自分の中のそれを甦らせることで、真実守りたいものを心から叫ぶ道へとたどり着けた。
 そんな相互作用を、行ったり来たりを繰り返しながら確かに進んでいく、明暗半ばしなにもかもが裏腹な物語は幾度も語る。
 MEZZO”だけが祈りが呪いになって、愛ゆえに憎しみが募っていく理不尽な世界を生きているわけではないけども、しかし確かに、彼らはそこに今生きている。
 このエピソードでたどり着けた場所からまた、薄暗い陰りに戻ってまた這い出して、物語は続いていくのだろう。
 その時もまた、この鮮烈な筆先で人が生きる意味を一つづつ、繋げてお話を編んでくれるだろう信頼感を確かにしてくれた意味も含め、とても良い話数である。

 

 

機動戦士ガンダム 水星の魔女:第9話『あと一歩、キミに踏み出せたなら』

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 ”ガンダム”という金看板をこの先も続く、生きたコンテンツとして再生させるべく問われた”水星の魔女”は、果たして傑作であった。
 鮮烈で同時代性のあるテーマ・モチーフの選択、的確なストレスコントロールと省略の妙味、予想を裏切り期待を越えていく作劇のうねり、魅力的なキャラクターと刺激的な構築。
 年明けに待ち受ける第1クール最終話こそが、圧倒的な炸裂となって”ベスト”に相応しい予感を強くはらみながらも、シャディクとミオリネの思いが強く弾けるこの話数は、とてもこのアニメらしい仕上がりだ。
 この話数以前から明に暗に、重要な演出モチーフとして扱われてきた温室……閉ざされた境界線に相手を入れる/入れないという選択に宿る心象が、演出的凶器とすら言える鋭さで二人の距離感を語る。
 それは結局、アニメとしての面白さと強さ、的確に物語を焼き付ける演出の技法こそがこのお話をフックの強い、”今”に響くガンダムにしている事実を強く語る。
 それはコンテンツ・ビジネスからの要請であり、同時にただただ面白い物語を求める貪欲で原始的な欲求から/へと生み出されたものでもあって、そんな商品と作品の隘路を超音速で駆け抜けていく離れ業を、毎週見せてくれるのは恐ろしく、面白いことだ。
 どんな最終回で次に続き、どんな後半戦を描くのか。
 こんだけ凄い話をやってなお、”水星の魔女”は終わらない。多分、それが一番すごい。

 

・Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-:第10話『DIYって、どんぞこ?・いんぽっしぶる?・ゆうきとやるきがあればなんでもできる!』

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 一番簡単に思えることが、一番難しい。
 DIYはそういう事実にがっぷり四つに組み合い、自分だけの答えを描ききった、見事なアニメだった。
 OPで示唆されている幸福な結末に、たどり着くまで10話と少し。
 オタク記号論で切り分けるなら”ツンデレ”四文字に収まるだろうぷりんの思春期は、しかしそんな単純さとはかけ離れて複雑で、また極めてシンプルでもあった。
 愛すればこそ、素直になるのは難しい。
 アニメ美少女だけが悩むわけではなく、年齢性別立場を越えて普遍的な難しさを大事に思わばこそ10話、幼なじみと自分の中の幼さにどう向き合うのか、窓辺に立ち続けた少女の視線を主役が受け止めうる自力を、鍛えるまでどっしり積み上げる。
 DIYという古くて新しい営為に宿る意味合いを、そのありきたりの手触りをしっかりと残した上で、徹底的に彫り込む。
 己の手と意思で築き上げ、困難にもめげずにやり切り、己が成し遂げうる存在証明を確かにこの世界に残る形で作り上げていく。
 そんな体験を経てようやく気づけた、ずっと間近で自分を見つめていた視線。
 それを抱きとめる瞬間の幸福は、あまりに豊かだ。
 おめでとう、ぷりんとせるふ。
 おめでとう、DIY

 

 

・アキバ冥途戦争:第12話『萌えの果て』

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 萌えと暴力について。
 フカしやがって、というのが第一印象だった。
 暴力に支配された架空のアキバを、あの時代特有の空気感を的確に切り取りかつ進みだした物語において、”メイド”はヤクザの暗喩でしかなかった。
 ホワイトブリム武装した異形のヤクザ実録物語は、しかしブラックジョークとロクでもなさで笑わされているうちに次第に切実な色合いを帯び始め、イカれた世界のイカれた連中に、静かに愛着が生まれてきた。
 赤い超新星が見事に作品の方向性を示し、生きることと死ぬことの意味を狂ってるなりに大真面目に考えるお話だと解ってきたあたりで、段々と万年嵐子が好きになっていた。
 そんな女が人間に戻りかけ、奪われて死に、ひとり残されたなごみが踊る最後の決意が、この最終話にはある。
 全くハチャメチャでシニカルで暴力的で、軽薄で芯のない話かとナメていたらヤクザにもメイドにも、萌えにも暴力にもつくづく本気な話が最後に選び取る命の輝きと、死の鮮烈……その衝突を越えて、継がれる華。
 ラスト一分の見事な語りきりと、作品世界からつくづく浮いていた主役の見事な着地点に宿る、オリジナルアニメ特有の力強く爽やかな読後感。
 いいアニメだった。本当に。